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世界最強の戦士と呼ばれていますが、欲しいのはそんな称号ではなくて。  作者: いとう縁凛
第二章 都、年下からロックオンされる
16/50

2.8

 バルドゥルは、また深々と頭を下げる。今度は、謝罪ではなく感謝の気持ちで。そんな風に感情を隠さず露わにしてくれるバルドゥルが、微笑ましい。

「ほら、バルドゥルも座って。疑似恋人は具体的にどうするかって、色々と決めないと」

「そうですね」

 にこにこと上機嫌だとわかる笑みを見せながら、バルドゥルはわざわざ正面に置かれていた椅子を都の隣に持ってきた。そして、都の手を握る。

「バルドゥル? これだと話しづらいよ?」

「駄目ですか」

「だ、だめっていうか……」

 こてんと小首を傾げるのはわざなのか、素なのか。

 都が戸惑っていると、バルドゥルは少し椅子を移動させる。都に対して直角の位置で座るバルドゥルは、机に顔を載せた。

「ミヤコさんと、少しでも近くで話したいのにな。駄目か……」

 敬語ではなく、崩した口調で拗ねるように言われた。そんなことをされたら、駄目だなんて言えるわけがない。

(くぅっ。バルドゥルは策士だ! 年下の男の子にそんなこと言われたら、抗えるわけがない!)

 ぐぬぬ、と頬が緩むのを我慢して、バルドゥルのしょぼくれている肩を叩く。

「ゆ、許す」

 思わず上司のような言い方をしてしまったが、都の許しを得たバルドゥルはいそいそと椅子を動かす。そして最初よりもすぐ近くで、肩と肩が触れ合いそうなほどの距離に来た。顔を向ければ事故が起きてしまいそうな近さのため、バルドゥルは都を見ているのに都は正面を見ているという不思議な体勢になった。

「そ、それで、疑似恋人のことなんだけど、あくまでも疑似だから、お互いの将来のことも考えて、過剰な接触はしないようにしよう」

「過剰な接触って、どれくらいですか」

「ど、どれくらいって……っ」

 組んだ手に顎を乗せていた都の右手を、バルドゥルが優しく解く。うっかり自分の唇がバルドゥルに触れてしまいそうになって、慌てて体を反らした。そうするとバルドゥルは、指と指が一番密接するように都の右手を掴む。

「手を繋ぐのは、ミヤコさんが言っていた恋人の定義に当てはまりますよね?」

「そ、そうだけど、この繋ぎ方は、ちょっと過剰かなっ」

「そうですか? あの人にミヤコさんを諦めてもらわないといけないのですよ? 交際していなかった男女が交際を始めるって、これぐらい過剰にした方が説得力が増す気がします」

「た、確かに、そうかもしれないけどっ……わ、わたしは、逆だと思う。付き合いたてだからこそ、恥じらいというか、手汗が気になってしまうというか」

「そんなこと、全然気にしません。ミヤコさんがおれのことを意識してくれているということですから」

「そ、それはっ……」

 体は逃げた体勢のまま、右手だけどんどんバルドゥルに引っ張られている。それどころか、まるで抱え込むように右手を奪われ、指先に柔らかい感触が当たった。思わずその様子を確認してしまい、すぐに後悔する。

「あ。やっとこちらを見てくれましたね」

 にこっと、微笑まれながら話される。それは吐息混じりの声が、都の右手にかかるということ。自分が攻め込まれることには免疫のない都の心臓が跳ね上がる。

「ちょ、ちょっとタイム! 休憩!」


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