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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
17/33

17. 唐突な終わり


翌日、私は友梨佳ちゃんのことが気になっていたけど、愛海はそれほど落ち込んでいるようにも見えなくてひとまずは順調に事が進んでいるのかと少し安心した。


「愛海、おはよう」

「うん、おはよう」

「友梨佳ちゃんは大丈夫?」

「うん、ちょっと元気になってきたと思うわ」


 愛海が柔らかい表情でそう言うと、菜月も安心しているようだった。それにしてもたった一日で受け入れられるのは、やっぱり愛海の存在が大きいんだろう。私にも兄弟姉妹がいたらなあ、なんて思う。


「これから血は愛海があげるの?」


 私がそう聞くと愛海は少し迷っているようだった。

 愛海が言うには、できるだけ自分の血をあげたいけど貧血にならないか心配らしい。私も同じ人間から血を吸い続けたことなんてないからよくわからなかった。

 結局、当面の間は愛海が血をあげることになり、必要があれば私に相談するということで落ち着いた。



 そんな話をしながら学校も終え、帰ろうとしたときに神君に声をかけられた。


「ちょっと美夜、相談があるんだけど」

「なに?」

「ついてきてくれないか?」


 そう言われて私は校舎裏に呼び出される。傍から見ると少しドキドキするシチュエーションだけど、神君の顔は少し険しかった。


「それで相談って?」

「…あの吸血種のことについてだ」


 神君は少しばつの悪そうな顔をしながら言う。以前、神君はあの吸血種はとても強いと言っていたから困っていることは想像できる。私に吸血種の弱点でも聞こうとしているんだろうか。


「私に聞きたいことでもあるの?」

「いや、聞きたいというか、手を貸してほしいんだ」

「…え?私は戦ったりできないよ?」

「いや、美夜ならできる」


 え?

 言われたことが信じられなくて頭の中を疑問符が埋め尽くす。吸血種だから人間よりも力は強いけど、今まで戦ったことなんかないし、いきなり戦えと言われてもそれは無謀というものだ。

 そのことを伝えても神君は本気で私のことを戦力と考えているらしい。足が速いから陽動になるとか何とか言われたけど私にはてんで理解できない。


「私は戦うなんて無理だよ」

「…、今すぐに決めてほしいというわけじゃないけど考えておいてくれ」


 神君はそう言って帰ってしまった。



翌日、私は学校に向かいながら考えを整理していた。神君にはああ言われたけど、戦いではてんで素人の私じゃ神君の役に立たない。むしろ足手まといになる気がする。

学校についたけどまだ神君の姿は見えない。放課後にでも伝えようかと思いながら席に着く。相変わらずみんなの会話の話題は吸血種に関連するものが多い。菜月も愛海も私の心配をしてくれるけど、特に実害もあるわけじゃないし何とも思わない。


そして順調に今日も授業が進んでいく、…はずだったのに。

授業が三限目にさしかかったとき、そいつはやってきた。


「はーい、人間の皆さんごきげんよう」


突然のことだった。窓ガラスが割れる音とともにあの吸血種が教室に乗り込んできた。クラスのみんなは驚いた顔でそいつを見つめている中、神君はすぐにカバンに入れている刀に手を伸ばす。

しかしそれよりも早くそいつは近くの生徒をつかみ上げた。


「動いたらこの子、殺しちゃうよ?」


そいつの不敵な笑顔からは大きな牙が見えていて、あたりの空気が冷たく張り詰める。私たちがそいつの動向を見守っていると、そいつは捕まえていた生徒の首に思い切りかみついた。首から流れ出る血が鎖骨まで伝って制服を赤く染めていく。

あちこちから悲鳴があがる中、神君はそいつに向かっていった。そいつはかみついていた生徒から牙を抜くとその剣撃を軽くかわす。


「あら、あんたじゃ私には勝てないわよ?ハンターならまずあっちの吸血鬼からやったほうがいいんじゃない?」


そいつはそう言って私の方を指さして見せる。それと同時におびえた視線が私に集まる。こいつの目的は血を吸うことでも神君と戦うことでもない。私の正体の暴露。要は私へのただの嫌がらせだ。

そしてそいつの狙い通りに教室は混沌としたものになる。泣き出す人や吸血種におびえる人、神君や私を見つめる人。そんな状況をあざ笑うように笑みをこぼすとそいつはさっさとその場から姿を消した。


一転して静けさを取り戻した教室で、神君が私の名前を呼ぶ。


「美夜!」


周囲からの視線が私に集まる中、神君のもとまで行くと、首から今もなお血が流れ出る生徒が横たわっていて、早く血を止めないと危険な状態だった。でもそれをみんなの目の前でするということは、私が吸血種だと公言するということ。それでも私は見殺しにするなんてできないし、きっと神君もそれをわかっていて私を呼んだんだろう。

乱暴に深く牙を入れられた噛み痕をなめると血はすぐに止まり、それと同時に甘い血が口の中いっぱいに広がる。とうとうばれちゃったか、なんてどこか冷静に考える自分がいる。


「美夜がいて助かったよ」

「うん、もう大丈夫」


そして私と神君はみんなの視線から逃げるように教室を後にした。

とりあえず行くところもないから私の家に行ってこれからどうするかを話し合うことになった。


「神君は別に逃げなくてもよかったんじゃない?」

「確かにそうかもしれないけど、ハンターだって知られると居心地悪いよ」


そんなこんなで家に着いた私たちはお母さんに難しい顔をされながら家に上がる。まあ神君は私を斬った張本人なわけだしお母さんの反応も当然だ。

部屋に入ると私はまず現状を整理する。私のことがクラスのみんなに知られたのは確実だろうからもう学校には行けない。それどころかあんなに大人数に知られてしまってはこの街にいることすら難しい。


「私はこの街から出るしかないね」

「…僕もついていっていいかな」

「え?」

「僕ももうあの学校には行きにくいし美夜の監視もしないといけないからね」


少し笑いながらそう言う神君にとって、監視というのは建前というか名目上ということなんだと思う。実際監視らしい監視なんてされていなかったし。どっちにしても私はもうこの街にはいられない。菜月と愛海に会えなくなるのは悲しいけど仕方がなかった。


「だけどその前に」

「ん?」

「あの吸血鬼をなんとかしないといけない」


神君は難しい顔をする。私に一緒に戦ってほしいということなんだろう。本当は断りたいところだけど、状況が状況なだけに私も覚悟しないといけないかもしれない。


「だから美夜に頼みがあるんだ」

「一緒に戦うってこと?」

「それもそうなんだけど…」


神君はしばらく考え込んだ後、びっくりするようなことを言う。


「僕に斬られてほしい」


んっ!?

あまりに驚いてしまって声にもならなかった。


「あ、いや、おとりになってほしいってことなんだけど…」


おとり、そう言われてもぴんと来ない。そんな私を見て神君は考えを教えてくれた。あの吸血種を倒す方法を。


一通り話を聞いた私は頭を抱えた。なるほど確かにそれなら勝てるかもしれない。そして神君が申し訳なさそうにする理由も理解した。本心ではきっぱり断ってしまいたかったけど、私よりもエキスパートな神君が最善と考えた方法に私がそれ以上の策を考えつけるとは思えなかった。

そうしてしばらく考えたのちに、私は返事を返す。


「…わかったわ。でもそのあとの責任はちゃんととってよね」

「ありがと、もちろんだよ」


そうして私と神君はあの吸血種と戦うことを決めた。



それからしばらくすると菜月と愛海が家に訪ねてきた。事前に連絡もなかったし息も若干あがっているところを見ると急いできたんだろう。


「美夜大丈夫?」

「うん、私は平気だよ」

「そっか、よかった…」


どうやら二人は私がショックを受けてないか心配してくれていたらしい。


「クラスのみんなは私のこと何か言ってた?」

「っ、いろいろかな…」


菜月はそう言って悲しそうな顔をする。その様子から考えると、私のことを怖がったり嫌がったりしている人も多かったに違いない。


「私と神君はこの街を出るわ」

「「えっ」」


菜月も愛海も口をそろえて驚いたあと、またすぐに悲しげな顔になる。二人だって仕方がないことだと理解しているんだろう。それにもう二度と会えなくなるというわけじゃないし、電話なりメールなりいつでも連絡はとれる。友梨佳ちゃんにも教えることは教えたし、そういう意味で思い残すことは何もない。


「仕方ないことかもしれないけど会えなくなるのはさみしいわ」

「大丈夫よ、寂しくなったら電話もメールもできるんだし」

「それはそうだけど…」


それから少しの間みんなで話して、次がいつになるかわからない最後の会話を楽しんだ。

その後、私と神君は二人を家まで送り届けてから準備を始めた。あの吸血種を倒すために。


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