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番外編 14 おしまい

 さあ、今年もやってきたぞ。堂々と嘘がつける日である。

 何やら異世界由来の文化らしいが、そんな事はどうでもいい。

 如何に華麗な嘘をついて、周囲を翻弄させるかが試されるのだ。

 今年はどんな嘘をついてやろうかなぁ。


 そんな事を考えながら、常宿の二階から降りて朝食を食べようと食堂に向かったら、既にメグ、ユズリ、ミンニエリの他、宿の娘のレンファと住み込み従業員のミラが集まっていた。


 ……まさか、私を陥れる相談をしていたんじゃなかろうか。

 ここは油断せずに挨拶をしておこう。


「おはようさん。お前ら、もう朝食を食べたのか?」


 私が務めて明るく声を掛けるのだが、テーブルに着いている面々の表情が暗い。

 朝から辛気臭いにも程がある。


 ……まさか、既に嘘つき勝負が始まっているのか!?

 この宿が廃業するとか言われても、私は騙されないぞ!



「テルアイラさん、どうか落ち着いて聞いてくださいね……」


「どうした、レンファ?」


 ふふん。レンファのやつめ、どうやら私の予想通りの嘘をつくつもりらしいな。

 だが、それも既に想定内だ。


「実はですね」


「なんだ?」


「このお話が、今回で本当の最終回らしいです」


「……は?」


 いきなり何を言い出すんだ?

 まったくの予想外の事で、一瞬思考が停止した。


「なんかねー、今朝になってこの手紙が届いてたんだよね」


 メグが一通の封筒をひらひらさせている。

 茶色くて細長い見慣れない封筒だ。

 私が首をかしげていると、ユズリが説明してくれた。


「その手紙の差出人は、創造神さくしゃでしてね。なんか、物語が完結してるのに番外編のまま続けて放置するのもどうかって……」


「……はあ?」


 創造神だと!?

 前にも記憶改ざんしてきたりとか、色々やってきた奴だったはずだ。

 そいつが介入してきただと?


「最初は私も嘘だと思ったのですけど、どうやら本物の手紙らしくて……」


 ミンニエリが困った表情で私の方を見てくる。

 というか、こっち見んな。


「おいミラ。お前もこの手紙を信じてるのか?」


「信じるも何も、この世界は完結して閉じてしまっていますからね」


 いきなりメタっぽい事を言い出すなよ。

 それはさておき、本当にこの話は終わりって事なのか?

 そういえば、ホワイトデーのネタもやらなかった。

 それが予兆だっていうのか!?


 確かにヴィルオンでの戦いを終えて、この物語は終結したよ。

 だけど、私と愛しの少年の話はまだ続くはずだ。



「おいおい、ちょっと待てよ。この前だって私の実家に行ったし、物語はまだ広げられるだろ。それに、今度はユズリの実家に突撃しようと思ってたんだぞ?」


「私の実家に行くとか、やめてくださいよ! テルアイラさんだけは絶対に来てほしくないですから!!」


「なんだとう!? 私の実家に来ておいて、それはないだろう!! このクソ狸!!」


「誰がクソ狸ですか!! このクソアイラ!!」


「てめえ! 絶対に許さねえ!! 勝負だ!!」


「望むところです!!」


 ユズリと掴み合ってると、メグとミンニエリに止められた。


「邪魔するな! そいつ殺せない!!」


「もう! そんな事してる場合じゃないでしょ!」


「そうですよ。このままみんなで最後の時を待ちましょう」


 こいつら本気で言ってるのか?

 このまま創造神の言いなりになって、終わりを待つのか?

 私は絶対に諦めないぞ!!


「おい、レンファとミラも、このまま大人しく終わりを受け入れるのか!?」


「はい。私達がどうこうしたって、何も変わりませんし……」


「先程も言いましたが、もう閉じた世界ですので、今更どうしようもないです」


 なんて事だ!

 こんな子供が全てを悟った表情をしてるなんて!!


 思わず私も絶望しかけた時だ。

 タイミングを見計らったように、能天気な奴が店に入ってきた。



「せーんぱーい! お元気ですか~?」


 後輩のマリアだ。

 相変わらず殺人的な胸の大きさだが、今はそれどころではない。


「あれぇ? 皆さんお揃いで暗い表情をしてますけど、どうされたのですか?」


「お前は何も考えてなさそうで羨ましいな」


「失礼ですね! 私だって悩んだりしますって! ただ、落ち込む時は激しく落ち込みますけどね……」


 微妙にマリアの心の闇を見た気がするが、そんなのはどうでもいい。

 私は、マリアに手紙を見せた。


「……え? これ、本当ですか? 冗談って事はないですか?」


「私も疑ったのだが、どうやら本当らしい」


「困りますう! せっかく彼といい感じになってきたのに!!」


「はあ!? お前の言う彼って、誰だ? まさかとは思うけど、あの少年じゃないよな!?」


「……それ、先輩に言う必要ってあります?」


「こいつ!」


「きゃあ~! 暴力反対です~!! 私の胸に嫉妬しないでください~!!」


 マリアに掴みかかろうとしたら、またしてもメグとミンニエリに止められた。


「テルアイラ、無駄な事はやめようよ」


「そうですよ。最後はみんなで静かに過ごしましょう?」


 なんでだよ!

 なんで、そう簡単に諦められるんだよ!!


 ……そうだ。

 あいつなら、こういう時に絶対に諦めないタイプだ。



「アイちゃん、いるか? 私の嘘を披露しに来てやったぞ」


 タイミング良く王女のイリーダが現れた。

 こいつも出番を見計らってたんじゃないだろうか。

 それはそうと、自分で嘘を披露とか言ったら意味が無いだろうよ。


「おい、イリーダ! こいつを読め!!」


「む? 手紙か? 何々……?」


 手紙を読むイリーダの眉間が険しくなる。

 こいつなら、私と同じく簡単には終わりを認めないだろう。


「どうだ? 納得いかないだろ?」


「……納得はいかないが、創造神が決めたのなら、我々にはどうしようもないだろう」


 なんだとう!?

 イリーダまで終わりを受け止めるのか!?


「なんでだよ! なんでそんなあっさりと受け止められるんだよ!!」


 私が叫んでも、周囲は何も言い返さない。

 まるで私だけが、この世界の異物になった気分だ。

 やるせなくなって、うつむいていると、視界の端からパンケーキを差し出された。


 差出人を見ると、レンファの父親だった。

 普段は厨房の陰に潜んでいて滅多に姿を見せないが、珍しく私達の前に姿を表した。

 メグとユズリが驚愕してるが、そんなに驚く事ではないだろうよ。


 しかし、こうして見ると中々のダンディーだな。

 もっとも、私はあの少年がお気に入りであるが。


「私を元気づけてくれてるのか?」


 レンファの父親は黙って頷く。彼は寡黙で謎多き男だ。

 そして、手紙を指差した。


「え? 手紙に続きがあるって?」


 気づくと、いつの間にか手紙に文章が追加されていた。


「ええっと、『ネタバレします。レンファの父親は魔人に連なる古い上位魔族です』……」


 ちょっと待て。

 サラッとヤバい事が書かれてるんだけど。


「え? お父さんって、上位の魔族だったのですか……!?」


 実の娘も知らなかった事実が発覚。


「それじゃあ、私が路頭に迷った時に助けてくれたのも、私が魔族だったから、同族のよしみで……?」


 ミラの言葉にレンファの父親は黙って笑顔で頷く。

 いきなりそんな事をカミングアウトされてもなあ。


 ふと手紙を見ると、また続きが書かれている。


「ええっと、『レンファの父親は、未来の世界で酒場の寡黙なマスターをやってます』……」


 いや、いきなりこんな事を教えられても意味が分からん。


「うわあ、お父さん凄いね! 私も見習わないと!」


 娘のレンファはやる気を見せてるが、この世界はここで終わるのだから意味がないだろうよ。

 ……あれ? だけど、手紙には未来の事が書かれていたぞ?

 どういう事だ?


 再び首をかしげてると、また手紙に文章が追加される。


「ええっと、『こっちは最終回なので、向こうに移動してください』だって……」


 唐突な指示に固まっていると、メグ達がぞろぞろと店の外に移動していく。



「ほら、テルアイラ! あっちに引っ越すよ」


「早くしないと置いていきますよ?」


 メグとユズリが手招きをしている。


「テルアイラさん、ここで立ち止まっている場合じゃないですよ」


「先輩、私が彼をもらっちゃいますよ?」


 ミンニエリとマリアに背中を押される。

 文字通り、押しが強い。


「テルアイラさん、引っ越し作業とか手伝ってくださいね」


「私も魔族の端くれなので、魔法とか教えてください」


 レンファとミラが私の手を引っ張る。


「ほら、アイちゃんよ。既にみんなが待っているぞ?」


 イリーダが待つその先には、私の妹や両親の他、見知った人達が大勢で手を振っている。なんだか凄い光景だな。

 その中には、愛しの少年の姿もあった。

 まったく、創造神って奴はムチャクチャな事をしやがる……。


 こうして、私達の物語は場所を変えて続いていくのだった。



 ……嘘じゃないよね?

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