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私は吸血鬼  作者: ローズベリー
12/33

12. 幸せ


 私は家に菜月と愛海を呼んだ。雰囲気は控えめに言って最悪だ。私のしたことを考えれば愛海にあわせる顔がないというのが本音だし、菜月ともさっき喧嘩したばかりだ。


「大事な話があって呼んだの。特に、菜月に」


 私は覚悟を決めて話し始めた。


「まず最初に言っておくね。私も愛海も菜月が好きだし、仲間はずれにしてるつもりはなかったの、ごめんなさい」

「…うん」

「でも菜月の言ったことは正しいの。私と愛海は隠し事をしてた」


 私がそう言うと菜月はやっぱりというようにうつむく。当然の反応だ。



「……菜月は、もし私が吸血種だって言ったら怖い?」


 私は菜月とお別れをする覚悟で言った。


「えっ?」

「…ううん、もし、じゃない。私は吸血種なの」


 菜月は驚きのせいか目を丸くしている。それともそれは恐怖からくるものなのだろうか。


「…え、美夜が吸血鬼?なんの冗談?」

「冗談じゃないよ。…私は菜月の血を吸おうとしたの。それを愛海に見られて」

「ちょ、ちょっと待って!全然わかんないんだけど…」


 目に見えて混乱していた菜月に一から話すことにした。私が吸血種であるということ、愛海にはそれを知られてしまったこと、そのうえで私を認めてくれたこと。

 菜月は最初は信じられないという顔をしていたけど、だんだん私の話を信じてくれた。


「今まで黙っててごめん…、怖がられたくなくて…」

「…そっか」


 菜月は黙って何かを考えている様子だった。そんな気まずい空気に耐えられなくなった私は菜月に聞く。


「…やっぱり私のこと怖い?」

「吸血鬼…、じゃなくて吸血種のことはやっぱり怖いけど、美夜なら怖くないよ」

「っ…ほんとに怖くないの?」

「だって美夜だもん。今までの美夜みてたら怖がる方が難しいよ」


 菜月はなんだかあっけらかんとした様子でそう答える。予想外のことで逆に私が驚いてしまった。


「でも私は菜月の血を無理やり吸おうとしたの…、ごめん」

「…それなんだけど、どういうこと?私そんなことされた覚えないんだけど」


 私は魅了のことを説明した。人の意識を奪って血を吸うことができる、それを説明すると菜月は少し怖がっているように見えた。


「そんなことできるんだ…」

「…うん、ほんとにごめん。無理やり吸うなんてしちゃいけなかった。愛海も嫌な思いさせちゃってごめん」

「ううん、大丈夫だよ。話してくれてありがと」


 そうして、私が思っていたより簡単に菜月は私のことを認めてくれて許してくれた。でも言葉ではああ言ってたけど、表情は硬かったからたぶん恐怖が全くないってことはないんだと思う。私はそんな菜月の優しさを感じながら二人を家まで送っていった。




◇◇◇




 それ以来、学校で会っても菜月は今まで通りに接してくれた。今では三人とも仲直りをして楽しく過ごしている。

 あの後、私は友梨佳ちゃんにも自分のことを打ち明けた。最初はびっくりしているような、怖がっているような顔をしていたけど、愛海の説得もあって意外とあっさり受け入れてくれた。

 私は隠し事をしている罪悪感も消え、神君にももう狙われていない。神君とはあれから何度か狩りの時に出会ったけど、私が血を吸いすぎたりしないこともわかってくれて難しい顔をしながらも見逃してもらっている。



「平和だなあ」

「ちょっと美夜、なにおじいさんみたいなこと言ってるの」

「え、ひどい」

「でも確かに久しぶりにこんなにゆっくりできてるかも。ちょっといろいろありすぎたからね、特に美夜は」


 私が吸血種だと教えられたあの誕生日、まさかまたこんなふうに心置きなく友達と話せるなんて思っていなかった。それも全部私のことを認めてくれたみんなのおかげだ。


「ありがとね、ほんとに。私のこと認めてくれて」

「もう、まだ言ってるの?」

「ずっと友達だったんだからそんなので変わるはずないじゃん」


 幸せ。私の心はそれでいっぱいだった。


「そうだ、今度美夜の家遊びに行っていい?」

「いいけど、どうしたの?」

「久しぶりに三人集まってお話したいなって」

「うん、わかった!」




 みんなが家に来るとお母さんは笑顔で迎えてくれる。お母さんには二人が私たちの正体を知っていることを伝えた。最初は警戒していたみたいだったけど、今ではすっかり心を許してくれている。


「ねぇ美夜、飲み物ほしい」

「だからそんなの無いってば」

「えー、私たちのために一本くらい置いといてよ」

「そんなことしたら賞味期限きれちゃうよ」


 そんな会話もできるようになって、私たちは会話に花を咲かせていた。


「そうだ、もし美夜がよかったらなんだけど…」

「どうしたの?」

「牙とか見てみたいな」

「確かに私も見たことないわ」


 あの菜月が牙を見たいなんて言う日が来るとは。それに愛海も見たことなかったのね。特に断る理由もないので私は快く承諾すると牙に意識を集中させる。


「おお、牙だ…」

「ほんと大きいね…」


 私の牙にご満悦の二人に紅い眼も見せてあげた。


「すごい、真っ赤だ」

「吸い込まれそうなくらい綺麗だわ」


 そんなに褒められると思っていなかった私は自分の顔が熱くなっていくのを感じる。実は私自身この紅い眼は結構好きでちょっと自慢でもある。


「ありがと!」

「これは魅了されちゃうのも仕方ないね」


 菜月も愛海も私の吸血種としての姿を見てもちっとも怖がらない。この状況は少し前までの私なら泣いて喜んだと思うけど、なんだか悔しくもあった。これは吸血種としてのプライドみたいなものなんだろうか。だから私は少し二人を怖がらせてやることにした。


「二人の血吸っていい?」

「「えっ」」


 二人は息を合わせたように驚きの声を出す。そんな二人を見て私はうっすら笑みを浮かべて続ける。


「二人のおいしそうな首を見てると我慢できなくなってくるの」

「ちょっと…!さすがにそれは」


 ふふ、と心の中で笑う。菜月は少し焦っているようだった。でも愛海はなぜか顔を赤らめている。


「なーんて冗談!今は吸いたいとは思ってないよ」

「もう!本気で十字架投げつけるところだったよ!」

「ええっ!?」


 そう言う菜月の手は十字架に伸びていて、本気で投げつけるつもりだったのかと身震いする。


「私のこと怖くないんじゃないの?」

「実際に噛まれるのは別。ね、愛海?」

「そ、そうね、噛まれるのは勘弁してほしいわ」


 それはそうか。魅了すれば話は別だけど、こんな牙で噛まれたら痛いに決まってる。


「あ、そういえば、私が誕生日にプレゼントした十字架ってどうしたの?」


 菜月が思い出したように私に聞いてくる。申し訳ないけど、嘘をついてもすぐばれるから正直に言うことにした。


「ごめん、捨てちゃった」

「っ!私からのプレゼント捨てるなんてひどい…、どこかにおいてくれてると思ってたのに…」


 菜月はそう言って下を向いてしまった。仕方がなかったこととはいえ、もらったプレゼントを捨ててしまったことは私も心が痛い。


「…ごめん、私もかなり迷ったんだけどどうしても耐えられなくて…」


 そう言っても何も言ってくれない菜月を慰めていると、小さく笑い声が聞こえてくる。


「なーんて冗談!」


 菜月は顔を上げるとけろっとした顔で笑っていた。


「別に気にしてないよ。むしろ無理して持ってたりなんかしたら私の方から捨ててあげるよ」

「なっ、引っかけたのね!」

「これでおあいこよ」



 そんなこんなで私たちはずっと話し込んでしまい、気づけばあたりは真っ暗になっていた。


「二人はもうそろそろ帰った方がいいんじゃない?」

「私はもう少し話してたいわ」

「私も」

「でも家族が心配するんじゃ」


 もう時間は9時を回っていて女の子が外にいていい時間じゃない。


「泊まるのはだめ?」


 菜月のその一言で行動方針が決まった。明日は休みだし誰も否定しなかったから今日は私の家に泊まることになった。





「ねぇ、ちょっと近いんだけど」

「なんでこんなに密着してるわけ?」

「一人用なんだから仕方ないでしょ…!」


 電気を消し、私たちは今ベッドの中にいる。それも一人用ベッドを3人で使っている状態だ。いくら大きめのベッドとはいえ、3人もひしめき合えば密着は避けられない。


「ちょっと菜月!どこ触ってんのよ!」

「へっ!?私は何も触ってないよ?」

「じゃあこの手は美夜の手?」

「あ、それ私の手だよ?」

「は、早くどけなさいよ、肘が当たってるの!」


 確かにさっきから右肘に柔らかいものが当たってる気がしていた。なるほど、そういうことだったのか。私の中の悪魔がいたずらをするようささやきかけてきた。


「ちょ、ちょっと!なに動かしてるの!?」

「ん、どけようかなと思っただけだよ」

「絶対うそ!どう考えてもぐりぐりしてるでしょ!」


 それから少しだけいたずらを続けてから私は手をどけた。


「まったく、美夜ってそんな子だったっけ?菜月もなんか言ってちょうだいよ」

「……二人ってやっぱりそういう関係なの?」

「「違う!」」


 菜月の誤解を解いたところで私たちはようやく静かに落ち着いた。私の両脇で少し疲れたような顔をする二人がいる。私はまた幸せをかみしめていた。


「二人とも疲れた顔してるね」

「まったく、誰のせいよ」

「でもよく見えるね、私は暗くて全然見えないよ」

「私が吸血種だってこと、忘れたの?」

「あ、そうだった」





「あの、真面目な話いい?」

「どうしたの?」

「ちょっと喉が渇いてきちゃったんだけど…」


 その私の一言で二人の緊張感が高まったのがわかった。


「え、なにそれ、嘘だよね?」

「いや、本当」

「我慢してよ」

「……愛海は目の前に最高級ステーキが2つも置いてあったら我慢できる?」

「えぇ、私たちはステーキじゃないんですが…」

「私にとってはステーキみたいなものよ、ううん、それ以上かも」


 そう言った瞬間、二人は同時にベッドから飛び起きた。


「ごめん、私たちは床で寝るわ」

「うん、猛獣の隣で寝れるほど神経図太くないの」


 二人はそう言って床で寝始めてしまった。もうちょっと私のことを信用してくれてもいいんじゃないですか?

 ベッドで寝ていいよ、と言ったけど二人は私にベッドを譲ってすぐにすやすやと寝息を立て始めた。


(私のことを猛獣だと思うならそんなに簡単に寝るんじゃないわよ…)


 私はそんな二人の寝顔を見ながら夜の街に出ていくのだった。


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