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9 流石に私もそれはどうかと思うよ

「あの、みなさん。別室でお話を伺いたいのでこちらの部屋に来ていただけませんか?」

「別室に呼び出しだと……益々雲行きが怪しくなってきたな」

「やっぱり逃げられませんよねぇ」

「そんな事ないんじゃない? きっと歓迎されるよ」


 本当にメグの奴は能天気だな。

 そのまま受付のサラにくっついて行こうとする。


「ほら二人とも。悩んだって仕方がないよ。なるようになれ、だよ」

「ぬぅ、メグのくせに言う事が正しいので何か腹が立つ」

「それはメグさんに対してあまりにも失礼なのでは……」


 仕方が無い。大人しく付いて行くか。


「どうぞこちらです。ギルマス、三人をお連れいたしました」


 部屋に入ると立派な椅子に座る老人が私達を待ちわびていた。

 その辺でよく日向ぼっこをしている様な何の変哲もない人の好さそうな爺さんだ。

 こういう爺さんを好々爺というんだっけ?


「よくいらっしゃった。歓迎しますぞ。そこに掛けなされ」


 その老人がくしゃくしゃの笑顔で私達を出迎える。


「何だ? あの爺さん」

「どこかの施設から抜け出して来たのですかね」

「ちょっとお二人とも! この方はギルドマスターですよ!」


 軽口をたたいてるとサラに注意されてしまった。

 そんなの冗談に決まってるだろうが。


「お初にお目に掛かります。私はメグナーシャと申します。どうぞお見知りおきを」


 突然メグがドレスを着ていたら様になるような優雅な挨拶をする。

 そう言えばこいつって魔王に滅ぼされた獣人の国の王女だったんだよな。

 すっかりそんな事は忘れてたけど。


「ほっほっほ。今時珍しく礼儀正しいお嬢さんだね。ワシはここのギルドマスターをやっておるヴォイドだ。……サラさん、後で彼女にとっておきの豆大福をあげてやってくだされ」


 ヴォイドと名乗った爺さんが目尻を下げる。

 本当にその辺で日向ぼっこしてる爺さんにしか見えん……。


「やったー! とっておきの豆大福!」


 お前はお爺ちゃんに小遣いをもらった孫かよ。


「ところで本当にあれがギルマスなのか?」

「だからさっきからギルマスだと言ってるじゃないですか」


 困惑顔でサラが答える。

 私だって困惑顔だ。普通は冒険者ギルドのマスターと言ったら筋骨隆々の大男だろうよ。


「私はてっきりその辺の施設から抜け出して来たおじいちゃんだと思いましたよ……」


 ユズリがまだ信じられないといった様子だ。

 まぁなんだ。徘徊老人扱いは流石にひどいと思うぞ。


「ほっほっほ。今はこんな老いぼれだが、昔はガチムチのナイスガイだったんぞよ。それはそれはモテてな……」


 て言うかガチムチナイスガイはどうなのよ。


「はぁ、そうなのですか……」

「だけど何故か男ばかりにモテて困ってのう。男に尻をグイグイと押し付けられる感触を味わった事があるかね? お嬢さんや」

「そんな感触なんて知りませんよ!」


「……尻だけに知りません、か」


 ん? 何か部屋の全員の視線が私に集まっているぞ。

 ちょっと上手い事を言ったつもりだったのに。何だよこの空気は。


「流石に私もそれはどうかと思うよ」

「もの凄くつまらないですよ。テルアイラさん」


 メグとユズリからさげすんだ目を向けられる。

 ユズリはともかくメグにまでこんな表情をされるなんたる屈辱だ。


「そこのエルフの娘さん。尻と知りをかけて上手い事を言ったつもりだろうが、全く心に響かんぞ」

「わざわざ解説することはないだろ!!」

「私は面白かったと思いますよ。……ちょっとだけ」


 サラが慰めてくる。止めてくれ、余計にみじめになるだろ!!


「そんな同情は要らん! こんちくしょう!! それで私達をここに呼んだのは何の要件だよ!!」

「おお、そうだった。すっかり話が脱線してしまったな。……おぬし達がAランク冒険者と言うのは嘘偽りないんだな?」


 好々爺だったヴォイドの表情が一変して冒険者の目つきになったぞ。

 これは数々の修羅場をくぐってきた男の顔だな。


「ああ、嘘ではないぞ。西方で魔王討伐後に訳あって私達はこの王都にやってきたのだ」

「ほら、これが魔王の角だよ」


 メグがアイテム袋から魔王の角を取り出して机に置いた。

 ユズリとサラがそれを見て嫌な顔をする。普通はそう反応するよな。


「……ほうほう。これは興味深い。サラさんや、これを鑑定出来る職員を呼んできてくれ」


 魔王の角をしげしげと眺めながらヴォイドの爺さんがサラに指示を出した。

 しばらくして鑑定スキルを持つ職員の男がやってきて魔王の角を鑑定した途端に腰を抜かして座り込んでしまった。


「こ、これヤバいですよ!! 私のスキルでは詳細までは分かりませんが、こんな代物を王都に持ち込むのは大問題なレベルですよ!!」


 そう言って職員は「私は何も見てませんし、聞いてませんからね!」と逃げる様に部屋から出て行ってしまった。

 ……そんなにヤバいのかこれ?


「これで信じてもらえたかな?」


 メグが魔王の角をアイテム袋に収納してヴォイドの爺さんにドヤ顔で笑いかける。


「お嬢さん方が只者ではないと言うのは理解した。そしてこの王都に来た理由も聞かない。高ランクの冒険者は訳アリの者が多いと聞くしな。……そこで折り入ってお嬢さん方に仕事を依頼したい」


 好々爺に戻ったヴォイドが直々に私達にクエストの依頼をした。

 これはいよいよ面倒な事になりそうだな。

 それは冒険者であればギルドマスターからの依頼は絶対という暗黙のルールがあるのだ。

 それだけにギルドマスターも依頼する相手を選ぶみたいだが。


「私達に依頼か……。まぁ、断れないんだよな」

「私達がAランクと知って依頼すると言う事は難易度の高いクエストなんですよね?」


 ユズリが不安顔で身構える。

 魔王以外でそこまでの脅威は無いはずだが、面倒ごとは正直避けたいな。


「ちゃんと報酬が出るなら私は構わないよ」


 メグの奴は既にやる気満々だ。

 まぁ報酬次第で考えてやらなくもないか。


「まぁ、そう身構えんでくれ。実はそんなに難易度が高いクエストではないのだ。Cランク以上あれば可能なクエストだ」


 ヴォイドの爺さんが肩をすくめた。


「何故そのようなクエストを私達に?」


 ユズリが怪訝な顔で質問する。


「ここのギルドの冒険者の質が落ちているんですよ。みなさんも先程の冒険者達をご覧になったでしょう?」


 難しい顔のヴォイド爺さんの代わりにサラが答えた。

 まぁそれは答えづらいよな。


「確かにランクの低そうな冒険者ばかりだったな。精神操作も簡単だったし」


 さっきの彼らは宿でよろしくやっているのだろうか。

 エキサイトし過ぎて肛門裂傷とかになってなければ良いのだが。


「それで他に頼める人がいないから私達に依頼するって事なんだね」


 メグがサラから受け取った豆大福を頬張りながら頷く。

 おい、それ何だか美味しそうだな。


「そういう事だ。この王都も平和過ぎて冒険者の質が年々落ちている。平和な事はいいのだがな」


 遠くを見つめながらヴォイド爺さんが溜息を吐く。

 まぁ国を滅ぼされたメグにしても平穏が続くなんて羨ましい以外の何でもないよな……。


「それで具体的には何を私達に依頼したいんだ?」

「……学生の尻ぬぐいだ」

「はぁ!? 爺さんモウロクしたのか? なんでそんな依頼がCランク以上なんだよ」


 まったく意味が分からないぞ。

 こんな訳の分からない話にいつまで付き合わされるのだろう。


「それは私から説明させていただきますね。王都からほど近い村から魔狼の討伐依頼がありまして、Cランクを含む冒険者予備校の生徒のグループが討伐に向かったのですが、怪我人が出てしまい急遽帰還させられることになったので後始末をあなた達にお願いしたいのです」


 襟を正したサラが真面目な顔で説明する。

 何やら急を要する事態みたいだが……。


「学生さん達は無事なの?」

「怪我人の程度はどうなのですか?」


 メグとユズリが心配そうな顔をしている。

 確かに怪我をしたのが学生なら心配だな。

 そう言えば集落で面倒を見ていたアイツもこの王都の冒険者予備校に入学したと言っていたな。今頃どうしてるだろうか。


「一人が重傷だったみたいですが命には別状ないそうです。それ以外の子達は軽傷と聞いています」


 サラの言葉を聞いて二人が安堵の表情を浮かべる。

 通りを歩いている揃いの制服を着てるような子達が犠牲にならなくて良かった。

 死んだと聞いたら夢見が悪いしな。


「しかし学生にも劣るここの冒険者達ってどうなのでしょう……」


 ユズリが何とも言えない顔で呟いた。


「まったく面目ない」


 ヴォイド爺さんが頭をかいて恥じ入る。

 どうやら相当深刻な状況みたいだな。


「ならば急いだ方がいいんじゃないか? 私ならすぐに行けるぞ」

「そうですね。早く済ましてしまいましょう」

「現地で何か美味しい物が食べられるかなぁ」


 こうなったらとっとと終わらせて早く帰ろう。

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