2.7
「ミヤコさんは、怖くありませんよ?」
「や、でもさ、こう吊り目で細いって怖くない? 背だって、女子にしては高いし」
「切れ長なのは美人の証だと思います。それに、ミヤコさん。ちょっと立ってみてくれませんか」
「う、うん」
言われたとおりに立ち上がった都の頭上と、バルドゥルの頭上に手を水平に振る。
「ほら。手の幅ぐらいの差があるから、おれと並んだら丁度良いですよ。それに女性は背が低くても高くても、魅力的なので気にすることはありません」
「そ、そうかな」
「そうです」
断定してもらえると、今まで抱えていた不安がなくなる。かつて好きになった人は都よりも背が低いことが大半で、それがいつも気がかりだった。長年抱えていた不安がなくなると、思わず机に突っ伏してしまう。
「はぁー……マジで文也とは大違いだわ。文也もバルドゥルみたいに寛大な心を持ってほしかった。いや、違うかな。身長差はほぼなかったから、わたしが勝手に感じていた引け目かも」
そもそも、男性は背の低い女性を好むと勝手に決めつけていただけでは。そんな風に思うと、今までの人生の大半を損していたように思う。
人は見た目で判断してはいけない。都が父から散々言われていたことだ。二十八にしてようやくその言葉を理解したと言っていいだろう。
「いやー、すっきりした。気づかせてくれてあり、がとう?」
顔を上げると、バルドゥルが「んじっ」と見ていた。ジッと、ではない。「んじっ」という表現が正しいような、何かを探るような目だ。
「どうかした?」
「その……フミヤというのは、もしかしてミヤコさんの婚約者だった人ですか」
「そうだよ。同い年で三年付き合ったんだけどね、二股されていた上に子供もできたんだって。酷いよね、浮気をするくらいならすぱっと別れて欲しかった」
「ミヤコさんを悲しませる男なんて、未来永劫末代まで苦しめばいいのに」
「え?」
「ミヤコさんは、そいつのことがまだ好きなのですか」
「わ、別れてすぐくらいは、確かにちょっと思っていたけど……すぐに考えを切り替えたし、切り替えれるってことは、そんなに好きじゃなかったかもしれない」
「なるほど。しかし、結婚を考えていた相手なのですよね。ミヤコさんにとって結婚の決め手とは」
「あ、改めて聞かれるとそんな大層なことじゃないんだけど……今のバルドゥルと同じ年に付き合い始めたから、年齢的にも文也と結婚するかなって思っていたの」
「ミヤコさんの決意を踏みにじったのですね。なんて男だ」
「や、というか、わたしが悪いと思うの。結婚するのだから生涯を誓い合う相手。それなら婚前交渉なんてなくても問題ないだろうって」
「好きな人に純潔を捧げることの、どこがいけないのでしょうか。誰の子かわからない子供を身籠もるよりも、よっぽど誠実だと思いますが」
「だ、誰の子かわからないって……わたし、そんなに節操なしじゃないよ?」
バルドゥルが見せたダークな部分に驚いて尻込みしてしまったが、訂正すべき箇所は訂正する。そんな強気で反論したからか、バルドゥルは一瞬で青ざめて深々と頭を下げた。
「すみません! 決して、ミヤコさんを貶めたかったわけではないのです!!」
「うん、大丈夫。言葉の綾ってやつだよね。バルドゥルに悪意がないのはわかっているつもり」
「ミヤコさん……ありがとうございます!」




