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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
15/33

15. 私にできること

愛海視点になります


 美夜と菜月を見送った後、友梨佳の部屋に戻るとさっきまでは見せなかった心配そうな目で私に聞いてきた。


「お姉ちゃん、私何か重い病気なの…?お姉ちゃんも先輩たちもみんな暗い顔してた」


 そんな顔をする友梨佳を見てられなかった。私はもし友梨佳が吸血種になっても今までと同じように接したいと思ってる。でも友梨佳にそれを伝えるのが怖かった。


「…大丈夫よ、どこか具合悪いところはない?」

「うん、大丈夫」

「そっか、ならいいの。でももし何か変だと思うことがあったらすぐにお姉ちゃんに言うのよ」


 私は精いっぱいの笑顔で友梨佳を安心させようとした。それが功を奏したのか、友梨佳は少し表情が柔らかくなった気がした。

 その後、私は友梨佳に学校を休ませることにし、私も一緒に休むことにした。そこまでしなくても、と言われたけど、もし学校で誰かを噛んでしまってからでは遅い。それに私がいればもしもの時があっても助けてあげられる。私はそう思いながらずっと友梨佳のそばにいることにした。


 翌日、朝起きると真っ先に友梨佳の様子を見に行った。友梨佳はもう起きていたけど、眼は紅くなってはいなかった。

 私は前に吸血種について美夜に聞いたことがある。吸血種は吸血を我慢しすぎると眼が紅くなって喉が焼けるような感覚になるらしい。ほかにも、人の食べ物の味がわかりにくかったり傷の治りが早かったり。とにかくそんなことを思い出しながら友梨佳を見守ることにした。


「友梨佳、今日の調子はどう?」

「うん、もう大丈夫だよ」

「よかったわ。何か欲しいものはある?」

「うーん、ちょっと喉渇いてるかも」


 そう言われて私は思わず体がこわばる。


「…何が飲みたいの?」

「なんでもいいけど牛乳がいいな」


 いつも通りの友梨佳で私は安心した。見たところ我慢している様子もないしたぶん大丈夫だと思う。それに私が心配しすぎたら友梨佳だって心配してしまう。

 私は牛乳を入れてくると、友梨佳は一気に飲み干してしまう。よく考えてみれば昨日熱で寝込んでから何も飲んでいないのだから喉が渇いていて当然だ。


「おかわりー」


 生き返ったような顔をしてそう言う友梨佳に私は二つ返事でおかわりを入れに行く。おいしそうに飲む友梨佳を見るととても吸血種には見えない。美夜の言う吸血種は嘘を言っていたのだろうか。その後も特に気になる様子はなくて、私は心のどこかで安心していた。



 しかしその夜、そんな私の安心を裏切るかのように、深夜遅くに友梨佳が私を起こしに来た。


「…お姉ちゃん」

「あら、どうしたの?眠れないの?」

「喉乾いちゃって…」


 私は言葉を失った。どれだけ牛乳を飲んでも喉が潤わなくて、心配になって私の部屋に来たらしい。いくら飲んでも喉が渇くというのは、たぶんそういうことだ。


「一緒に寝ていい?」

「…うん、おいで」


 布団をあげると友梨佳は私の横にもぐりこんでくる。友梨佳は普段はこんなことをお願いしないから、きっと相当怖がっているんだろう。そんな友梨佳にかけてやる言葉が思いつかなくて、私は友梨佳を抱きしめる。


「ん、お姉ちゃんいい匂いする」

「…ありがと。もう夜遅いから早くお休み」

「うん」


 友梨佳はそう言うと静かに眠りに落ちた。

 腕の中で眠る友梨佳を抱きしめながら、私は友梨佳に吸血種にされたことを話すかを考えていた。これ以上友梨佳を不安にさせたくなかったけど、徐々にその傾向が出てきていることを考えれば早く教えてあげた方がいい。私は友梨佳が目を覚ましたら話すことを決意した。




◇◇◇




 翌朝、私は首元の奇妙な感覚とともに目を覚ますことになった。なんだか暖かくて湿り気のあるもので首をなぞられている感覚。

 私はそっと目を開けると、友梨佳が私の首を何度もなめていた。


「ひゃっ!」

「わっ!」


 突然のことにびっくりした私は思わず声をあげると、友梨佳もそれにびっくりしたように声を出す。


「ゆ、友梨佳…?」

「あ、ご、ごめん!」


 そう言って慌ててベッドから出ていこうとする友梨佳を引き留める。


「友梨佳、怒ってないからこっち来て」

「…ごめん、変なことしちゃった」

「ううん、大丈夫よ。もしかして具合悪いの?」

「そんなことはないんだけど…」


 友梨佳は言葉を詰まらせる。あまり吸血種のことはわからないけど、首を見ると噛んだり舐めたりしたくなってしまうものなんだろうか。友梨佳の頭を撫でてやると、友梨佳は安心した様子で少し微笑む。

 そんな姿を見て私は覚悟を決めて言った。


「なんで首舐めようと思ったの?」

「っ…、なんとなく、だよ」

「おいしそうって思ったからじゃない?」

「なっ、そんなわけ…!」


 友梨佳は見るからに動揺したのがわかった。姉の首がおいしそうに見えて舐めたなんて、友梨佳自身も戸惑っていると思う。私はできるだけ怖がらせないように落ち着いた口調で続ける。


「友梨佳は前に噛まれたことあったでしょ?そのときに…」


 私はそのあとの言葉が続かなかった。覚悟したつもりだったのに、いざ伝えようとするとその勇気が出なかった。それでも言いたいことは友梨佳に伝わったのだろう。友梨佳は驚いた顔と一緒に少しの恐怖を見せる。


「…、嘘だよね…?」

「…嘘じゃないわ」

「そんなのありえないよ…!」


 友梨佳は泣きそうな声でそう言うと部屋から飛び出してしまった。もしかしたら友梨佳自身も薄々感づいていたのだろうか。吸血種に噛まれた直後に熱で寝込み、起きたら喉が渇いてしまう、そんな状況では感づかない方が難しいかもしれない。

 私は一人になった部屋で自分のしたことが間違いだったんじゃないかと思ってしまうのだった。



 その夜、私はずっと友梨佳の視線を感じていた。でもそれは私への視線というより、私の首筋への視線だった。


「友梨佳、大丈夫?」

「っ、なんでもない」


 言葉ではそう言っていてもその顔はとても辛そうだった。友梨佳はそのあとも何度も傍から私に視線を送ったり外したりしていて、そんな友梨佳をもう見ていられなかった。


「…友梨佳、もう我慢しなくていいわ」

「……」

「血が欲しいんでしょ?」

「…いらない」


 友梨佳は下を向いたまま言う。


「これ以上つらそうな友梨佳は見たくないの。だからもう我慢しないで」


 私は何度か声をかけたけど、友梨佳は私の方を見ないし何も言わない。血を飲みたくない気持ちはわかるけど、我慢しすぎて取り返しのつかないことになってほしくなかった。どうしても友梨佳に血を飲んでほしかった私は、多少強引に私の膝の上に座らせて軽く抱きしめる。友梨佳の口元に私の首が近づくように。


「きゃっ!」


 そんな声を上げたのは私だった。そのまま首を噛まれるかと思って身構えていると突然押し倒されたのだ。思い切り背中を打ってしまって鈍い痛みが走る。友梨佳はそんな私を、いや、私の首を見ていた。その眼は紅く輝き、呼吸を荒げる口からは大きな牙が伸びている。そんな友梨佳の姿を見て私は噛まれる覚悟を決めて目をつむった。

 でもしばらくたっても噛まれることはなく、目を開けると友梨佳は必死に吸血欲に耐えていた。


「…友梨佳」


 私の呼びかけに反応した友梨佳は私を睨む。


「っ、ひどい…、私の気持ちなんてわかんないくせに!」


 友梨佳はそう言って逃げるように部屋を飛び出したあと、玄関から出ていく音がする。私もあわてて後を追いかけて外に出たけど、あたりはもう真っ暗で友梨佳の姿は見えなかった。

 友梨佳に怒鳴られるなんて初めてだった。確かに私は友梨佳の気持ちなんてわかっていないのかもしれない。それでも私にはああするしかなかった。人間の私には血をあげることくらいでしか力になってあげられない。

 そこまで考えた私は思った。もしかしたら美夜なら友梨佳に何か言ってあげられるかもしれない。美夜を巻き込んでしまうのは申し訳ない気持ちもあったけど、私にはそれ以外思いつかなかった。それに今私が行って状況がよくなるとは思えない。


 もう夜遅いけど美夜なら多分起きてる。そう思って電話をかけると、美夜は電話に出てくれた。


『もしもし、どうしたの?』

「…美夜、お願いがあるの。時間ある?」


 私は今まであったことを話した。友梨佳が血を欲しがっていて私があげようとしたこと。それを友梨佳に嫌がられて家を出て行ってしまったこと。すると美夜はどこか自信ありげに答える。


『わかった。私に任せて』


 美夜はそう言って電話を切ったのだった。


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