3.2
話を聞きたそうな都を見て、ヘルルーガが薄紅色のクッションが置かれたソファへ案内してくれる。
腰を降ろした都の正面にヘルルーガも座った。
「ミヤコ殿の意思を確認せず魔界へ呼び寄せてしまったこと、深くお詫びする」
「いいえ、元々追手から逃げていましたし……というか、わたしの名前を知っているんですね」
「あぁ、すまない。弟から何回か聞いていたから、あなたに確かめずに呼んでしまった」
「それは別に構わないんですけど……弟……ヘルルーガ……ルーガ!? もしかして、バルドゥルのお姉さんですか!?」
「ご名答。われと話すときも弟と同じように砕けた口調で構わない。われは人族で言えばミヤコ殿と同じ年だ」
「へぇっ!? お、同じ年……」
都は思わず、またヘルルーガの豊満な胸を見てしまった。魔族と人との違いだと思いたかったが、同じ人でも胸の大きさは違う。
「ミヤコ殿はもっと自身を持っていい。胸だけが女の美を決めるわけではない」
前屈みになったヘルルーガが、都の長い黒髪を一房掴んで優しく取り出す。水色のふわふわとした髪が都の頬をくすぐる。
「ミヤコ殿の髪は、艶があって美しい」
「あ、ありがとうございますっ!?」
「ミヤコ殿。われと話す時は砕けた口調で良いと伝えた。われは恐ろしいか」
「い、いえ……ごめん。恐ろしいってことじゃなくて、ちょっと驚いちゃって……ヘルルーガは物理的距離が近いって言われない?」
「よくわからないが、話を進めてもいいか」
「ど、どうぞ」
ヘルルーガ曰く、彼女は魔王と水の精霊との間にできた子供らしい。水を操れるため、水があるところ限定で魔界と人間界を繋げる。都を魔界に呼び寄せられたのも、偶然都が水に浸かっていたから。
水があれば人間界と魔界を行き来できる。バルドゥルの家の裏庭にあった井戸も、魔界へ繋げられるらしい。
「な、なるほど。それでバルドゥルから話を聞いていたと」
「いや。いつもと同じ時間に戻って来なかったから不思議に思ってな、われが井戸から行ったのだ。そうしたらあの笑わない弟がニヤニヤとしていたから、問いつめてやった」
「バルドゥルは、よく笑顔を見せてくれるけど……」
「ミヤコ殿の前ではな。あやつは何人もいる魔王の子供の中で末っ子だから、笑わなくても皆が構う」
兄や姉たちにもみくちゃにされているバルドゥルを想像したら可愛くて、うっかり吹き出してしまった。
「中でもすぐ上のわれにはよく懐いている。何をするでも細かく相談してくれていたのだが……」
ちら、とヘルルーガが都を見る。バルドゥルの事を話すときのヘルルーガは、溺愛する弟を自慢する姉だ。そんなヘルルーガから見たら、都はどんな存在なのだろうか。
(……みこちゃんみたいに、邪魔だと思われているかもしれない)
「……わたしは、あと二十日もしないうちに元の世界に戻るから」
「なんだ、ミヤコ殿は戻るのか? 弟はミヤコ殿に気に入られていると思っていたが」
「そ、それはなぜ?」
「ほら、話しただろう? われは水が扱える。だから水がある場所なら、限界はあるが、外の様子が窺える」
「様子が、わかる……ということは」
「弟が世話になった。体調が悪くなっても回復は早い。しかし不調時にしっかりと世話をしてもらえると助かる。後遺症が残ることもあるからな」




