2.10
疑似恋人については、手を繋ぐときは指を絡ませないということだけ決まった。駄目なことがあれば、その都度決めていくということに。
決めたばかりの繋ぎ方をしながら、宿屋に送ってもらう。
「おやすみなさい、ミヤコさん。明日もクエストに行きますか」
「バルドゥルの仕事部屋を修復しないと。きちんと賠償しなくちゃ」
「わかりました。それでは、また明日迎えに来ます。おれが来るまで、待っていてくださいね?」
「わ、わかった。待ってる」
別れ際にきゅっと手を握られ、思わずドキッとする。バルドゥルの自宅で起きたことを思い出して緊張したが、それは杞憂に終わった。バルドゥルは爽やかな笑みを浮かべて帰っていく。
「ミヤコ、あの子と付き合っているのかい?」
「お、女将さん! いつからそこに」
「いえね、酒場を閉めて私も帰ろうと思ったんだよ? でも今出たら初々しい二人の様子を見られないと思って」
「き、気にしないでいただけたら」
「いやぁー、私も自分の若い頃を思い出しちまったよ。旦那もあんなに若々しかったのに、今じゃぁ」
腹部が膨れていると、女将がジェスチャーをする。それでもそれは嫌がっているというよりも、長年連れ添っているからこその夫婦の距離感のように思えた。
「うちは宿の部屋にも食事を持っていけるからね。二人きりで食べたい時は言っておくれ」
「そ、それはないですよ! ふ、二人きりだなんて」
「ははっ。初々しいねぇ。それじゃ、また明日」
「ま、また明日……」
思わぬ現場を目撃されてしまったと思ったが、前向きに考えることにした。疑似恋人なのだから、周囲にも都とバルドゥルが恋人だと思ってもらった方が良いだろう。
「うぅ……頑張ろう……」
ザムゾンは婚約者がいるという。そんな相手に諦めてもらうためには、積極的に恋人を演じなければいけない。周囲の目を利用し、客観的に見てもすぐにわかるようにしないといけない。作戦の成功は、都にかかっている。
都は宿屋の部屋に戻り、ベッドに倒れ込むように眠りについた。




