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世界最強の戦士と呼ばれていますが、欲しいのはそんな称号ではなくて。  作者: いとう縁凛
第二章 都、年下からロックオンされる
13/50

2.5


 バルドゥルの仕事部屋が中華鍋の巨大化で大穴が開き、話を続けられる状態ではなくなってしまったため、場所を移動することになった。

 疑似恋人のことを話すため、周囲には人がいない方がいい。都は宿で部屋を借りている状態だ。ギルドや酒場と併設されている分、注目されて関係性を勘繰ってもらいやすくなるのではと提案した。しかし女性の部屋に入ることはできないとバルドゥルが拒否。

 その結果、バルドゥルの自宅へ招かれることになった。

 堀に囲まれている城下町から平民街へ行く。建物同士が密接に繋がっているような、長屋とは違う街の様子を観察する。小さな街灯に照らされて進む道はどんどん細くなり、人が一人通れるかどうかという路地に入っていく。

 バルドゥルが出会ったばかりの相手ならば、様々な危険を想像してしまう道だ。バルドゥルは危険人物ではないが、疑問が残る。

「バルドゥルさん、もしかしてこの道は自宅へ向かう近道ですか」

「いいえ。申し訳ないですが、おれの家はこの先です」

「そ、そうなんですね。ゼリルダちゃんが、送迎官は一人しかいないって言っていましたけど……」

「送迎官は、人の血だけでは補えない莫大な魔力が必要ですが、もらえる手当は多くありません」

 魔王の血が入っているから、ということなのかもしれない。言葉の端々に、魔族であるとも人であるとも言い切れないバルドゥルのもどかしさを感じる。それは、魔族と人が仲良くできていないからなのかもしれない。

 バルドゥルの、色々な表情を見たいと思った。しかし、悲しませたいわけじゃない。何か言葉をかけなければと思うが、適切な言葉が出てこない。ただの謝罪じゃ、魔族と人は仲良くならない。

 考えこんでいるうちに、バルドゥルの自宅に到着した。小さいが庭もある、こぢんまりとした建物だ。屋根瓦がついているわけでないが、日本風で言えば平屋のようなものだろうか。

「ミヤコさん。こちらへどうぞ」

 促されるまま玄関へ行くと、入口の両脇に小さな花が咲いていた。植木鉢に一輪だけ咲いているその姿が、まるでバルドゥルが一人だと言っているように思えてしまう。まるで、一人で生きていく決意表明のように思えてしまった。

 都が玄関から入るのを待ってくれているバルドゥルに駆け寄り、手を掴む。

「バルドゥルさん! 疑似恋人のことを話し合いましょう」

「そうですね。何か用意するので、リビングで待っていて下さい」

「わかりました」

 リビングに行き、木目が綺麗な椅子に座ってバルドゥルを待つ。一枚板で作られているテーブルは、愛用されているとわかる、独特の照りがある。その他にも、支柱に丸太を使っていたり、細い糸のような物で囲んでいる暖色系の明かりなど。洗練されているように思うのに、落ち着ける良い部屋だ。

「おれの魔力を込めている石で照らしているのですよ」

 明かりを見上げていた都に説明しながら、バルドゥルは両手鍋が載ったワゴンを押してきた。

「ここで魔力を使っても大丈夫ですか」

「問題ないですよ。これは一度込めればしばらく魔力を注がなくてもいいですし、リビングを照らすくらいの明かりを用意するくらい何てことはないです」

「なるほど。魔力って便利ですね」

「便利、ですか?」

「はい。わたしはそもそも異世界から来ているので魔力なんて無いですけど、魔力があったら何ができるだろうって妄想することがあります。攻撃魔法とか、防御魔法とか。やっぱり自分が扱えない力だから、憧れがありますよ」

「憧れ……忌避、ではなく?」

「何も知らなければ、確かに怖くて避けるかもしれません。でも、知れば怖くない。もっと知りたいと思います」

「それは、魔族であっても?」

「もちろん。というか、最初からそのつもりでした。バルドゥルさんが、自分の立場について考えこんじゃっている気がしたから」

 目を真っ直ぐに見て自分の考えを伝えると、バルドゥルは少し恥ずかしそうに目をそらす。そして聞き取れるかどうか微妙な音量で、「ありがとうございます」と言った。新たな表情が見れて都が喜んでいると、目が合ったバルドゥルが鍋から器に汁物を装ってくれる。ふわんと香る匂いは、味噌汁そのもの。

 器を都の前に置いたバルドゥルは、遠慮しがちに言う。


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