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世界最強の戦士と呼ばれていますが、欲しいのはそんな称号ではなくて。  作者: いとう縁凛
第二章 都、年下からロックオンされる
20/50

2.12


 遅くなってしまった朝食を食べ終え酒場を出ると、昨夜に雨が降ったのか道に水たまりができていた。そして疑似恋人をする目的、ザムゾンと目が合う。ザムゾンは頭を抱え込むようにして仰け反っている。

「これは神の奇跡かっ! 僕の目の前に、女神が降臨した!! おお、美しき僕の女神。どうかこの卑しい僕に、女神の祝福をいただけませんか」

 都の前に跪き、左手を胸に、右手を前に出している。仰け反ったり跪いたりと忙しいなと思っていると、都の前にバルドゥルが出た。

「申し訳ありませんが、ミヤコさんはおれの恋人です。今後、接触しないでください」

「何をバカなことを。僕の女神がお前のような顔だけ男に心を揺らすわけがない。一から出直せ」

「ミヤコさんの気持ちを疑うなんて、あなたの目は節穴ですか」

 そう言うと、バルドゥルは都の腰を引き寄せる。思わず悲鳴を出してしまいそうになったが、ぐっと堪えた。そして付き合いたての恋人同士のように、バルドゥルの手をぺちんと叩く。

「こら。急に引っ張ったらビックリするでしょ。ザムゾンさんに敵意を剥き出しにしなくても、わたしはバルドゥル一筋だから」

「ミヤコさん……」

 感極まったというような様子で、バルドゥルがガバッと抱きついてくる。それが余りにも強い力で、都は幼い子供をあやすように背中に回した手をぽんぽんと動かす。

「バ、バルドゥル。ちょっと苦しいかな」

「す、すみません」

「バルドゥルは人よりも力が強いってことを自覚してって、昨日も言ったでしょ?」

「は、はい……」

「は、反省したなら許してあげる」

「ありがとうございます!」

 一連の流れは、完全にアドリブだ。見る人によってはわざとらしいと言うだろう。しかしザムゾンには効果抜群だったようで、わなわなと震えながら「僕の女神がー!!」と叫んで立ち去っていった。

 都たちの演技と、ザムゾンの様子。その二つは人目を引いてしまったようで、周囲に人だかりができていた。急に恥ずかしくなった都は、バルドゥルの手を引いて路地へ逃げる。

 人の目がなくなったことを確認すると、ようやく様子のおかしいバルドゥルに気づいた。目の焦点が合っていない。顔の前で手を振っても正気に戻らず「柔らかい、細い」という言葉を繰り返している。人の目がなくなったことで、自分がしたことを実感してしまったのかもしれない。

「バルドゥル。バルドゥルってば」

 ゆさゆさと肩を揺らしてもまだ覚醒しないバルドゥルの耳元で、名前を呼ぶ。

「バルドゥル」

「っっ」

 瞬時に目に力が戻ったバルドゥルは、都と目が合うなり焦って水たまりで足を滑らせた。

 とっさに手を伸ばす。しかし都の力ではバルドゥルを支えきれない。

 その結果、バルドゥルに抱え込まれるようにして都も倒れてしまった。

「いったた……ごめん、助けられなかった」

「ミ、ミヤコさんは、どこか痛めていないですか」

 立ち上がり、傷みがないことを確認する。

「わたしは大丈夫。バルドゥルは?」

「おれも別にっ、も、問題ないです」

 バルドゥルが立ち上がる瞬間、一瞬眉間に皺を寄せた。勿論、それを見逃す都ではない。我慢しようとするバルドゥルに肩を貸し、路地裏にあった木箱に座らせた。借りている外套の裾が地面につかないように気をつけてしゃがむ。そしてズボンの裾をまくり上げ、どちらの足を痛めたのか確認した。


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