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高校生作家とVTuber  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売


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21/28

21話 作家Discord 配信相談編

 作家と出版社との契約書の締結は、世間が想像するよりも遥かに遅い。

 公共事業であれば、工事を始める前には落札した業者と契約書を交わしているだろう。むしろ契約書を交わす前に工事を始めるのはおかしい。

 だが作家と出版社とが契約する場合、工事ならぬ執筆作業は、契約書が交わされるよりも遥か以前から行われている事が珍しくない。


 そのような事は考えてみれば、当たり前かもしれない。

 実際に出版社のお眼鏡に適うレベルの作品を書けるか、それとも書けないのかは、現物を提出されなければ出版社も判断できない。

 商品のサンプルが出来てから、持ち込んで判断されるようなものである。

 さらに祐真のような新人作家であれば、一人称を三人称に作り直させたり、足りない字数を追加させたり、出版レベルになるように改稿させたりも必要で、それらが全て行わなければ、出版社も安心して契約出来ない。

 実際に本が完成するレベルにならなければ、契約書を締結するところまで進めないのも、致し方が無い部分がある。

 売れる本だと分かる前に契約など、出来ないのだ。


「小説投稿サイト、プロの作家でもランキングに載らずに、儚く消えていく事が多いからなぁ……」


 小説投稿サイトに投稿される小説には、アカウントを登録したユーザーがブックマークすれば2ポイント、作品評価で最大10ポイント、1人で合計12ポイントを付ける事が出来る。

 その数が多ければ、ユーザーに支持されている客観的な指標となり、お気に入り登録者数が多ければ、売れ易いと判断される。


「ユーザーに評価されたからと言って、市場で必ず売れるとは限らないけど、だからといって全く評価されない作品が売れる事も無いよな」


 売れない本を強引に出しても、買って貰えなければ続けられない。

 出版社としても、売れる本で無ければ刊行したくないに決まっているのだ。


 そして祐真が2巻の契約を結んだのは、高校に入学した後だった。

 4月中旬の刊行物を4月に契約している。

 勿論、印税率や発行部数などの合意形成は済んでいるので、作家と出版社が揉める事は無い。単に「わりと遅いかな?」と思った程度である。

 それに関して他の作家がどのように考えているのか、祐真には尋ねる手段が存在した。

 祐真が用いる手段の1つが、作家だけが匿名で参加しているDiscordのグループチャットだ。

 匿名でも、作家である事を証明する方法はある。

 作家自身であれば証明が簡単であり、作家で無ければ不可能。

 そんな匿名作家グループが用いている手段を用いてグループに参加した祐真は、そこで情報収集を行っている。

 Discordは、画像を貼れるチャットあり、音声での会話も出来る。

 そのため、Vtuberのグループでも多用されており、ネットゲームのチームなど幅広い層が様々な用途で使っていた。



 天猫 — 4/14

 出版社様と結ぶ契約の時期って、遅いんですかね?


 中島掲揚 — 4/14

 出版業界あるあるですね

 互いに合意していれば問題にもなりませんが


 炙牛肉 — 4/14

 メールでの約束も有効だから、保存しておくと良いよ

 あとは気にしない事だ


 天猫 — 4/14

 ありがとうございます

 出版社様からのメールは、専用フォルダを作って仕分けしています



 祐真がふと思い付いた質問を投稿したところ、作家達から直ぐにアドバイスが返ってきた。

 作家は、概ねパソコンを使って執筆している。

 Discordにチャットが投稿されると音が鳴る設定にしてあれば、直ぐに気付いて内容を確認し、その場でレスを返せる。

 もちろん執筆に集中したい時は、Discord自体を閉じるなり、音声を消すなりする。従って現在Discordに居るのは、執筆していないが、パソコンの前には座っている作家陣だ。つまりサボっている層である。

 そのためチャットの内容は直ぐに逸れていき、雑談に移った。



 天猫 — 4/14

 最近、作業音代わりにVtuberを見ているんですが

 際だった特技が無くて、伸びる要素が薄い新人Vって、

 何をしたら伸びるんでしょうかね

 とりあえずASMRを勧めてみましたけれど



 祐真が質問したのは、佳澄の件だった。

 ASMRを勧められたカスミンは、タオルと耳かき配信を行った。

 再生数は少し伸びて、ASMR配信前に63人だったチャンネル登録者数も、81人、85人と増加した後、さらに伸びを見せて90人になった。

 2回の配信で27人増えたのであれば、あと70回くらい配信すれば1000人に届くだろう。

 だがASMRの種類は、70個も存在しない。存在するのかもしれないが、少なくとも祐真は知らない。

 70人が同じ種類のASMR配信をしても、70通りの個性が出る。

 Vtuberは声も、外見も、BGMも、間の取り方も、配信時間も、何もかも違うので、視聴者は新しい感覚を得られるだろう。

 だが全く同じ人間が、同じASMRを70回も繰り返せば、それは狂気だ。

 同じ事は2回見るだけでも飽きるし、3回も続ければ怒られる。そして回数を増やすごとに、チャンネル登録者は増えるどころか、逆に減っていくだろう。

 このままでは手詰まりになると考えた祐真は、打開策を求めたのだ。



 中島掲揚 — 4/14

 物語で考えれば、修行して技能を身に付ける……でしょうかね

 こちらの人間が技能を身に付けるには相応の時間を要しますが


 炙牛肉 — 4/14

 サムネやガワに課金だね

 こちらの世界は、課金が出来る仕様だよ


 倶利伽羅 — 4/14

 ASMR? 太もも、太もも、太もも、太もも配信で征こうぜ!

 こう、ペチペチペチと!


 天猫 — 4/14

 なぜ太もも配信なのですか?



 新たに会話に入ってきた作家の倶利伽羅は、主人公がファンタジー世界に異世界転生して無双する系のライトノベルを書いている作家だ。

 参加者達は匿名・偽名であり、誰がどんなタイトルを書いているのかは知らないが、自分自身で話せばその限りでは無い。

 倶利伽羅は、自らを異世界ファンタジー系だと公言している。

 それに会話をしていれば、どのようなジャンルで、何年ほど前から活動しており、コミカライズの有無がどうであるか等は、大雑把には察せられる。何しろ全員が作家で、読み解く力は極めて高い。

 物語を作れる作家集団であるために、別のジャンルを装っているのかもしれないが、少なくとも倶利伽羅は、異世界転生物でコミカライズした場合にどうなるのかについて、豊富な知識を持っている。

 そして全員が出版経験を持つ作家であるため、嘘はバレる。

 だから祐真は、倶利伽羅が異世界転生系の作家だと信じている。

 そんな異世界転生ハーレムチート系について詳しい作家である倶利伽羅は、太ももについて熱く語り始めた。



 倶利伽羅 — 4/14

 太もも配信は、想像力を掻き立てられる

 太ももペチペチは、素肌で無ければ音を出せない

 つまり裾の長いズボンでは、出来ない

 学校のスパッツでも長くて無理だ

 それでは、どんな格好をしているのか?


 中島掲揚 — 4/14

 …………ゴクリ


 倶利伽羅 — 4/14

 常識的に考えれば、太ももが出るミニスカートだ

 だがスカートは下がってくる

 それでは音を撮るのに邪魔とならないか

 自室で誰も見ていないのに、わざわざ捲り上げ続けるのか

 そんな面倒な事はしない

 もう一度問おう。どんな格好をしているのか


 炙牛肉 — 4/14

 穿いてないね


 中島掲揚 — 4/14

 …………て、天才だ!



 アホだ、と、祐真は感心した。

 彼らは作家の逞しい想像力と情熱を、一体何に使っているのだろうか。

 だが作家とは、人類で最も想像力の高い人々である。

 彼ら彼女らは、脳内で創り出した未知の世界を具現化して、本として現出させられる特殊能力者達だ。

 従ってASMRというお題を与えれば、太もも配信するVtuberの衣服がどうなっているのかを妄想するなど、まるで呼吸をするように容易く熟す。

 その際、キャラクターに「穿いてないね」と主観で話させて、地の文では断言しない事で、実際には他の可能性があったとしても、作中からは排除してしまう。校正者対策もバッチリだ。


「この人達、馬鹿と天才は紙一重という言葉を、体現しているよ」


 Discordには女性作家も参加しているが、そのような会話が流れても全く気にしないどころか、むしろ男性の心理を自身の執筆の参考にして、質問する事すらある。

 誰も止める者の居ない作家のグループチャットは、太もも配信について盛り上がりを見せ始めた。



 倶利伽羅 — 4/14

 恥ずかしがるか、照れて笑うか、

 どんなリアクションをしてもVtuberは美味しい

 そしてリスナー側も、大変美味しい

 太もも配信は、とても素晴らしい


 天猫 — 4/14

 ……なるほど


 倶利伽羅 — 4/14

 敢えて言おう

 タオル? 耳かき? 舐めるな小娘、そんなものは雑音だ

 男性リスナーは愛想で付き合っているんだよ

 本心では望んでいない。つまり本当の需要は無い

 配信音声をグッズ販売サイトで売ってみろ。売れねぇよ

 需要と供給舐めんな!


 中島掲揚 — 4/14

 本1冊の制作期間に5ヵ月

 それが緑の投げ銭1回分

 タオルや耳かきでは、高いかもしれませんね


 炙牛肉 — 4/14

 僕なら、タオルの音源は買わないだろうね

 でも太ももなら、買ってしまうかも知れない



 作家達の主張には、祐真も多少の共感を得た。

 耳かきが雑音だ、という主張に関してでは無い。

 それに関しては、カスミンも頑張っていた……はずである。祐真は、全編に亘って聴き続けた訳では無いが。

 そうではなく、自分が受験勉強を放り投げて、4ヵ月を費やして作った本と、タオルごしごし1時間とは、労力が釣り合わないという件についてである。

 お金の価値は人それぞれだが、タオルごしごしに負けると悔しい。だが太もも配信なら、買ってしまうかもしれない。

 そんな風に感じる、陽春の候であった。

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