馬鹿な奴等
書き溜めしてたのが出てきました。
よろしければどうぞ。
「馬鹿な奴等だ」
朽ち果てた城壁にぶら下がる2つの物を見つけた俺は思わず悪態をつく。
一見すると何かの干物の様に見えるが、それは人間だった物体。
「....勇者と聖女の成れの果てか」
「仕方無い、あいつらが望んだ結果だ」
隣で吐き捨てる様に呟くのは賢者のフリュー、俺と同じで勇者パーティーの一員だった女。
彼女は俺が勇者パーティーを去る時、一緒に抜けた。
死体はかなりの時間が経過しているらしく最早ミイラ状態。
それもその筈、勇者が魔王軍に倒されたと聞いたのは2ヶ月も前の事だったから。
「何をしている」
背嚢からスコップを取り出し穴を掘っているとフリューが不思議そうに聞いた。
「墓穴だ、せめて埋めてやりたい」
「お前から婚約者を奪った男と裏切った女にか?」
「そうだ」
淡々と返す、確かに俺から恋人を奪った勇者と裏切った婚約者だが一応は人間の為に戦った勇者と聖女だ。
まあ瞬殺だったそうだがな。
「お人好しだな」
「何とでも言え」
確かに自分でも呆れるくらい馬鹿な行動をしている自覚はある。
5年間に結成された勇者パーティー。
勇者の神託を受けたローランドは公爵家の坊っちゃん、しかし剣の腕はもう1つだった。
『本当に勇者か?』
それが奴に対して持った第一印象。
聖女のルーラは俺の幼馴染みで婚約者、彼女は伸び悩むローランドを励ます内に、俺は捨てられた。
それでも俺は勇者パーティーに残った。
勝手な脱退は王国騎士団の団長という立場上出来なかった。
結局パーティーを抜けたのはローランドが俺を追放したからだ。
2年前、補給の為王国に戻った勇者パーティー。
国王が主催する勇者達を労うパーティーの最中、突如ローランドが叫んだ。
『もうハンターは必要無い、自分達だけで魔王は倒せる。
倒した暁には聖女ルーラを妻としたい』と。
皆が唖然としたのはいうまでもない。
必死で慰留する貴族達、俺はただ黙っていた。
勇者に対する失望と、ルーラに対する恨みがあったからな。
国王も止めた、しかし尚もローランドは言い放った。
『2年です、2年以内に魔王を倒してご覧に見せます』
その結果がこれだ、功を焦るローランドは無謀な挑戦を続けて勇者パーティーは大損害を繰り返した。
...最後は王国からの応援も絶たれ、ここで果てた。
ルーラも逃げればよかったんだ、実際教会からも召還状を出していたそうだし。
「...糞」
固い岩盤にスコップは弾かれ、なかなか作業は進まない、だが手を休める気は起きなかった。
「そんなお前だから私は...」
フリューが小さな声で呟いた。
「何だ?」
「何でもない」
ソッポを向くフリュー。
(分かってるさ、お前の気持ち位は。
これはケジメなんだ、俺と彼女...聖女ルーラとのな)
そう心で呟きながら穴を掘り進めた。
「...こんなもんか」
一時間後、ようやく穴は完成した。
多少いびつな形だが、勘弁して貰おう。
最後に穴の中に干し草や枯れ木を集め、底に敷き詰めた。
「どうやって下ろすんだ?」
汗を拭う俺に水を差し出しながらフリューが聞いた。
城壁のてっぺんに鎖で吊るされている2人、高さは5メートル程だが登る事は出来ない。
城壁は長い間放置されていた物で手を掛けただけで脆く崩れ落ちる。
「おそらく魔獣が空から引っ掛けたんだな」
「だろうな」
空を飛べるのは鳥か魔族が使役するグリフォンくらい、多分後者の方だろう。
「どいて」
「すまん」
フリューは俺を穴から離した、何をするつもりか、もちろん分かっているさ。
「[ウィンドカッター]」
フリューが小さく詠唱すると一陣の風が空に舞う。
鎖を引っ掛けていた壁の一部が吹き飛び、遺体は見事に穴へと落ちた。
「さてと」
穴に落ちた2つの遺体に近づく、顔を拝む為じゃない。
勇者のリングと聖女のブレスレットを回収する為だ。
この2つを王都に持って帰るのが今回の任務。
勇者と聖女は晴れて(?)名誉の死を遂げたと認められ、次の勇者と聖女が神託される。
「これか」
勇者のリングは右手中指に填められていた。
これはどういう訳か魔族に取る事は出来ない、聖女のブレスレットも同様。
「臭えな」
鼻を着く異臭、完全なミイラかと思っていたが意外と最近の物だったのか。
「よっと」
2人をグルグルに巻いていた縄を切り離す、聖女が下に落ちたせいで勇者を離さないとブレスレットが回収出来ないからだ。
「後でまた1つにしてやるからな」
勇者の遺体をひっくり返し、聖女の...
「これは?」
「むぅ...」
聖女の遺体に勇者との違いを感じる。
それは死体の状態、明らかに勇者と比べ聖女の遺体はまだ...
「新しいな、勇者が死んでから吊るされ、聖女は生きたままか。
聖女はしばらく生きておったな」
「みたいだな」
魔族の悪趣味には今更驚か無いが、知っている人となると...複雑だ。
「食べ物も、水も無いんだから直ぐに死なないか?」
「水だけなら聖女のルーラなら作り出せるさ」
「確かに」
魔法で水を口元で生成して飲む、それなら出来るだろう。
しかし絶望しなかったのか?
俺なら発狂するな、いくら愛した奴と一緒でも、何しろ相手は死んでいる訳だし。
遺体からブレスレットを外しフリューに手渡した。
彼女は先程のリングと一緒に鞄に詰める、これで2つとも回収だ。
「ん?」
ルーラの右手に輝く物が?
「これは」
腐った右手からリングを引き抜いて確認する。
間違いない、間違えようが無い。てっきり棄てたとばかり...
「おいハンター」
「何だ」
リングの意味を考えているとフリューが何かに気づき、俺を呼んだ。
「ルーラの服の下にまだ何か有るぞ」
「何だろう?」
服を捲ると手紙が出てきた。
勇者の遺体と密着していたお陰か、損傷は少ない様だ。
「クリーン」
フリューが手紙に洗浄の魔法を掛けた。
体液で滲んだ手紙が少し綺麗になる、何より臭いが取れるのはありがたい。
「お前宛だ」
「俺?」
フリューが手紙を俺に差し出す。
そこには確かに俺の名前が懐かしいルーラの文字で書かれていた。
「読むか?」
「止めとく」
読む気持ちはにはなれない、今更何だと言うのだ?
2年間にどんな心境の変化が有ったとしても、もう遅い、手遅れだ。
「フリュー頼む」
「良いのか?」
「ああ」
「[ファイヤー]」
穴に向けてフリューが呟くと枯れ木が一斉に燃え広がる。
その火の勢いで2つの遺体が瞬く間に消え失せる。
「あばよルーラ」
最後に手紙を投げ捨てた、俺が贈った婚約指輪と共に。
巻き上がる炎と煙にルーラへの最後の想いも消え失せて欲しいと願った。