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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
14/33

14. 変化


友梨佳ちゃんの体調がよくならないままさらに二日が過ぎた。愛海の疲れもたまってきているみたいで、今晩私と菜月でまた家にお邪魔することになった。


愛海に迎えられて私たちは友梨佳ちゃんの様子を見に行く。愛海が言うには、ずっと熱が引かなくてほとんど寝込んでいるらしい。心配する愛海に代わって私と菜月が友梨佳ちゃんの看病をして、愛海とはたわいない話もして過ごした。

そして次第にあたりも薄暗くなってきて、私たちは家に帰ることになった。


「今日はありがとう、いろいろ助かったわ」

「ううん、また困ったことがあったら言ってね」


そうして私たちは愛海に見送られて外に出る。

愛海の前ではあまり表に出さないようにしていたけど、私も菜月も友梨佳ちゃんのことが心配だった。風邪にしては長引いているし、インフルエンザならもっと咳が出たり愛海にうつったりするんじゃないだろうか。


そんなことを菜月と話している時だった。不意に後ろから声をかけられる。


「へぇ、まさかあんたがあの人間の知り合いだったとはね」


聞き覚えのある二度と聞きたくなかった声。私が振り向くとまるで待ち伏せしていたかのような態度でそいつは笑っていた。


「な、なんでここにいるの!?」

「んー、観察かな?」


 何が悪いのか、とでも言わんばかりの顔でそう言う。


「…なんの観察よ」

「私が吸血鬼にした人間を観察してるのよ」


 そいつは信じられないことを口にした。でもその冷酷で無表情な顔は嘘を言っているようには見えない。


「あの子が泣きながら家族を襲って絶望していくところを想像すると…興奮が抑えられないわ!子供が絶望するときの表情ってたまらないのよねぇ」


 そんなことを笑いながら言う。驚きとともに私の心は怒りに震えた。私だって吸血種だから血を吸うだけなら許せたかもしれない。でもただ絶望させたいなんて理由で友梨佳ちゃんを襲ったことは許せるはずがなかった。そんな怒りで頭がいっぱいになっていると横から袖を引かれた。


「ちょっと美夜、なんなのこの人…!」


 菜月は文字通り震えた声で私の後ろに隠れるように私の袖を握っていた。それを見たあいつは薄ら笑みを浮かべる。


「お、ここにもおいしそうな人間がいるじゃん」


 そいつはそう言って菜月に視線を向けると、菜月は怯えて私の腕をつかむ力が強くなったのがわかった。


「…っ、菜月には絶対に手出しさせないわ!」


 そいつは私の言葉に少し驚いたような顔をしたが、すぐにまたあの笑顔へと戻る。


「ねえ知ってる?今あなたがつかんでいるその女も吸血鬼なのよ?あなたのこと騙して襲おうとしてるの。早く逃げた方がいいと思うなあ」

「…知ってるよ!でも美夜はそんなことしない!」

「…え、知ってるの?なんだ、つまんないの。興が冷めたわ」


 そいつはそう言うと暗闇に消えていった。そして私は理解した。あいつにとって人間はただの食糧であり遊び道具なんだと。私は今すぐにでもあいつを殴ってやりたかったけど、後ろには菜月もいるし愛海のことも心配だった。



 私たちは急いで愛海の家に戻ると、突然戻ってきた私たちに愛海は驚く。


「愛海!」

「ん、そんなに慌ててどうしたの?」

「友梨佳ちゃんは!?」


 私の声色から緊急を察知した愛海はすぐに友梨佳ちゃんのところへ連れて行ってくれた。

 どうやら友梨佳ちゃんはまだ眠っているようだった。私はあの吸血種に言われたことを愛海に話した。話さない方がいいかとも思ったけど、愛海にもしものことが起きてからでは遅い。


「そんなっ!嘘…」


 話を聞いた愛海は表情が固まる。驚き、悲しみ、恐怖、絶望、それがごっちゃになったような表情だった。そのまま愛海は何も言わない。きっと受け入れるのに時間がかかっているんだろう。重い沈黙が続き、時計の針の音がやけに響く。それはまるで私たちに何かを急かしているようだった。

 そしてしばらくの時間がたち愛海はようやく口を開く。


「私はどうすればいいの…」


 私にはわからなかった。血を吸わせればいい、なんて簡単な問題じゃない。突然吸血種になったと言われてすんなりと受け入れられるはずがない。それは私が一番よくわかっていた。そんな友梨佳ちゃんのことを愛海一人に任せるなんてできない。


「私も一緒にいるわ。友梨佳ちゃんのこと見といてあげないと」

「私も一緒にいるよ!」

「…二人ともありがと」

 

 そうして私たちはその夜は友梨佳ちゃんを見張ることにした。今は横で落ち着いて眠っているけど、もし起きたときに無意識に誰かを襲うなんてことはさせちゃいけない。


 三人とも無言のまま一時間くらいがたっただろうか。愛海が声を殺して泣き始めてしまった。こういう時はなんて声をかけてあげればいいのだろう。必死に言葉を探したけど、私には何もできなかった。




 そしてさらにしばらくした後、友梨佳ちゃんが目を覚ました。


「友梨佳!大丈夫!?体調は!?」

「んんっ…お姉ちゃん?」


 愛海が友梨佳ちゃんを見るなりすぐに飛んでいくと、友梨佳ちゃんは突然のことに驚いているようだった。そして幸いなことにその眼と牙は人間のそれだった。


「どこか痛いところとかない?気分が悪いとか変な感じがするとか」

「お姉ちゃん落ち着いてよ、私は平気だよ」

「っ、よかった…」


 愛海は心底安心したようで全身の力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。


「あれ、美夜先輩に菜月先輩も看病に来てくれたんですか?」

「えっと、そうね、そんな感じかしら」


 私は友梨佳ちゃんにあの吸血種が言っていたことを伝えるか迷っていた。あの言葉が真実なら、いずれ友梨佳ちゃんには知られることになる。でもまだ真実だと決まったわけじゃないから言うべきじゃないかもしれない。それに愛海はそれを望んでいるんだろうか。

 きっと愛海も菜月も同じことを考えているんだろう。みんな言葉を探しているようで何も言わない。友梨佳ちゃんにとってはよくわからない沈黙が続いていた。

 そして私は愛海に小さめの声で話しかけた。


「愛海、どうするの?」

「…、今はまだ…」

「…わかった」


 このまま放っておいてもし友梨佳ちゃんが愛海を襲ってしまったら。そんな考えが頭に浮かんだけど、私は愛海の気持ちを優先することにした。そんな私たちを見て友梨佳ちゃんは首をかしげていた。


「あの…」

「友梨佳、大丈夫よ。二人はお見舞いに来てくれたの」

「あ、ありがとうございます、もうすっかり元気です!」


 笑顔でそう言う友梨佳ちゃんを見て私たちも笑顔を作る。これからも元気が続いてくれるといいんだけど。

 その後、私と菜月は愛海のお願いもあっていったん家に帰ることになった。


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