17ページめ
ギルドの外に出ようとした僕達、というかソブキさんに、盾職らしい冒険者から声がかけられた。
「ソブキー。お前、春が来たのかぁー?」
あ゛?
「ただ案内してるだけだ。世間を知らないヤツだぞ?そんな事があるか」
あ゛あ゛っ?
「ひゅ~。よっ、モテ男」(周り爆笑)
あ゛あ゛あ゛っ?
「モテてない」
「おい。嬢ちゃんが顔赤くしてるぞ。モテモテだねぇ」
ブチッ。
「あのなぁ―――」「僕は男だぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
『『は?』』
全員が固まった。あ゛あ゛っ?僕の言ってる事がそんなにおかしいか!?
「脱いでやろうかぁ!!あ゛あ゛ん!?僕は、玉も棒もある、れっきとした男だぁーーーーーーっ」
ギルド内がざわつき始める。あ、やっちまった。ここ女性もいるじゃん。
「本当に?」
「は、はい」
は、恥ずかしい。大勢の前で下ネタを言ってしまった。
「その声で?」
「変声期が来てないからまだ高いんです」
もう真っ赤だ。恥ずかしくて、声も小さくなってしまう。
「本当か?」
恥ずかしすぎて萎縮してしまった僕の代わりに、ソブキさんが答えてくれる。
「コイツ、カイト・カヤノってんだ」
「なるほど、男だ。びっくりだな…………」
「俺もそう思ったよ」
この人達、ぶん殴ろうかな?腹立つなぁー。見た目が女性っぽくなる呪い(じょうほう)付与してやろうかなー。
僕がウィンドウを呼び出そうとすると、受け付け嬢さんの声が響いた。
「そこの人達。さっさと仕事をして下さい。さもないと、解りますね?」
『『はいっ!』』
その言葉で、冒険者(男性)全員が一斉に返事をした。そして、テキパキとクエストに行ったり、パーティーを作ったりしてギルドからでていく。まるで、軍隊みたいだ。
「じゃ、行くか」
僕は、苦笑いでうんと答えた。
場所は変わって、商業ギルド。さっさと終わらせよう。
「ごめんくださ〜い」
そう言って、ギルド内に入る。もちろん、なんだこの餓鬼は、という目で見られる。
(こ、怖い)
思わず、多くの目に圧倒されてしまった。それでも、気圧されそうになる足を動かして、受け付けさんに話しかける。
「こんにちは、御用はなんでしょうか?」
抑揚が殆ど無く、機械のような印象を受ける女性だ。
「商売をするのに、何かルールとかあったらば、教えて欲しいのですが………」
僕がそう言うと、彼女は机の下から薄くて大きめの本のような物を取り出した。『パンフレット』のような物だろうか。1ページ目を捲り、彼女は言う。
「まず、土地に店舗を建てる、もしくは建っている土地を借りる場合、当ギルドへの登録が必要となります」
それには、説明が解かりやすくするためなのか、図や絵が描かれていた。この刷子を読むだけで理解できそうだ。2ページ目が捲られる。
「登録されていない者が店舗を建てた場合、ギルドからペナルティがあります。もう一つ、登録されている方には、ギルドから安く品物を斡旋しています。なので、仕入れ面でも不利になります。こちらは、後ほど説明させて頂きます」
安く品物が手に入れられるのか。なるほど。でも、何かしら利益になるからやってるんだろうな。納税みたいなのかも。
「登録されていない者が商売を行う場合、仮店舗や、屋台で物を売買して頂く事のなります。この場合、当ギルドの監視がない代わりに、当ギルドは一切の責任を持ちません」
あたりまえの事だな。なんで利益をもたらさない者の面倒を見なければいけないのかって話だ。
ペラリとページが捲られる。
「登録して頂いた場合、品物を安く斡旋させて頂きます。こちらは先程説明した通りです。代わりに、売上金の5%をギルドに納品して頂きます。これは、実物でも構いません。尚、当ギルドから店舗を貸りる事や、借金をする事も出来るようになります。店舗を借りた場合、毎月売上金の2%を支払って頂きます」
「大まかには、このようになっております。詳しくは、この刷子を読んで下さい」
受け付けさんにそう言われ、刷子を渡された。思いがけず本が手に入って、少し嬉しい。
あ、そうだ。そんな事より、一つ訊いとかないと。
「えっと、とりあえず登録ってできますか?」
「はい。ですが、店舗を建てた場合、ちゃんと商売内容と場所を報告してもらいます。それでもいいですね?」
「はい」
即答する。何当たり前の事を訊いてくるんだって感じだ。まぁ、14歳がこんな事言ってきたら、心配ぐらいするな。もしかしたら、面白半分で登録しようとしていると思っているのかもしれないし。
「そうですか。解りました。では、〈貴方が波に乗る事を祈って、《契約》を結びましょう〉」
その言葉が『キーワード』だったらしく、カウンター席を中心にして、大きな魔法陣が描かれる。すごい、大規模な魔法だ。
「一つ。この契約は、一度交わしたら破棄出来ません。」
「一つ。この契約を交わしたら、貴方が開いた店の活動は全て当ギルドに報告されます。」
「一つ。この契約に違反したら、今までのコネクション、利益、信用を含む全てを失う可能性があります。」
「一つ。この契約を交わした場合、貴方はこれから商売をしなくてはいけません。」
「一つ。この契約を交わしたら、貴方は私達の身内です。もし、商売で困ったら、頼って下さい。」
「以上の内容。そして、商売についてのルールを守るのなら、貴方の名前を、魔法陣上で宣言して下さい」
自分の名前が、こんなに重く感じたのは初めてだ。乾いた口内の唾を飲み込んで、僕は自分の名前を宣言する。
「カイト・カヤノ」
そう言うと、魔法陣から実体のある光が溢れ出した。光は粒子だ、とか、そんな話じゃない。触れたのだ。僕の左手首に巻き付いてきたのだ。
左手を見ると、不思議な紋様が付いている。何だこれ?そう思うと、紋様は勝手に消えてしまった。
「これで、貴方は当ギルドの一員です。困った時には、私達を頼って下さい。代わりに、私達も困った時には頼らせて頂きます」
「はい」
その返事を最後に、僕はギルドを後にした。