2.21
「女将さん! 誰か来ても、わたしとは関係ないって言って! 助けてくれてありがとう!!」
走り出した都を追うように、中華鍋が水平移動を始めた。誰にも捕まらないように、入り組んでいる路地を駆け抜ける。幸いにも開けた場所へ行けたが、目の前には魔物から人々を守る高い城壁があった。まだ少し時間は稼げそうだが、背後からは都を追う男性の声が聞こえている。
(どうする!? 近くの城門は!?)
素早く左右を確認するが、この場所は城門と城門の間らしい。どちらかといえば右の方が近いが、そこへ行くまでに追っ手が来てしまうかもしれない。
焦る都の頭上に、巨大化した中華鍋の影が落ちる。この場から逃げられればいい。そう強く願うと、中華鍋が都を掬い上げた。そして少々手荒に、都を具材のように炒めながら宙に浮いた。
(えっ!? 中華鍋って、飛べるんだ!? 確かに具材を跳ね上げるように炒めるけど)
何か口にすれば舌を噛んでしまいそうなほど機敏に動く中華鍋の中にいる限り安全かもしれないが、さすがに何回も体を打ちつけていては身が持たない。
都は中華の調理法を思い出し、詠唱する。
「灼!!」
詠唱が終わると同時に、水が中華鍋に注がれる。そしてあれだけ暴れていた中華鍋が意思を失ったように、スンと静かになった。
溺れそうになりながらも、都は中華鍋の中で立ち泳ぎをする。今は水だが、湯になる前に次の手を考えないといけない。風呂程度なら我慢できる。しかし灼は、生の材料を茹でて火を通す調理法だ。熱湯になってしまったら耐えられない。
いずれ熱湯になる水が入った、空を飛ぶ中華鍋から脱する方法。それを考えていた都は、突然現れた闇に覆われた。




