番外編 12 メタフィクション
メタネタが多めです
私は現在、王都の復興作業で現場監督を任されて引っ張りだこである。
まったくいい迷惑だよな。異世界人とやらが王都だけでなく、全世界を襲撃してくるんだからよ。
無論、メグやユズリにミンニエリ、あの少年の仲間達と力を合わせて異世界人どもを撃退してやったさ。
城とかの重要施設等は結界で守られていたが、ショッピングモールと呼ばれる商業施設は破壊し尽くされてしまった。
私達が常宿にしているレンファの店の一帯は、私が魔力障壁でなんとか守り抜いたものの、それでも少なからず被害を受けている。
そんで、私は土の精霊魔法等が使えるって事で、ショッピングモールの再建を任されて、こうして現場監督として頑張っているのだ。
まったく、イリーダのやつも人使いが荒いよなぁ。
王女のくせして頭を下げてくるものだから、断れなくなっただろうが。
……あれ?
なんで私はこんな事をやってるんだ?
というか、王都の復興ってなんだ?
異世界人の襲撃? なんだそれ?
私はヴィルオンでの仕事を終えて、王都でスローライフを送っていたはずだ。
……ヤバい。
頭が混乱してきた。経験したはずがないのに、何故か記憶として残っている。
なんなんだこれは。私の頭がおかしくなってしまったのか?
ああ、きっと疲れてるんだな。そうに違いない。
少年を抱きしめたら、こんな疲れなんて吹っ飛ぶに違いない。
絶対にそうだ。
私は自分にそう言い聞かせ、焦った気持ちを落ち着かせながら、我が家である月花亭へと足を速めた。
レンファの店では、いつも通りにメグやユズリ、そしてミンニエリがダラダラしているに違いない。
「た、ただいま……」
「あ、お帰りなさーい! 今日も復興作業ご苦労さまです!」
レンファが笑顔で出迎えてくれるとか、どういう風の吹き回しだ!?
それよりもだ。復興作業ご苦労さまだと……?
余計に混乱していると、ミラも顔を出した。
「お帰りなさい。テルアイラさんのおかげで、ショッピングモールの再建が早く進んでいると、職人の方達が喜んでいましたよ」
ミラが進んで私に飲み物を出してくるだと!?
明日は雪か槍が降るんじゃないか!?
思わず固まっていると、メグとユズリとミンニエリもやってきた。
「ねえ、何をそんなところでボサっと立ってるの? 疲れてるだろうから、早く座りなよ」
「ここはテルアイラさんの特等席ですよ! やっぱり、主役がいないと落ち着きませんね」
「世間では『真紅の瞳の銀髪猫耳少女』が英雄視されていますけど、私達はテルアイラさんが本当の英雄だと思ってますからね」
怖い!
なんでこいつらが私を気遣ってるんだよ!!
恐怖しか感じないんだけど!!
「テルアイラさん、今日はどうしたのですか?」
「疲れてるのなら早く休んだ方がいいですよ」
「ミラの言う通りだよ。今日はもう休んだら?」
「最近のテルアイラさんは、張り切り過ぎでしたからね」
「オーバーワークは、よくありませんよ」
もう訳が分からない。
私は異世界とか平行世界とかに飛ばされてしまったのだろうか……。
もしかして、全員で私にドッキリを仕掛けようとしている可能性もあるかもしれん。
一応、確認しておこう。
「あ、あのさ……変な事聞くんだけど、異世界人の襲撃って本当にあったのか?」
その場の全員がキョトンとした表情になった。
なんだよ、その反応は。
それから程なくして、全員が失笑してふき出した。
「ちょっと、テルアイラさん! 冗談はやめてくださいよう!」
「あれだけの活躍をしたのですから、私もテルアイラさんを見直しました」
「テルアイラも変な事を言うね? この付近一帯を守り抜いたじゃない」
「テルアイラさんが守ってくれたからこそ、私も神の加護を思いっきり行使する事ができたのですよ」
「あの数の機械人の軍勢を前にして心が折れそうになりましたが、テルアイラさんがいてくれたからこそ、勝てたのです!」
なんで全員べた褒めなんだよ。
私、そんな活躍したのだろうか……。
確かに、この飲食店街を魔力障壁で守った記憶はあるけど、その記憶は本物なのだろうか。
「あ、あのさぁ、やっぱりおかしくない? ついこの間まで私達は平和な王都でダラダラ過ごしてたじゃないか。時々イリーダが顔を出してきて私と喧嘩したり、最近では私の実家に行ったじゃないか。異世界人なんて、いつ襲撃してきたんだ? みんな、本当に何も覚えてないのか?」
私が必死に訴えると、全員が一瞬ハッとした表情になる。
「……あれ? 確かに変ですね」
「私もテルアイラさんを見直すとかあり得ないです……」
途端にレンファとミラが不安そうな表情を浮かべる。
「うーん、でも機械人って奴と戦った記憶はあるんだよねぇ」
「ですけど、テルアイラさんの実家に遊びに行った記憶もあるのですよね……」
メグとユズリも首をかしげている。
一方、ミンニエリは混乱しているのか頭を抱えだした。
「私は留守番でしたけど、確かに実家へ帰省するテルアイラさん達を見送ったはずです。記憶が混在していて、なんだか訳が分からなくなってきました……」
やはり、皆も違和感を覚えているようだ。
まさかとは思うが、集団で幻覚にでもかかっているのだろうか。
「うう、思い出そうとすると頭が痛くなりますぅ……」
「レンファ、無理に思い出そうとしては駄目。これはきっと神の力に違いない」
「なんでそんな事が分かるのですか、ミラさん」
「私の魔族としての勘」
そういえば、ミラって一応は魔族だったんだよな。
すっかりその設定を忘れてたよ。
……設定?
なんで急にそんな単語が頭に浮かんだんだ?
もしや、本当に神の仕業なのか!?
だが、記憶の改変だけという訳じゃない。王都は実際に襲撃を受けていて、ショッピングモール等が全壊していたからな。
恐らくだが、先程のレンファの様子を見る限り、無理に思い出そうとすると脳に負荷が掛かるのだろう。
まだ子供のレンファとミラには、これ以上は負担を掛けられないので退場してもらおう。
「おい、二人とも。店の仕事はいいのか?」
「あ、いけない! 他のお客さんを放置してました!」
「私も皿洗いの途中でした」
二人が席を離れたのを見届け、残る三人と顔を突き合わせる。
「なあ、仮にこれが神の仕業だとしたら、何が目的なのだろうな?」
「そんなの分からないよう。だけど、経験した事がない記憶まであって気持ち悪いや……」
メグが苦虫を噛み潰したみたいな顔をしてやがる。
「でも、私は確かに皆さんと一緒に機械人達を叩き潰してるはずなんですよね……」
さっきからミンニエリはずっと首をかしげっぱなしで、納得がいかないみたいだ。
「これが本当に神の力だとしたら、直接尋ねてみた方がいいかもしれませんね」
さらっとユズリがとんでもない事を言い出した。
神に尋ねるだって?
「おいおい、そんな事ができるのかよ!?」
「こう見えて、私は女神エルファルド様の加護を直接頂いてますからね。取り敢えず、今からコンタクトを取ってみます」
そう言って、ユズリは瞑想状態に入ってしまった。
いきなりだったので、戸惑う私達はユズリを見守るしかない。
しばらくして、その場の沈黙に耐え切れなくなったのか、メグが私に尋ねてきた。
「ねえ、テルアイラ。なんで急にこんな事を言い出したの?」
「あ、私も気になります。テルアイラさんに指摘されなかったら、疑問にも思いませんでしたよ」
「それなんだけどな、私も全然疑問に思わなかったんだよ。今日なんとなく、おかしいなって感じて……」
そんな会話を続けていると、瞑想状態だったユズリの瞳が突然見開かれた。
「皆さん、確認が取れました! やっぱり神が行った事です!」
「ああん? なんでまたそんな事をしたんだよ、そのエルファルド神ってのは」
「いえ、違うんです。エルファルド様は関与していません」
「じゃあ誰なんだよ」
私が問うと、ユズリは物凄く微妙な表情になった。
「ユズリ、どうしたの?」
「何か言いにくい事なのですか?」
メグとミンニエリにも問われると、仕方ないという表情でユズリが答えた。
「創造神の仕業だそうです……」
「はあ!? なんだそれ? そいつはエルファルド神より偉いのか?」
「偉いどころじゃありませんよ! 世界の創造主ですよ!」
「よく分からんが、なんでそんな偉いやつが私達の記憶をいじったんだ?」
「それがその……『後付け設定』だそうです」
その場の全員が無言になった。
「……なあ、ちょっと意味が分からないんだけどさ、なんでそんな事が必要なんだ?」
「もう一つの本編との整合性を取るためだそうです……」
流石にそれはふざけ過ぎだろう。
そんな事のために、私達の記憶を改変したというのか?
どれだけ創造神とやらは偉いんだよ。
怒りが沸々と湧いてきたところで、メグが素っ頓狂な声を上げた。
「そういえばさー、このお話も一度やり直してるよね? 私達って、最初は勇者に捨てられたって設定だったよね?」
メグのやつ、いきなり何を言い出すんだ!?
「え? そんな事があったのですか!? 私は中盤以降の登場だったので、そんな初期の事は知りませんでした」
ミンニエリも身も蓋も無い事を言うなよ。
「設定と言えば、初期は私達のキャラが定まってませんでしたよね」
ユズリも開き直ってきたな。
それじゃ、私も遠慮はやめるか。
「それを言ったら、私は一人っ子という設定だったし、子供の頃に行った極東の帝都タワーってどこなんだよ! 初期の話で出てきたけど全然分からんぞ!! これも全て創造神が行き当たりばったりで話を書いてるからだろ!!」
「ちょっと、流石に言いすぎじゃない……?」
「それ以上は駄目ですよ! 創造神の怒りに触れてしまいます!」
「私は何も聞いてませんし、見てませんから!」
「お前ら、創造神が怖くて何も言えないのか? 私なんて、いくら望んでも少年との仲が進まないんだぞ!! これも全て創造神が悪いんだ!!」
きっと今頃、愛しい少年はもう一つの本編で他の女に寝取られてしまってるんだ!
くそう! 悔しい、妬ましい!!
……なんだかユズリの顔が真っ赤なのだが。
「おいユズリ。まさかとは思うけど、後付け設定の記憶で少年と何かあったのか?」
「ふえっ!? な、な、なんて事を言うんですか!? わ、私と彼との間で何も起きないですよ!!」
「そうかな~。その慌てようを見てたら、絶対に何かあったよね~」
「私もメグさんと同意見です。残念ながら、私の新たな記憶では、彼との間では何も無かったみたいですけど……」
「ほら、メグとミンニエリもこう言ってるんだぞ。早く白状しろよ。どうせ裸で抱き合ったりしたんだろ。この破廉恥タヌキめ」
「裸で抱き合ってませんよ! 下着姿で抱き合っただけです! ましてや、彼のアレを押し当てられたとか無いですからね!!」
こいつ、なんて事を言い出すんだ!?
「わお! ユズリってば、そこまで関係を深めてたの!?」
「これは私達もウカウカしてられませんね!」
「こんちくしょう! ユズリの裏切り者!! お前なんて、ころころしてやるぅぅぅぅ!!」
「ちょっと落ち着いてくださいってば!! 彼とは最後までしてませんよ!! そもそも、あれは仕方なくやった事なんですってば!!」
「そんなの信じられるか!! この泥棒タヌキ!!」
「もう! そんなんだから、テルアイラさんが相手にされないんですよ!!」
なんですと……。
この言葉は思いの外ショックであった。
私が少年に相手にされない。絶望しかない。
もう生きている意味が見出せない。
そのままぶっ倒れたら、ユズリに抱き起こされた。
「テルアイラさんは大袈裟なんですよ。これはエルファルド様経由で聞いたトップシークレット案件ですけど、創造神が作った未来の世界でテルアイラさんの娘さんが活躍してるお話があるそうですよ」
なんですと……。
「おいユズリ! その話を詳しく!!」
「これ以上は知りませんよう!!」
なんかよく分からないけど、後付け設定も悪くないなと思う今日この頃であった。




