2.19
「バルドゥルさん。遅くなってごめんね? さき姉の介護をしてくれてありがとう。でもこれからは、みこだけに尽くしてね」
介護。それは病人を介抱するときにも使うが、この場合は都を高齢者だと言いたいのだろう。
(母子家庭だけど真っ直ぐに真面目に育っていて、偉いなと思っていたけど)
隣に住んでいたから、みこの世話を頼まれることもあった。母子家庭だから、みこの母親が稼がないと生活できない。真面目ないい子だと思っていたが、それは生き抜く術だったのだろう。恐らく今見ているみこが、本当のみこ。転移直後の、都の年を強調していたのもわざとだろう。
「わたしは、みこちゃんが招喚されたときに巻きこまれただけかもしれない。でも、バルドゥルと過ごしてきた時間が長いのはわたし。バルドゥルが好きだというのなら、きちんと彼自身を見てあげて」
「ねぇー、バルドゥルさん。耳障りな声がするんだけど。みこ、困っちゃう」
みこが、また自分の胸をバルドゥルに押しつける。それを憎らしそうに見つつ他の四人が何もしないのは、みこがバルドゥルを指名してお願いしているからかもしれない。みこに攻略されているからこそ、みこの意にそぐわない行動をしないのだろう。
「んー、ここまでお願いしてもダメかぁ。まだ親密度も上がってないからなぁ」
そう言いつつ、みこはバルドゥルの手を引く。そして屈ませたバルドゥルの耳元で、首に触りながら確信的に囁く。
「あの悪女を排除してくれたらぁ、みこの一晩をぉ、あ・げ・る」
語尾にハートマークがついていそうな甘ったるい話し方をするみこ。バルドゥルは一瞬だけ顔を赤くしたように見えたが、すぐにその赤みが引く。
バルドゥルが、ゆっくりと都に向き直る。が、その場から動こうとはしない。
「ちょっとぉ! これでもダメなの!? なんでぇ!?」
みこは必死に自分の胸をバルドゥルに押しつけ、耳元で都排除を囁いている。しかしバルドゥルは都を見るばかりで、その先は動かない。
(バルドゥル……)
バルドゥルと過ごした日々は、決して無駄ではなかったようだ。ゲーム補正なんかよりも、共に過ごした時間が絆を生む。
バルドゥルを人として扱わないみこよりも、自分の方がバルドゥルをわかっている。だから都が呼びかければ、正気を取り戻してくれるはず。そう思った。
「バルドゥル! 一緒にご飯を食べよう! 何が好き? 教えてくれたら、その食材で作るよ!」
都の言葉で、バルドゥルの瞳に光が戻った。しかしそれは一瞬で、みこに首を触られるとまた虚ろな目になってしまう。
バルドゥルを救えるのは自分しかいない。そう思って、バルドゥルを取り戻そうと手を掴んだ。その瞬間。
ぶぅんっと物凄い勢いで、バルドゥルから手を振り払われてしまった。その勢いに負けて思わず尻餅をつく。
「あはっ。おばさんが必死でマジウケる。あんな味が濃い料理なんて食べたら、バルドゥルさんが体調を崩しちゃう」
料理の腕前に自信がある都は、思わず聞き返してしまう。
「味が、濃い?」
「まぁ? 提供されたから仕方なく食べたけど、甘くない料理なんて食べ物じゃない」
何度かみこを預かっていた。その時に出したのは、甘酸っぱい、甘辛いなど一般的に有り得る味付けの物だ。料理で使う調味料も、みこのことを考えて少なめにしていた。
しかしそれはあくまでも都の考えで、みこには通じないのだろう。
「『おとつぐ』の世界を堪能するならさき姉が邪魔なんだけど……バルドゥルさんはまだ親密度を上げてないから、難しいかな。ねぇ、代わりに誰かやってくれない?」




