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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
18/33

18. 共闘


「美夜、ほんとに戦うつもり?」

「うん」

「っ、私は…」

「お母さんは来なくても大丈夫だよ。迷惑はかけられないから」

「でも…」

「それに神君だっているから大丈夫」


もとはといえば私がまいた種。ただでさえお母さんには迷惑をかけてしまった。神君もいるし、私たちで何とかしてみせる。



夜になるのを待ち、私と神君はもう一度作戦を確認する。


「あの吸血種は俺よりはるかに強い。それはあいつもわかっているはず。だが、だからこそ、そこに付け入る隙がある。あいつが本気になる前に一気に勝負をつける。いいか」

「うん、わかった」


予定通り、神君は私の家の前で待ち構え、私は少し離れたところから様子をうかがう。

神君の見立てでは、あいつの目的は私たちをもてあそぶことにある。とすると、あいつは必ず現れる。

私の前に現れるか、神君の前に現れるか。おそらくは。


「あら、一人しかいないの? さみしいわね」


やっぱり。これも神君の予想通り。あからさまに隠れた姿勢を取っている私より、堂々と待ち構えている神君の方に出向き、こっちの作戦がうまくいっていると見せる可能性が高い。つまり、これからはプランAということだ。


「お前を倒すのは俺一人で十分だ」

「威勢がいいことで」


神君はあいつに突撃をかけるが、すべての攻撃が難なくかわされる。


「くっ!」

「この程度で私に勝てるとでも思ってたの?」


さらに神君は攻撃を仕掛け、徐々に私のところまであいつを誘導する。

そして、私の踏み込みでちょうど手が届く距離まで接近した瞬間、私は吸血種の背後めがけて右の拳を振りぬく。

受け止めるか、それとも避けるか。


「なっ!?」


私の右手は吸血種の左手で受け止められる。


「そんなに驚かないでよ。初めからあんたらの考えなんてお見通し」

「くっ!」


神君が再び斬りかかろうとすると、私の右腕が牽引される。

さすが神君。ここまで読めるなんて。私を盾にすることくらいお見通し。

私はあらかじめ神君に渡されていた短剣を吸血種の首めがけて突き刺す。


「っ!」


しかし、短見が首に届く寸前のところで止められる。

これでもダメか…。


「へえ、危ない危ない。これが本命だったわけね。危うく一本取られるところだったわ。…ん、ハンターの小僧は、っ!?」


吸血種の驚くような声と同時に、私の左胸にも激痛が走った。

私の左胸を貫いた剣はそのまま吸血種の心臓部を貫通している。


「っ!まさかこの女ごと…」


純銀製の剣でつけられた傷は簡単には再生できない。心臓を貫かれればいくらこいつでも致命傷になる。


「…不快だ!」

「うそっ!?」

「馬鹿な!たしかに心臓を…!」


吸血種の眼が紅く光る。私を引きはがそうとする力が増し、吸血種から徐々に剣が抜けていく。

なんで?確実に心臓へ刺さっているはず。こんなに動けるはずが…。このままじゃまずい!

抜けていく力を振り絞って吸血種の力に抵抗する。


「この女!」


私は咄嗟に吸血種の首にかみつく。噛み傷から流れ込んでくる血液が私の中に流れ込んでくると、体の奥から熱く燃え上がるような感覚に陥る。


「くっ!」


すると、吸血種の傷口から滴る血液が徐々に固体化し、鎌のような形をつくり始める。


「まずい!」


神君は私の背後から吸血種の首をめがけて短剣を振りかざす。

でも、だめ、間に合わない!

助けて…!


「ま、さか……!きさ」


そんな吸血種の声が聞こえ、一瞬動きが止まる。その直後に、神君の短剣がその首をとらえる。

なに?何が起きたの?

吸血種の断末魔とともに短剣が首を切断する。切断された断面からは焼けるような音が聞こえ、徐々に体が灰となって崩れていく。

そして全身が完全に崩れ去り、あたりは静けさを取り戻す。


…やった、倒せたんだ。

その感覚が現実味を帯びていき、左胸の激痛を思い出す。


「っ!」

「美夜!大丈夫か!」


痛い、痛い!

力が入らない。


「我慢しろ、今抜いてやる」

「っ、うっ!あああ!!!」


純銀製の剣が私の体を裂きながら取り除かれる。


「早く噛むんだ!」


目の前に差し出された首筋に噛みつく。

新鮮な血液が体内に入り、徐々に傷口の周りを中和し修復していく。

足りない、まだ……。

神君……。





気が付くと、私は見慣れた部屋のベッドの上にいた。


「気が付いた?」

「…、お、母さん?」


ここは私の部屋だ。お母さんが運んでくれた?


「神君は!」

「そこに寝かせてるわ。貧血で倒れたみたいね」

「そっか、無事で…、よかった…」


あの吸血種を倒した後のことは何も覚えていない。神君を噛んだところまでは覚えているけど、それ以降の記憶がない。私は怪我をしていたんだし、血をたくさん吸ってしまったことは想像に難くない。

神君は今は布団で静かに寝ている。とにかく無事でよかった。目を覚ますまでゆっくり待とう。


「お母さん、これからどうしよう」

「美夜は別の街に行きなさい」

「お母さんは?」

「私は行かないわ。私と美夜が一緒にいるのはここまでよ」

「えっ、ここに残るの?」

「…いえ、もう美夜は一人前になったわ。だから私がそばにいるのは終わり」

「へっ?」


今なんて言った?そばにいるのは終わり?


「意味わからないんだけど…」

「ごめんなさい。でもこれが吸血種の在り方だから。私たちは隠れて生きる存在。あまり集まって生活するのは危険なの」

「ちょっと待ってよ!そんないきなり」

「そういうことだから。じゃあね、さよなら、美夜」


お母さんはそう言い残して夜の闇に消えていった。唐突すぎる出来事に頭の整理が追い付かない。


明日からお母さんがいない?どうやって生活していけって言うの?

たしかに食事もできるし、吸血種の力を使えば家を確保することだってそう難しくはないけど…。


どうして?

もしかして私が吸血種ってバレたから?

私、見捨てられたの?

ううん、そんなわけない。お母さんが私を見捨てるなんて、絶対…。


「んっ…」

「あ、神君!」

「っ、美夜か…?」


神君は頭を抱えながら上半身を起こす。その時、少しふらついたのを見て咄嗟に支える。


「無理しないで。貧血なんだから、横になって」

「あ、ああ。…美夜はもうなんともないのか?」

「うん。神君のおかげで、すっかり元通りだよ」

「ふっ、さすがだな」



そのまま神君はもう一度寝てしまい、次に目を覚ましたのは昼を回ってからだった。


「そうか。お母さん、行ってしまったのか…」

「うん…、私もよくわかんないんだけど」


とりあえずあったことを説明したけど、私もいまいち状況が飲み込めていない。


「でも迷っていても仕方ない。とにかく俺たちのすることは決まっている」

「…そうね」


この街を出る。これは決定事項だ。


「でももう少しゆっくりしてからでもいいよ? まだ体辛いでしょ」

「いや、もう大丈夫だ」


そう言って神君は立ち上がる。ふらついたりしてないし、一応は大丈夫そう。


「わかった。じゃあ行こう」


こうして私たちは今まで住んできた町に別れを告げた。


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