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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
26/33

26. 和解


「全然会ってもいいって」

「そうですか!」


香苗がみんなに会いたがっている旨を伝えると、愛海も菜月も二つ返事でオーケーを出してくれた。


「でも、本当によかったんですか? わざわざこっちまで来てもらうなんて」

「観光ついでに来るんだって。だから気にしなくてもいいよ」

「ならいいんですが…」


愛海と菜月が香苗の家までお邪魔しに来ることになった。友梨佳ちゃんはお留守番だ。一応香苗は吸血種の敵なわけだし、友梨佳ちゃんに万が一のことがあっては困る。


「そういえば、血は大丈夫なんですか?」

「なんのこと?」

「っ、私あれから吸われてませんが…」


そうだった。香苗は私が人を噛まないよう、私に血を吸わせようとしたんだった。


「えっとー」

「っ…、うすうすは気づいてました」


香苗は半ばあきらめたようにそう言う。


「それで、皆さんはいつ来られるんですか?」

「明後日だよ。明後日は香苗は何にも用事ないって言ってたよね」

「はい」

「よかった。朝からこっちに来たいみたいだからよろしく」

「わかりました。一応部屋の準備もしておきます」

「うん、ありがとう」




そして当日。香苗は朝からバタバタと客人を迎える用意をしている。


「美夜、香苗さん、僕は少し出てくるよ」

「えっ、神君は会わないの?」

「ああ。どうやら楽しそうな女子会になりそうみたいだからな」


楽しそう、って。

神君は面倒なことに関わりたくないんだろう。私の返事も待たずに家を出ていった。


しばらくすると、室内にインターホンの音が鳴り響く。時間的にも愛海たちで間違いないだろう。

どうやら香苗は少し緊張しているみたいで、深呼吸をしてから受話器を取る。


「今行きます。少しお待ちください」


香苗は小走りで玄関へ向かい、私もその後について行く。

玄関の扉を開くと、香苗と同様、少し緊張感が漂っている愛海と菜月が立っていた。


「あ、初めまして。美夜の友達の小倉愛海です」

「私は野原菜月です」

「初めまして、私は木月香苗と言います。どうぞ中へ」

「「お邪魔します」」


香苗は二人をリビングのソファに案内する。


「少しお待ちください。今お茶を淹れてきます」

「あ、お構いなく」

「いえ、ご用意してますので」


一旦香苗が席を外すと、私たち三人だけになり、二人の表情が少し弛む。


「優しそうな人で安心したよ」

「うん。ほんとによくしてもらってる」


「お待たせしました。どうぞ」

「ありがとうございます」


香苗は一応私の分も含めて四人分のお茶を用意してくれる。

愛海も菜月もカップに注がれたお茶を一口飲む。


「美味しいです」

「よかったです」


そして香苗もお茶を口にし、一息ついてから話を始める。


「今回は私のお願いを聞いてくださりありがとうございます」

「いえ、私たちも美夜がお世話になっている方とお会いしてみたかったので。いつもありがとうございます」

「いえいえ。それで、早速本題なのですが」


香苗はそう言いつつ、私の顔を一瞥する。


「美夜本人の前でこんなことを言うのは失礼かとも思いますが…、私はお二人が美夜のことをどう思っているのか知りたいのです」


愛海も菜月も、予想通りといった表情でそれにこたえる。


「大切な友達です。美夜は友達想いだし、一緒にいると楽しいです。木月さんは美夜のことが怖いですか?」


面と向かって言われると照れる。

でも二人は照れている様子はなくて、まじめに香苗と話している。それほど、ここには覚悟を持って来てくれたのだろう。


「えっ。そう、ですね…、少し怖いです」

「仕方ないと思います。むしろ怖くない私たちの方が珍しいですよね」

「ちょ、ちょっと待ってください。お二人は知っているのですか?」

「ん、美夜が吸血種だってことですか?」

「なっ!」


香苗はその丁寧な所作が崩れるほど目に見えて驚いた。


「あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてません!」

「ごめんごめん、言い忘れてた」

「…それを知ったうえでお友達だったんですね」


香苗は少し考えこんだ後、次の質問を口にする。


「…では、皆さんは美夜に血を吸われたことはあるんですか?」

「ありますよ」

「私もあります」

「っ、怖くないんですか?」


確かに、今まで私も聞けなかったけど、血を吸われることを怖がっていないのか少し気になっていた。まあ愛海は吸われたいみたいだけど、菜月に関してはよくわからない。いくら友達といえど、血を吸われるということは命を握られているのと同じだ。

でもそんなことは気にしないと言わんばかりに、二人ともあっけらかんと答える。


「怖くないですよ。友達ですから」

「うん、私も怖くないです。噛まれてもちょっと痛いくらいだし」


ん、痛い?


「え、菜月は噛まれて痛かったの?」

「そりゃそうだよ。噛まれて痛くないわけないじゃん」

「え、あ…、そうよね…」


痛いの?吸血って気持ちいいんじゃ…。だって愛海は気持ちよさそうに…。

待って、もしかして吸血が気持ちいいんじゃなくて、愛海は痛いのが好きとかそういう…。

愛海のほうへ視線をやると、愛海は何かに気づいたように顔を赤らめて視線をそらされた。


「皆さん、美夜のことを信頼しているのですね。…すみません、私ばかり質問してしまって」

「いえ。木月さんは美夜のこと信頼できませんか?」

「それは…。たぶん信頼できるんだろうなとは思うんですけど、やっぱり怖くて」

「大丈夫ですよ。美夜は優しいですから」


まだ少し納得できないような顔をする香苗が、意を決したように口を開く。


「……、これは言ってもいいんでしょうか…」

「なんですか?美夜のことなら何でも聞いてください」

「じゃ、じゃあ。その…、以前、美夜に無理矢理血を吸われそうになったことがあって、それが怖くて」


あー、そういえばそんなことしちゃったなあ。あの時の香苗はかわいかった。

そんなことを考えていると、愛海から急に殺気めいたものを感じる


「それは本当ですか?」

「え、ええ…、本当ですが…」


さっきまで赤面していたのが嘘のように、打って変わって鋭い視線が私に向けられる。これはよくない展開だ。菜月に同じようなことをして愛海に怒られたのは今でも鮮明に覚えている。


「えー、あー、そのー、…なりゆきで?」

「美夜、別の部屋、行こっか」

「……ひぃ」


隣の部屋に連れていかれた私はこってりと絞られた。

体感時間にしたら一時間は超えてたよ、うん、絶対。




「あ、二人ともおかえり」

「た、ただいま…」

「はは、おつかれさま」

「うぅ…」

「当然よ。木月さんごめんなさいね。美夜にはしっかりと言っておいたから、もうそんなことされる心配はありません」

「は、はあ…」


香苗は信じられない光景を目にしたような顔をしている。きっと香苗にとって私たちの関係は不思議なものなんだと思う。愛海に怒られたのは災難だったけど、これで香苗の中の恐怖が薄まったのならその甲斐もあったというものだ。

そんなこんなで話も終え、一段落着いた私たちは、普通の女子会を楽しんだのだった。




「じゃあ香苗、またね!」

「ええ、また来てください」


愛海も菜月もすっかり香苗と仲良くなり、二人は街を観光してくると言って帰ってしまう。私も行こうかと少し思ったけど、なんとなくやめておいた。

二人を送り出した玄関が閉まると、香苗は穏やかな口調で言う。


「優しい人たちですね」

「うん。私にはもったいないくらい」


その時、私は初めて香苗の本当の笑顔を見られた気がした。


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