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番外編 13 チョコレートの日

 今年もやってきやがった一大イベント。

 いつから広まったのか、誰が広めたのかは知らないが、好きな異性にチョコレートを渡す日であるが、最近は主に自分のために高級チョコを用意する風潮らしい。

 だが、私は違う。愛しい少年に今年も愛情を込めたチョコを渡すのだ。


「それ、愛情じゃなくて劣情じゃないのですか?」


 いきなりユズリがとんでもない事を言ってくるが、今の私にはその程度の煽りなど、単なる雑音にも等しいので聞き流してやる。


「それにしても、今日のテルアイラは随分とご機嫌だね?」


 ふふん、メグのやつも中々鋭いじゃないか。

 そうなのだ。遂に念願叶って少年と結ばれたのよ。

 まあ、強引に押し倒してしまったとも言えないが。

 それでも、関係は持ったのは事実なのである。


 ん? なんかミンニエリは冷ややかな目で私を見ているが、何か文句があるのだろうか。


「いえ、彼は他の女性とも関係を持ってますよね? テルアイラさんだけじゃないですよ? ……って、痛い痛い! ぶたないでくださいよう!!」


 そんな事は分かってるんだよ!

 少年がハーレム主人公とやらだそうだが、私の愛情は変わらない……のか?

 確かにまあ、独占したい気はあるけどな。

 そんな事より、早く少年との間に子供を儲けねば。そうなれば、私の地位も安泰だな!



「テルアイラさん、そういう見え透いた欲望が駄々洩れだと、彼に嫌われますよ?」


 ……なんだと。流石に今のユズリの発言は聞き捨てならない。


「おいユズリ、お前もあの少年を狙ってるんだったよな?」


「狙っているというか、いいなと思ってるだけですよ」


「じゃあ、そのチョコの包みに入れた手紙はなんだよ? 逢引の連絡か? ああん?」


「逢引って、今時そんな言葉は使いませんよ。テルアイラさんって、本当に何歳なんですか?」


「やかましい! その手紙を見せろオラ!!」


「ちょ、ちょっと! 何するんですか!!」


 くそ、可愛らしい手紙なんて同封して、ポイントを稼ぐつもりか!?

 このセコ狸め!!


「ええっと、何々……『早く海外旅行に連れて行ってください』だと?」


 思わずユズリを凝視してしまった。

 こいつは何を要望してるのだ。


「だって、彼は今や隠れ資産家ですよ? 領地持ちですし、イヅナ国にも土地を持ってるそうじゃないですか。甘えさせてくれないかなあって……」


「甘えるなあ!!!」


 バシーンとユズリの無駄にでかい胸を平手打ちしてやる。


「いったああ!! いきなり何をするんですか!?」


「お前は勘違いをしている! 少年に求めるばかりだとう!? じゃあ、お前は何を与えるんだ? 何も与えていないだろう!? そんなんで甘えようなんて、一億年早いんだよ!!」


 ふふん、どうだ。

 私の正論過ぎる正論でぐうの音も出ないだろう。

 見守っているメグやミンニエリ、レンファとミラも黙り込んでしまっている。


「た、確かにそうですね……。分かりました。私も彼に喜んでもらえるような事をしてみます」


「うむ、良い心がけだ……!? って、お前は少年に何をするつもりだ!?」


「教えませんよ。テルアイラさんが何か与えろって言ったじゃないですか。それをするつもりですよ。じゃあ、私は出掛けてきますね」


 あいつ、逃げやがったな!!



「……そっか。あの男の子が喜ぶような事をすればいいのかな?」


 おい、メグも何を言い出すのかな?


「私もスイーツ食べ歩き仲間から一歩踏み出す事にしてみますね」


 ミンニエリまで!?

 お前ら一体何をする気なんだ!?


 まさかのレンファもじゃないだろうな……。


「安心してください、テルアイラさん。私はあのお兄さんにとって、妹みたいな扱いですから」


 いや、そこは分からない。

 あの少年は年上の人妻も年下の幼女もストライクゾーンという噂だからな。

 実際、魔力剣の精霊だとかいう幼女と仲良さそうに手を繋いで歩いてるのを見た事あるし。


 もしかして、ミラまで言い出すなよ……?


「私はメグ姉さま一筋ですから……今のところ」


 なんだよ、その含みのある言い方は!?

 そういえば、こいつって、以前ほどメグに迫る事も無くなったよな!?


 これはマズい!

 いち早く少年の心をガッチリ掴まないと!!

 恐らくだが、王女のイリーダも既に狙っているはずだ。

 これはウカウカしていられない。



「私を呼んだか?」


「ほら来たよ! 呼んでもないのに来やがったよ!!」


「おいおい、随分なご挨拶だな。テルちゃんよ」


「やかましい! というか、私の妹もテルちゃんなんで紛らわしいんだよ!!」


「ほほう、テルちゃんに妹がいたとはな。今度からアイちゃんとでも呼ぼうか」


「いや、それマジでやめてくれ……」


「アイちゃん、可愛いのにな……」


「それはそうと、なんの用だよ?」


「用が無いのに来ては駄目なのか? って、冗談はさておき。今日はバレンタインの日だろう? 去年はアイちゃんのチョコを随分と堪能させてもらったからな。今年はそのお返しに来た訳だ」


 こいつ、去年の下剤入りチョコを根に持っていやがったか。

 そもそもだけど、こいつが勝手に下剤トッピングを振りかけたのが悪いんだけどな。


「さあ、アイちゃんにどうぞ」


「……なんか、お前のチョコから漏れ出ちゃいけない色々が見えるんだけど?」


「気にするな。我が妹達からの感謝の念も込めてあるぞ」


 駄目だ! こいつ完全に私を殺しに掛かってる!!

 マズい、このままでは本当に殺されかねない!!


 そんな時だった。

 神は無神論者の私を見捨てなかったのだ。



「せーんぱーい、いますか~」


 ナイスタイミングで、後輩のマリアンヌことマリアが訪ねて来たのだ。

 しかし、無駄にでかい胸してるよな。まさに駄肉の塊である。

 これにはイリーダも目を奪われてしまっている様子。


「おお、いいところに来たな! 王女のイリーダが私達にチョコをくれるそうだ! お前も食っていけ────」


 そう言い掛けて、私はとんでもない物を目にしてしまったのだ。

 マリアの持っている包みから、とんでもない負のオーラが漏れ出しているのだ。

 それこそ、イリーダのチョコが霞むぐらいのヤバさである。


「お前、なんだそれは!?」


「これですか……? うふふふ、言わせないでくださいよ。今日はあの日じゃないですかあ」


 瞳のハイライトが消え、歪んだ笑顔が恐ろしい。

 メグとミンニエリすら怯えさせるって、相当なものだぞ。

 レンファとミラなんて、店の奥へと逃げ出してしまっている。



「な、なあ、アイちゃん。彼女の持ってるのはなんだ……?」


「多分だけど、チョコなんだろうな……」


「チョコレートから、あのような邪念が漏れ出る物なのか!?」


 イリーダが分かるぐらいなのだから、相当な呪物なのだろう。

 というか、チョコが呪物って時点でヤバいだろ。


「おい、マリア。そのチョコに何を込めた……?」


「先輩、聞きたいですか~?」


 正直に言うと非常に聞きたくない。

 邪法の類だったら、殴り飛ばしてでもあのチョコを焼却処分するぞ。


「これ、私の血を混ぜたんですよ。勿論あの血ですよ~」


 駄目だ、こんなの少年が食べたお腹を壊してしまう。

 絶対に食べさせる訳にはいかない!


「悪いが、マリア。それを少年には渡させる訳にはいかない……」


「違いますよう。これは余ったので先輩用のです。彼の分は既に配達済みですから~」


 なんだとう!?

 だったら、今すぐに少年の元に行かねば!!


「おっと、アイちゃんを行かせる訳にはいかないな」


「イリーダ! 何故、私の邪魔をする!?」


「まずは、私からのチョコを食べてくれ」


「まあ、王女様も先輩にチョコをプレゼントされるのですね! じゃあ、私のも受け取ってくださいね、せ・ん・ぱ・い」


 うお!?

 なんだこいつらは!! いきなり妙に息の合ったコンビネーションで私に呪物チョコを食わそうとしてくるのだが!?


 くそ、これはメグとミンニエリの手を借りないと駄目かもしれん……って、既にいないし!?


「隙ありだ、アイちゃん」


「先輩、どうぞ」


「し、しまっ──────」


 その日から、私は三日間も寝込んだのであった。

 風の噂によると、少年の方は一週間も寝込んだそうだ。どんな物を食べたんだろうなあ。

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