おにぎり部隊
その日は朝から牛乳の雨が降っていた。
鬼を斬る部隊と聞いて入隊したのに、訓練と称して行われるのはイジメにも似た苦行ばかり。
ああ、また目の前で牛乳の雨が降る。
ブラック企業のサラリーマンでさえ、ボロアパートに住む大魔王でさえ、ブラウン管の向こうの名探偵でさえ、こんな真似はしなかった。
幕末の農民が最後の侍になったという伝説がある。
文学少女が森の聖女と呼ばれる世界の果て、おねぇ言葉の偽物にさえも動じない強い精神力、明鏡止水の心を持てと忍者ファイターに言われ続けて来たのでもない。
感情をコントロールすることで、ドラゴンさえも倒す必殺技が得られるとでも言うのか。
これは教官たちの暇つぶしではないのか?
降りしきる牛乳の雨が入道雲を形作るかと思えるほどに降り注ぐ。
いよいよボクの番だ。
牛乳を口に含んで待ち構える。
心臓が早鐘のように脈打つ。ああ、早く終わってくれ。
目の前には白鳥の湖を踊るバレエダンサーの姿をしたハゲ頭の厳つい教官が出現した。
ダメだ、限界が近い。
その股間から生える白鳥の頭は反則だ。
刹那、口に含んでいた牛乳を吹き出した。
「全員不合格」
「教官、一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
「許可する」
「鬼斬り部隊とは何ですか?」
質問に教官は答えてくれる。
「おにぎり部隊とは」
何?
「お前たち、新米のことだ」