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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
27/33

27. 違和


今日も三人で食卓を囲む。私は座るだけだけど。


「おお、これ美味しいな」

「ほんとですか!実はこれ私の得意料理なんです」


今日はずいぶん二人で盛り上がっている。メニューはハンバーグか。そういえば私も、人の血を飲む前はハンバーグが好きだった。


「いいなあ、二人はそんな話で盛り上がれて」

「なんだ、うらやましいのか?」

「…別に」

「まあそうか、吸血種って血以外は味しないんだっけ」

「しないわけじゃないよ、薄いだけ」


懐かしい。今ではもう目の前のハンバーグに何の魅力も感じないけど、確かに"美味しいハンバーグの味"は覚えてる。

でも、血だって人によって味も少しずつ違うんだから。

少しずつ…。

最近ふと思うことがある。もし私が吸血種じゃなかったら。そんなことを考えても意味はないんだけれど。でも、みんなが私に優しく接してくれるせいで、もし私が人間だったらもっと楽しい日常を送れたんじゃないかとも思ってしまう。


「そういえばこの間新しいカフェがオープンしたそうなんです。皆で行きませんか?」

「カフェか。久しく行ってないし、僕は構わないよ」


そういえばカフェはしばらく行っていなかった。また行きたいと思っていたけど、血を口にしてからはそんな思いももうなくなってしまった。


「私は遠慮しておくわ」

「え、やっぱり美味しくないからですか?」

「うん、そうね」

「でも味がわからないわけじゃないんですよね? 噂ではすごく美味しいって話ですし、行ってみましょ!」

「…それにお金もないし」

「大丈夫です!私が誘ったんですし出しますよ」

「っ、そこまで言うなら…」


そこまで熱心に誘われては断るにも断り切れない。それに、香苗とようやく仲良くなれた手前、最初のお誘いを断るのはよくないかもしれない。

あまり気が進まないが、私たちは三人でカフェに行くことになった。



カフェにつくと、新しくオープンしただけあってそこそこの人が並んでいる。一応込みそうな時間帯は避けて来たわけだけど、席につくまで15分ほどかかった。

席につくと、香苗は目を輝かせながらメニューをめくっていく。オーソドックスなパフェからどう見てもチャレンジしてるパフェ、ほかにはケーキやアイスもある。結局、香苗は散々迷った挙句、いかにも甘そうなイチゴのパフェに決めたらしい。


「私これにします」

「お、奇遇だな。僕もそれにするよ」


へえ、神君ってイチゴ好きだったんだ。


「じゃあ私もそれで」


三人ともイチゴパフェを注文すると、少しして予想より大きめのパフェが運ばれてくる。


「ごゆっくりどうぞ」

「美味しそう!いただきます!」

「いただきます」


香苗も神君も小さなスプーンでそれを口に放り込み、私も同様に口に放り込む。


「んん、なかなかいけるな」

「ええ、美味しいです!美夜はどうですか?」

「美味しいわ」


少し微笑んでそう言うと、香苗は安心したようにまた次の一口への手と伸ばす。

美味しいわけがない。パフェなんて私が十分に味を感じられるほど濃い味付けじゃない。ただなんとなく冷たいだけ。

結局私は人の血以外では満足できないんだ。なのに血なんて誰も彼も同じような味ばかり。子供に手を出すわけにはいかないし、愛海や菜月みたいな特別な人を除けばみんな大して変わりはない。

そうか、だからあの吸血種は…。


「美夜、大丈夫か?」

「えっ、大丈夫よ」


いけないいけない。せっかく香苗が誘ってくれたんだから、楽しそうにしなきゃ。


「香苗がパフェ好きだったとはちょっと意外だったよ」

「そうですか? 私は甘いもの大抵は好きですよ」

「あーたしかに、甘いものはいいよね」


人の血も、一言で表現するなら"甘い"だ。

そして、いつもより少しテンションの高い香苗についていきつつ、私もパフェを完食した。


「ごちそうさま」



そうして私たちは帰途につく。


「ハンター割引ってすごいんですね!」

「そうだな、必要経費ってやつだ」

「パフェ代が経費で落ちるというのは理解しがたい部分もありますが…。今回はそれに感謝ですね」


少し涼しくなってきた夜風に吹かれ、時折髪の向こうに見え隠れする香苗の首はあまりにも魅力的だ。

そんな私に気が付いたのか、神君に無言で視線を向けられ、私は前を向きなおす。

香苗はというと、まだパフェの話をしていて次に行くときに注文するものを吟味しているようだ。


「美夜はどう思いますか?」

「えっ、ごめん、聞いてなかった」

「むっ、一ページ目に書いてあった抹茶パフェの話ですっ」

「あーそうね、美味しそうだと思ったわ」

「やっぱりそうですよね!次に食べるものは決まりました」


私はそんなものより香苗の血が飲みたい。細くてきれいな首、その下を流れる血液を想像するだけで体の奥が疼いてしまう。お願いして吸わせてもらうということも選択肢の一つだけど、さすがに時期尚早な気がする。まだ仲良くなって日が浅いし、最初の印象は大切だ。

はあ、あの時吸っておけばよかった。


家に戻ると、私はすぐに自室のベッドに横になる。私が人間だったら、美味しいパフェも食べられたんだろう。そもそも町を出ることも、学校をやめる必要もなかった。もしかしたら私がいなければ友梨佳ちゃんだって…。

なぜかそんな思考ばかりが頭をめぐる。

ネガティブになったらダメよ。そんなこと今更じゃないか。もう私は吸血種としての自分を受け入れているし、みんなも私を受け入れてくれている。私は吸血種で人間にはなれない。人間の血を飲むことでしか生きられない。人を襲う存在なんだ。

ふとあの吸血種を思い出す。私が学校をやめることになった元凶。吸血種としては、むしろあの人の方が正解なのかもしれない。

……人の血を吸いつくす感覚、か。

まあそれを実際にするわけにはいかないんだけど。



「美夜ーー」


そんなことを考えているうちに、晩御飯の用意ができたらしく、香苗から声がかかる。どうやらずいぶんと長い間考え込んでしまっていたらしい。


食卓に集まると、いつものように香苗と神君の二人分の食事が並べてある。それでも香苗が私を呼ぶのは、みんなで話した方が楽しい、と私に気を利かせてくれているからだ。


「「いただきます」」


なのに、どういうわけか今日はその優しさが嫌だった。まるで私がみんなと同じ食事を食べられないことを見せつけているみたいに感じる。もちろんそんな意図がないことはわかっているんだけど。


「どうしたんですか?元気ないですよ?」

「そう?いつも通り元気だよ」

「ならいいんですが」


いつも三人で食卓を囲んでいるが、もちろん常に会話しながら食べているわけではない。静かな部屋の中で、二人の箸が食器にぶつかる音、食器が移動する音が響く。目の前では香苗が美味しそうに食事を頬張り、次いでごくんと喉を通過する。あんなに美味しくなさそうな料理でも、香苗の中に入って血に変われば、私にとって御馳走になる。


「なにそんなにじっと見てるんですか…?」

「ごめんごめん、香苗は可愛いなあと思って」

「そ、そんなお世辞は言わなくていいです」

「お世辞じゃないのに」


少し照れた表情をした香苗はすぐにご飯に戻る。


そうして晩御飯を終え、私は部屋に戻る。

すると、部屋に入る直前、神君に呼び止められた。


「美夜」

「ん、なに?」

「…大丈夫か?」


唐突に心配された。


「えっと、何が?」

「いや…、別に」


神君は煮え切らない様子で答える。

血のことだろうか。でもそんなことは今更心配されるようなことでもない。


「何もないならいいんだ」

「うん、大丈夫だよ」

「…そうか」


よくわからないけど、神君が自室に戻るのを見て私も部屋に入った。


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