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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
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7. 旅行①

いつもご愛読ありがとうございます。今回は旅行のお話が長くなってしまったので二回に分けて投稿します。


「ついに夏休みだーー!!」


 待ちに待った夏休み。私の学校は明日から夏休みに入る。菜月は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。


「ねえ美夜、どこか旅行行かない?愛海も行くよね?」

「うん、私は全然大丈夫よ」

「ええ、私も行きたいわ」

「友梨佳ちゃんも呼ぶ?」

「うーん、宿題が多いって言ってたけど、一応友梨佳に聞いてみるわ」 


 そんなこんなで瞬く間に夏休みはみんなで旅行へ行くことが決まった。


「それでどこに行くの?夏だし定番の海とか?」

「私は海より川の方がいいかなー。海水みたいにべとべとしないし」

「川って私泳いだことないよ、美夜はある?」

「私もないわ」

「私の別荘の近くにいい泳ぎ場があるのよ、人も少ないし水もきれいなの」

「「別荘!?」」


 どうやら愛海は田舎の方に別荘を持っているらしい。とはいっても最初に私たちが想像した大富豪が持つようなおしゃれな別荘ではなく、昔住んでいた古い一軒家らしい。どんな別荘なんだろうか、と私が想像していると思い出したように愛海が私に小声で聞いてくる。


「…そういえば、美夜は川とか大丈夫なの?無理なら別の場所でもいいよ」

「ん、大丈夫だよ?」

「そっか、ならいいんだけど」


 私はみんなと遊びに行けるなら正直どこでもいい。こうしてとんとん拍子で話が進んでいき、旅行に愛海の別荘に行くことになった。


「たぶん大丈夫だと思うけど一応使っていいか親に確認しておくわ、また連絡するね」

「うん、お願い」




◇◇◇




 家に帰ると私はお母さんに報告する。二つ返事で行くと答えてしまったけど、心配事がないわけじゃない。それはお母さんも同じで、先日のハンターのこともあってとても心配している。


「行くなとは言わないけど、その間血はどうするつもり?」

「我慢すればいいかなって…」


 あまりの私の無計画さに呆れたのかお母さんは大きくため息をつく。


「それで、どのくらいの期間行くの?」

「…まだ特に決まってなくて連絡待ってるよ」

「わかったわ、それを聞いてからまた考えましょ」


 ちょっと怪訝な顔をするお母さんを横目に私は部屋に戻る。みんなと遊びたいという思いだけで安易に首を縦に振ってしまった。確かに無計画だった、と少し反省する。


(三日とか四日とか長期間だったらさすがにあきらめた方がいいかな…)


 そんな不安を抱えていると携帯の着信音が鳴る。


「もしもし」

『あ、美夜?別荘使ってもいいって!でも友梨佳は勉強が忙しくて…、というか成績が芳しくなくて家で留守番することになっちゃった』

「よかった!友梨佳ちゃんは勉強か…、頑張ってって伝えといてー」

『わかった、伝えとく。それで、美夜はいつ行けそう?』

「私は暇だからいつからでも行けるよ!」

『オッケー!』


 そして少しの沈黙をはさんで愛海が言う。


『…美夜は何日くらい旅行行けるの?』


 三日くらいなら吸血しなくても大丈夫だけど、三日と言ってしまうと理由を聞かれたときに答えられない。さっき自分が暇だと言ってしまったことを後悔する。


「えーっと…、うーん…、何日くらい予定してるの?」

『一応今のところは一週間くらいを考えてるわ』


 一週間、そんなに長い間我慢できないのはわかる。


「…ちょっとお母さんに聞いてみる。このままつなげといてくれる?」

『わかった、待ってる』


 私はそう言ってお母さんに事情を話しにいった。すると、たぶん行かせてくれないだろうなと半ばあきらめていた私に予想外の答えが返ってきた。


「行ってもいいわ、だけど条件がある」

「…条件って?」

「まずは当たり前だけど絶対にバレないこと」

「うん」

「もう一つは後で渡すものを毎日飲むこと」

「それって…」

「ええ、血よ」


 血を持っていくということらしい。詳しい話はあとで聞くとして、とりあえず旅行の許可が出たことを愛海に伝えに行く。


「あ、愛海?」

『もしもし、どうだった?』

「大丈夫だって、私も行ける!」

『わかった!じゃあ菜月にもそう伝えとくねー』


 そう言って私は通話を終えると一安心する。なんとかみんなと一緒に旅行に行けることが決まった。


 お母さんが言うには、血をちゃんと殺菌すれば一週間くらいはもつらしい。時間がたてばたつほど血の成分も変わっていくし、味も落ちていくけど仕方がない。それをペットボトルに入れて持っていくことになった。もちろん外から中身が見えないようにカバーに入れる。

 血の集め方は、吸って容器にためるだけ。どうせ後で殺菌するんだし、汚いなんて思った方が負け。だけど一応お母さんには頼らず私だけですることにする。


 それからしばらくして愛海から日時の連絡があり、私はそれに向けて準備を進めた。




◇◇◇




「お待たせー」

「美夜、久しぶり!」


 そして旅行当日、私たちは集合場所に集まってから別荘へと向かう。都会から電車で1時間ほど移動するとあたりには見慣れない景色が広がってくる。だんだん木や林が増えてきて少し遠くには山がいくつか見える。


「もう少しで着くわ」

「いいところだねー、空気が気持ちよさそう!」


 そんなことを話しているうちに最寄り駅につく。そこは街灯もあまりなく夜は真っ暗になるのが想像できる。少し歩くとこじんまりとした木造の一軒家が見えてくる。周囲にはほかに数軒しか家はなく、近所迷惑なんて考えなくてもよさそうな立地だ。


「ここが別荘よ」

「「おー!」」


 愛海の案内に従って中に入ると、いくつかの部屋があって必要最低限の家具がそろっている。私は持ってきた荷物をおろすとペットボトルを冷蔵庫にしまう。


「あれ、美夜は水筒持ってきたの?」

「うん、菜月は持ってきてないの?」

「飲み物もコップもあるかなーと思ったんだけど、ある?」

「ええ、大丈夫よ」


 確かに言われてみればそうだ。友達の家に行くのに水筒を持っていく人なんていない。内心少し焦ったけど、特に何も言われることはなかった。


 しばらく三人でおしゃべりをした後、一度川を見に行くことになった。川は歩いて5分ほどのところにあり目と鼻の先である。そこに到着すると、眼下には川幅およそ15メートルほどの川があり、水深は浅いところもあるし、深いところでは底が見えない。


「おおー、いいねー!人が全然いない!」

「ふふ、田舎だからね。二人ともちゃんと水着持ってきた?」

「もちろん」

「ちゃんと持ってきたよ」


 そうしていったん家に戻った私たちは水着に着替える。菜月は赤い生地に赤いフリルが施された水着で、全体に白い星柄がちりばめられた可愛らしいデザインだ。一方愛海は全体的に白を基調としたシンプルな水着だ。


「二人ともかわいい!」

「ほんと?似合ってる?」

「もちろん」

「ありがと!美夜も似合ってるよ」

「ありがと」


 私はできるだけ日光に当たらないようにワンピース型の水着を選んだ。色は薄い青色で、胸元と肩付近にレースがあしらわれている。


 そうして私たちはすぐに川に向かった。川の水は意外と温かいもので、すぐに体も慣れてきた。そして三人で競争したり、お魚を探したり、水切りもした私たちは、あたりが暗くなるまで目いっぱい川を堪能した。



「楽しかったー!二人とも泳ぐの早いね」

「まさか美夜が一番早いなんて思いもしなかったわ」

「え、それはちょっと失礼じゃない!?」


 初めて川で泳いだ私は驚くことでいっぱいだった。岩陰にはエビがたくさんいて、ちょっと目を凝らすと隠れている鯉を見つけることもできた。

 そうして私たちは家に帰ると水着を乾かしつつ一息つく。その後、ご飯を食べたり明日以降の予定を話し合ったりしているうちに寝る時間になってしまった。



(そうだ、血飲まなきゃ)


 一日中みんなといるのが楽しすぎて今の今まですっかり忘れていた。冷蔵庫から取り出して口に入れる。やっぱり人から直接吸う暖かい血の方がおいしいけど、味のしない食べ物なんかよりはよっぽどおいしい。


「「「おやすみ」」」


 こうして私たちは一日目を終えた。




◇◇◇




 その後も私たちは愛海の別荘で旅行を謳歌した。みんなでお買い物に行ったり、食べ歩きをしたり、徹夜でトランプで遊んだりした。食べ歩きは私にとってかなり辛かったけど、おしゃべりは楽しいから我慢できた。




(あんまりおいしくない……)


 そう感じたのは四日目、冷蔵庫に保管している血を口に入れたときだった。昨日までと比べて明らかに甘みが減って舌触りも少しざらざらするような感じがした。私は思わず中をのぞき込んだけど、見た感じではそんなに変わっているようには見えない。やっぱり成分が変わっているんだろうか。


「どうしたの?」


 突然後ろから声をかけられる。


「な、菜月…、なんでもないよ」

「ならいいんだけど…、ってそれ来たときに持ってきてたやつじゃん。もしかして一回も洗ってないの?」

「…、それは…」

「えっ!そんなの飲んじゃダメだよ!早く中身捨てて洗いに行こ」


 まずい。中身を見られるわけにはいかない。でも何かいい言い訳も思いつかなくて頭がパニックになっていた時だった。


「あら、二人で何話してるの?」


 愛海が私たちに話しかけてきた。


「それがね、美夜ったらここに来てから一回も中身替えてないんだって」

「え、そうなの?じゃあ美夜は中身替えてきたら。菜月はちょっと私のこと手伝ってくれる?」


 愛海はそう言って菜月と一緒に外に出て行ってしまった。なんとか危機を免れた私は中身を捨てるふりだけしてまた冷蔵庫にしまっておいた。


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