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高校生作家とVTuber  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売


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26/28

26話 伸びる配信

「チャンネル登録者数、2倍になったよ」


 部室で2人きりになった途端、佳澄はまるで子犬のように、褒められる事を期待した上目遣いを向けた。

 言葉は若干足りていないが、子狐Vtuberカスミンの最古参である祐真には、何が2倍になったのかは理解できる。

 太もも配信の前後で、カスミンのチャンネル登録者数は63人から、126人に倍増したのだ。


 登録者が数十万人の大御所から見れば、端数や誤差だろう。

 だが大御所も、デビュー当初から数十万人の登録者が居た訳ではない……とは言い切れないのが、現在の大手企業勢からデビューする新人だが、そんな大手企業勢でも、初期メンバーは少人数から始めている。

 デビュー当初に存在する壁の1つを超えた佳澄は嬉しいであろうし、確かに頑張ったと思った祐真は、素直に佳澄を称賛した。


「凄いな。頑張ったじゃないか」

「うん、ありがとう」


 祐真は褒めつつも、子犬と子狐の相違点に思いを馳せた。

 もしも尻尾が生えていれば、佳澄は勢い良く振ったかもしれない。そう思わせるほどの喜び様で、本当に頑張った事が窺える。

 適当に配信していたなら、ここまで喜びはしない。

 そんな佳澄の喜びを自身に置き換えて比較を試みた祐真は、残念ながら想像が付かなかった。


(俺が初投稿した時って、『初投稿なのでご指導下さい』って書いたら、20件以上のご指導が1日で来たんだよなぁ……)


 初投稿時、祐真は大量に書き溜めた『素人が書きたいものを書いただけの小説』を短期間で一気に連投した。

 それで『ご指導下さい』と不特定多数に向かって書いたのだから、撒き餌と共に、魚の群れが泳ぐ大海に飛び込んだも同然だった。

 すると当然の帰結だが、僅かな様子見の後、物凄い勢いで全身を突かれた。

 祐真が受けた指導は、内容に対する指導の他、物語の視点を切り替えるサイド使いは好まれない事、表現技法が足りていない事、3点リーダーは2倍の「……」でなければならない事などと、多岐に及んだ。

 それらを一気に伝えられた投稿者の対処能力は、即日飽和している。

 おかげで書籍化できたのだから、結局のところ大変素晴らしい指導だった訳だが、処理限界を超えた祐真の当時の記憶は、色々と吹き飛んでいる。


(あれは記憶と技量向上の等価交換だった……かもしれない)


 自身の体験との比較を断念した祐真は、作家とVtuberの比較を試みた。

 大前提として小説投稿サイトとVtuberとでは、ブックマークして貰える難易度が大きく異なる。


「Vさんって、多い人だとチャンネル登録者300万人くらいだっけ」


 不意に問われた佳澄は、祐真の意図を読めずに一瞬キョトンと困惑の表情を浮かべた。

 そして、日本で一番チャンネル登録者数が多いVtuberを思い浮かべながら答えた。


「それくらいだったかも。英語圏を対象にしている人には、もっと登録者数が多いVさんも居るけど」


 日本にはチャンネル登録者数300万人を数えるVtuberが存在する。

 登録者数が100万人を超えるVtuberも大勢居て、それらの登録者数は今も増え続けている。

 登録者数が増え続ける理由は、Vtuberを視聴する層が増えているからだ。

 日本の総人口が減少に転じても、世界人口は増大しており、ネットを利用する人々も増えている。


「登録者って、外人さんも結構いるよな」

「どんどん増えているよね」


 Vtuberが日本語しか話せなくても、翻訳ソフトを用いて、配信中に英語を画面表示させられる。あるいは後日、字幕を確認して実際に何を言っていたのかを確認出来る。

 歌配信であれば、日本語の歌詞では無く歌そのものを楽しめるし、聴き慣れない言語の歌に異国情緒も感じられるので、翻訳は不要だろう。

 アクション系のゲーム配信であれば、操作しているキャラクターの動作と、Vtuberの反応を楽しめる。パズル系などの配信も同様だ。

 祐真も海外のVtuberが英語で行う配信を視聴した事があって、Vtuberは配信者と視聴者の言語が一致しなくても、視聴が成り立つ。

 そして一番重要な事だが、海外からも投げ銭を投げる人や、メンバーシップに入る人がいる。つまり海外勢も顧客になるのだ。

 この場合、登録者の何割が外国人であるのかは、意味がない。

 日本語の小説が、日本人にしか売れないのと比べれば、コンテンツとしては圧倒的にVtuberが勝る。

 小説を評価するには、せめて1話は読まなければならない。だがVtuberは、姿を見て声を聴くだけなら1分で出来る。そんな敷居の低さも、Vtuberの魅力の1つだ。


「俺が使っている小説投稿サイトは、ブックマーク登録者数が一番多い人でも30万人くらいなんだ」

「そうなの?」

「ああ、1位の登録者数は、10倍差かな。小説の掲載数は100万もあるから、読者の分散も激しいし、このままだとカスミンに追い抜かれそうだな」


 祐真は苦笑して、半ば冗談であると言外に伝えた。流石に100人に負けては、祐真の立つ瀬がない。

 市場経済は、需要と供給で成り立っている。

 登録者の需要を満たすのが作家である祐真や、Vtuberである佳澄の役目だ。登録者を増やした佳澄は、視聴者の需要を満たして評価されたのだ。


「俺も頑張るから、カスミンも頑張ろうな」


 充分に頑張っている人間に対して、「頑張れ」というのは、相手を追い詰める行為にも成り得る。

 その言葉によって相手を追い詰めた場合、それは相手の事情を理解しておらず、相応の人間関係も構築できていなかった事になる。故に、『他人が知りもしないくせに、無責任に頑張れと言うな』が成り立つ。

 例えば、虐められている人間に「頑張れ」と言うのは正しいのか。

 大災害に遭って、家を失って住宅ローンだけが残った人間に「頑張れ」と言うのは正しいのか。

 大会で記録を出せない人、浪人生、残業で終電に帰る人はどうか。

 何かが上手くいっていない人、不幸に見舞われて挽回できない人は、全て本人の努力不足が原因なのか。

 本人の責任に帰すべきでは無い事、努力の方向性が間違っている事、むしろ周囲の支援方法が間違っている事は山のようにある。


 祐真は、そのような放言は好まない。

 頑張れと言うのなら、どうすれば良くなるのか具体的な案を出して、軌道に乗るようにサポートするくらいしろと思う。

 言い換えるのであれば、ダンボール箱に入れて捨てられた子猫を拾うのであれば、面倒を見るなり、貰い手を探すなりするのが、拾った人間の責任だ。

 でなければ、そもそも拾うなと考える。拾って希望を持たせて、それからもう一度捨てるなど、あまりに残酷だろうから。

 それらを踏まえた上で、祐真は佳澄に対して「一緒に頑張ろう」の意味で「俺も頑張るから、カスミンも頑張ろうな」と言ったのだった。


 拾った捨て猫の面倒を見る……くらいの支援はしていた。そのように自覚する祐真に、佳澄は再び期待するような眼差しを向けて問うた。


「一緒に頑張ってくれる?」


 その言葉を表面的に捉えれば、今更だろうという答えになる。

 だがVtuberの配信画面では伝わらない表情や目の動き、雰囲気などが、それよりも踏み込んだ協力関係を期待しているように、祐真には思われた。


「ああ、出来る事なら協力する」


 はたして祐真は、佳澄の求めに応じて頷いた。

 1ヵ月以上も付き合っていれば、拾った猫にだって愛着は沸く。今更、見捨てる気も無い祐真は、以前よりも協力しても良いと思っていた。


「良かった。よろしくお願いします」


 柔和な笑みを浮かべる佳澄に、祐真は鷹揚に応えた。

 だが祐真の余裕は、そこまでだった。


「次の配信だけど、これをやろうと思っているの」


 佳澄がパソコンのモニターを指差して、祐真がそれを覗き込んだ。

 そこにはASMRの一覧が表示されており、好き好き配信と表示されていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] シチュのシナリオを書いてほしいってことかな?
[良い点] 収益化までとっておくべきなのか、収益化への道のりとして札切ってしまうべきなのか
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