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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
23/33

23. 和解?


「わ、私の血を吸ってください!」

「えっ」

「シスターとしてあなたが人を害するのを見過ごすわけにはいきません!」


香苗は震えた声を押し殺すようにお腹の底から声を出す。でもその体はやはり小刻みに震えている。


「大丈夫、ちょっと吸わせてもらうだけだから害はないんだよ」

「っ、それを信用できるとでも…?」


私を見る目は完全に化け物を見る目で、それは私にとって初めての経験だった。でも本当はこれが普通の反応であり、菜月や愛海が特別だっただけ。

でも香苗にとっては、私への恐怖よりもどこの誰とも知れない人を心配する気持ちの方が大きいらしい。香苗を振り切って血を吸いに行くのは簡単だけど、そうしたらいけない気がした。


「…わかったわ」


そうして私は香苗の体を抱き寄せる。その体から震えが腕に伝わってきて、背中はうっすら汗ばんでいる。目の前のおいしそうな首筋に今すぐかみつきたい衝動に襲われる。


「私を見て」


私は香苗を魅了にかけ、そっと牙をたてて傷痕だけを作る。


「じゃ、私は行ってくるわ」

「ん、いいのか?」

「私今すごく喉が乾いてて、香苗一人じゃ貧血にさせちゃいそうだから」


香苗には悪いけど他の人から血をもらおう。香苗は気づかないし大丈夫。こんなに優しい人から血を吸うなんて、まるで私が悪いことをしているような罪悪感を感じてしまう。


とりあえず香苗のことは神君に任せて私は家を出る。おいしそうな人間を探しながら、少し頭の冷えた私は脳裏に焼き付いた香苗のあの目を思い出す。化け物を見る目。私ってそんなに怖いんだろうか。

少し細い路地裏で人を見つけて魅了する。目が虚ろになったその人の首は無防備にさらされる。


「私のこと、怖い?」


口をきけないその人に小さく問いかけると、私の言葉は誰の耳にも届くことなく消えていく。


「怖いか」


自分の知らないうちに、自分が何もできない間に血を抜かれる。殺されるかもしれない状況、怖くないわけがない。

そうして数人から血をもらった私は内にかすかなもやを感じるのだった。



◇◇◇



翌日、香苗と顔を合わせると私のことを怯えた様子で私を見る。


「お、おはようございます…」

「おはよう、昨日はごめんなさい」


私は素直に謝ったけど、香苗の顔から恐怖の色が消えることはない。


「あ、あの…、朝食は」

「ありがと、わざわざ用意してくれなくてもいいよ」

「今日も血を吸いますか…?」

「ううん、数日は大丈夫」


香苗は少しほっとした様子で朝食に戻る。香苗の様子から見てたぶん首の傷痕には気づいてると思う。


「傷は痛まない?」

「…はい」

「ならよかった」

「っ、あなたに心配されるいわれはありません」


怖がられるのは嫌だしなんとかして香苗に私が無害であることを伝えたいんだけど、私は香苗を押し倒し神君も香苗に剣を向けたせいで、かなりギスギスしてしまっている。


「今日にでも出ていくわ」

「えっ」

「香苗も私たちがいたら迷惑でしょ」

「…これからどうするんですか?」

「特に決めてないわ」


そう言うと香苗は何かを考えるように少し沈黙した後に口を開く。


「話をしませんか?」

「わかった」


私たちはテーブルの席に着く。


「質問していいですか?」

「どうぞ」

「…二人は吸血種とハンターということでいいんですよね」

「ええ」

「どうして二人は一緒に行動してるんですか?」

「友達だからだね」

「友達…、吸血種とハンターが…。美夜は人間のことをどう思っているんですか?」


なんと答えるのがいいんだろう。人間は餌だと言い切ってしまってもいいけど、それじゃあまりに印象が悪いかな。


「友達もいれば食事の対象もいる、ってとこね」

「…」

「私からも聞いていいかな」

「…はい」

「どうして私たちを追い出さないの?怖いんでしょ?」

「それは…、ちょっと興味があって」

「というと?」

「吸血種と会話できる機会なんてないし、それに誰かが襲われることを見過ごすわけにはいきません」


なるほど。正直それはありがたいけど、これ以上香苗を怖がらせるのも申し訳ない。かといって行く当てもないし、怖がらせなないようにすればいいか。せっかくの申し出だし、断るのも悪いよね、うん。


「わかったわ。じゃあもう少しいさせてもらおうかな。あ、ついでにそのでっかい十字架、片付けてもらえると嬉しいんだけど…」

「…わかりました」

「えっ、いいの?」

「はい」


ダメ元でも言ってみるものね。まさか本当に片づけてくれるとは。

そうしてリビングの十字架がなくなり、私のQOLはかなり改善した。




私は部屋に戻るとベッドに飛び込む。


「はあ、みんなに会いたいなあ」


天井を見上げつつ、不意に思う。

愛海や菜月は何をしているだろうか。友梨佳ちゃんの様子も気になる。

それにお母さんも。


「よし」


私はとりあえず愛海の電話番号に電話をかける。


「もしもし」

『美夜!久しぶり!』

「前に話してからそんなに時間たってないけどね」

『もー、美夜がいなくなってからずっと寂しかったんだから。全然連絡くれないんだもん』

「ごめんごめん、いろいろあってね。でもしばらくはのんびりできると思う」

『そっか、良かった。ところで、何か用があったの?』

「ううん、なんとなくどうしてるのかなあって気になっただけ。みんな元気にやってる?」

『ええ。あれから特に何も起きてないし、今まで通りやってるよ』


学校の様子は私がいたときと特に変化はないみたい。あの一件以降、しばらくはいろんな話題や意見が飛び交っていたようだけど、それも下火になっているらしい。

それから少し他愛もない会話をしていると、愛海が私に質問を投げかける。


『あ、そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど』

「どうしたの?」

『ハンターって結構出会うもの?』

「うーん、どうだろ。お母さんからは良く話を聞いたけど、私はたまに見る程度かな」

『そっか…、ありがと』


なんでそんなことを気にするんだろう。

もしかしてハンターらしき人物と会ったのだろうか。友梨佳ちゃんの件もあるし、少し気になる。


「週末そっち行っていい?」

『え、私の家?』

「うん」

『もちろん!楽しみにしてるわ』


久しぶりにみんなの顔を見られると思うと自然と顔がほころぶ。

結局週末まで顔の弛みが取れることはなく、何かいいことがあったのかと神君に聞かれるほどには顔に出ていたらしい。


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