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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
20/33

20. 甘い香り


次の日、私は喉の渇きとともに目を覚ます。血を吸わないまま今日で四日目になる。ここまで血を吸わない期間が続いたのは旅行に行った時以来だろうか。久しぶりの喉が熱くなっていく感覚にちょっとした焦りを覚える。


(神君に血をもらうか、香苗に魅了かけて血を吸うか…)


いや、神君にもらうのはやっぱり私が嫌だ。かといって宿を貸してくれている恩人にそんなことをするのも申し訳ない。結局しばらく考えた挙句、二人から血をもらうのは無しにして夜まで我慢することにした。


「おはようございます」

「おはよう」


今日も朝食を前にして一段と気分が滅入ってしまう。毎日用意してくれるのはありがたいけど、それだけに食べ残しをするわけにはいかない。


「「「いただきます」」」


私の向かいに座る香苗は美味しそうに食事を口に運ぶ。香苗が動くたびに髪に見え隠れする首筋が私の欲を刺激する。


「…ごめん、今日はあんまりおなか減ってなくて」

「…わかりました。無理して食べなくてもいいですよ」

「うん、ごめん」


結局、私は完食できず、早々に席を離れて部屋に戻る。これ以上料理を食べると本当に我慢できなくなりかねない。今日はおとなしく夜になるまで時間をつぶすことにした。

幸いなことに、夜まで香苗が私に話しかけてくることはなかった。神君が一度私の部屋に来て晩御飯を食べるかどうかを聞いてきただけ。おそらく神君が私の状況を察してくれたのもあってか、香苗に呼ばれることはなかった。



その夜、私は待ってましたと言わんばかりに黒い服に身を包む。こんなに吸血を待ち望んだのは久しぶりだ。ようやくおいしい食事にありつけると思うと自然と顔が緩む。


(吸いすぎないように今日は二人くらいから分けてもらおうかな)


夜の街は今の私にとってすごく心地がいい。この街は夜でも人が多い気がする。あまり吸血種の被害が出ていないからなのか、それともハンターの数が多いからなのだろうか。

この街に来て数日、腰に剣を携えた人を定期的にみる。街の規模が大きい分、警備もしっかりしているんだろう。


「でもいくらしっかり見張ったところで絶対に穴はあるものだよね」


人気のない道で一人でいる人から数人血をもらって満足した私は、久しぶりの満足感に胸を膨らませて家に戻るのだった。



◇◇◇



翌日、私はアルバイトを探すべく、求人広告を見ていた。


「なかなかいいのないなあ」


本来食費はかからないし、住むところも香苗が提供してくれているからお金を稼ぐ必要はないんだけど、如何せん暇だ。神君はハンターの役目を果たすと言っているし、香苗は仕事。そうなると私だけが独り、正真正銘のニートというやつだ。


さすがにそれはまずい、何かすることを探さないといけない、というわけでバイトを探している。

しかし良さそうなバイト先が見つからない。

まず、飲食店は気が乗らない。美味しくなさそうな料理を作る気にはならない。ほかには家庭教師の募集がある。生徒から血は吸い放題だけど、あいにく私は教えられるほど勉強が得意ではない。ほかにもあまり面白そうなものはないし。


「はあ」


軽くため息をつき、とりあえず街を散策することにした。

昼間から多くの人でにぎわっており、気の向くままに歩いていく。

ここを右に曲がれば…、なにやら武器やら防具やらを取りそろえた店が並んでいる。おそらくハンターを対象としたものだろう。入るのはやめておこう。

このまま進むと、食品や雑貨が置いてある。残念ながら私が見ても特に面白いものはなさそう。

となると、こっちの狭い通路の方か。大通りと違って人通りが少ないけど、こういった道は意外と面白いものがあったり、抜け道になっていたりするから、つい気になってしまう。

すると、狭い道を少し進んだところで、甘美な匂いが私の鼻を刺激した。


(これは、血の匂い…? それもかなりおいしそうな)


匂いの強くなる方へ進んでいくと、その匂いの発生源がわかった。

子供だ。だからこんなにおいしそうな匂いだったのね…。って、いけないいけない。


「ぼく、こんなところでどうしたの?」

「うぅ…、っ……」


その子は背中を上下に揺らし、静かに泣いていた。


「怪我したの? 痛いの?」


私の問いかけにその子は首を振る。

血の匂いがするのは確かだからどこか怪我してるのは間違いないんだろうけど、泣いている理由は別にあるのかな。


「それじゃあ迷子? お母さんは?」

「ぅ…、わかん、ない…っ」


どうやらお母さんとはぐれて迷子になっているらしい。こんな人通りのない道にいればお母さんも見つけるのは難しいだろう。


「じゃあお姉ちゃんが一緒に探してあげるから、おっきい道行こ?」


私がそう言うと、その子はこくりとうなずく。私は手をつないで狭い道を進んでいく。


「ぼく、ほんとに怪我してるとこない?」

「あ、えと…、肘…、こけたときに」

「見せてごらん?」


その子の言った通り、右の肘あたりに擦り傷ができている。とても舐めたいけど、子供とはいえ、私が吸血種だとバレるわけにはいかない。


「痛そうだね、でもちゃんと傷口きれいにしないと」


大通りに出、近くにあった蛇口で傷を洗わせる。せっかくの血が大量の水で薄まり、流されていく。

ああ、もったいない…。


「…はい、よくできました。じゃ、お母さん探そっか。特徴はわかる?」


この子の話では、黒くて少し長めの髪、体型は普通、やさしい、眼鏡はかけていない、服装はわからない。

いや、全然わからないんだけど!

なんかもっとこう、ばしっと決まるような特徴はないのかしら。



結局、その後しばらく闇雲に歩き続け、この子の知っている景色にたどり着いた。

ここからなら一人で家まで帰れるらしい。


「お姉ちゃん、ありがとう!」

「これからは気を付けるのよ」

「うん!ばいばい!」


その子の姿が見えなくなると、どっと疲れが押し寄せる。


(ふぅ……)


あの子が歩き疲れて私がおんぶしたときはほんとに生殺し状態だった。目の前の甘美な匂いに打ち勝った私を誰か褒めてほしい。帰ったらすぐ血吸いに行こ。

あ、そういえばバイト…、はまたそのうち探そう。うん、気が向いたら。


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