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番外編 11 テルアイラ実家へ帰る・6

 実の父親の変わり果てた姿を見て、妹のファリアがぶっ倒れた。

 パパっ子だったもんな。私もこんな父親を見てショックを受けている。


「ぷふー、ファリアはどうしたのぷふー?」


 いや……ショックというか、この豚を段々殴りたくなってきた。

 母親はというと、この状況でまったく動じていない。

 あんなにイケメンだった夫が、こうも変わり果てたのだぞ。少しは気にしないのか?


「なあ、父さんに何があったんだ? 変な物を食べて病気になったのか? それとも、新手の呪いとかか?」


「そんな事ないわ。パパはアイラちゃん達が独立して家を出たからって、身だしなみに気を抜いてたら、ちょっとぽっちゃりになってしまったのよ」


 これのどこがぽっちゃりなんだろうな。

 流石に限度を超えているだろ。


「ぷふー、それはそうと、こちらのお嬢さん方はどちらぷふー?」


 頼むから普通に喋ってくれ。


「えっと、私のパーティーメンバーだ」


「メグナーシャだよ。メグって呼んでね」


「ユズリと申します。テルアイラさんにはお世話になっています」


「ぷふー、可愛らしいお嬢さん達だぷふー。せっかくなので、お小遣いあげるぷふー」


「わあ、ありがとう!」


「いいのですか? こんなに沢山……」


「気にしないでぷふー。これからも娘と仲良くしてぷふー」


「うん!」


「分かりました!」


 ……なんか、いきなり馴染んでるんだけど。

 ていうか、私の仲間に勝手に小遣いあげないでくれるかな。子供じゃないんだからさ。

 思わず呆れていると、妹がガバっと起き上がった。


「いやいやいや! あり得ないでしょ! なんなのこの豚は! 私のパパはこんな豚じゃないよ!!」


 うん。私も激しく同意するが、残念ながらこの豚が私達の父親らしいのだ。


「ぷふー、久しぶりの再開なのに、悲しい事を言わないでおくれ、ファリアぷふー」


 どうにも締まらないなー。

 取り敢えず、その口調をやめような。


「ちょっと、ファリアちゃん? パパに向かってその口の利き方はなんなの? ちゃんと謝りなさい。でないと、お母さんプンスカしちゃうわよ?」


 本当に我が家は締まらないなー。

 だけど、私の母親は笑顔で激怒する女なのである。


「う、うるさいな! ママだってあんなパパ嫌でしょ!? せっかく帰ってきたのに、こんなパパなんて見たくなかった!!」


「ぷふー、ごめんよファリアぷふー」


 中々の修羅場なのだろうけど、とてもそう見えない。

 面倒だし、ここは傍観者に徹しよう。


「ファリアちゃん? 言っていい事と悪い事があるわ。ちょっとこちらへ来なさい。お母さんがお仕置きしますから」


「へ? へ? どこに行くの? ちょっとママ! 私をどうするのーーーーー!?」


 母親がファリアの首根っこを掴んで、どこかへ行ってしまった。

 あれは多分、『お仕置き部屋』だろうな……。

 安らかに眠れ、わが妹よ。



「ぷふー、我が家のみっともないところをお見せしてしまったぷふー」


 そう思うのなら、その身なりと口調をどうにかしろよなー。


「ところで、お嬢さん達に聞きたいぷふー」


「なあに?」


「なんでしょうか?」


「やっぱり、こんな姿はみっともないのかぷふー?」


「えっと……」


「なんと言うか……」


 どうして、そこで口ごもって私の方を見るんだよ。

 本当にこいつらって、面倒な事は私に丸投げなんだよな。


「思った通りに言ってやるのも優しさだぞー。身内以外の意見は役立つ。二人とも遠慮なんてするな」


 メグとユズリは、困ったように互いの顔を見て頷き合う。


「えっとね、私のお父さんは引き締まった身体かな。戦士なので鍛えてるから……」


「私の父ですが、お腹はぽこんと出てますけど、他は鍛えてるので、腕とか凄い筋肉ですね……」


「二人とも、奥歯に物が挟まったような言い方するなよなー」


「そんな事言ったって、本当の事は言えないよ!」


「そうですよ。流石に初対面の方にそんな事……」


「……だそうだ。父さん?」


 父親がショックを受けた顔をしている。

 身内でなく、他人がビシっと言ってくれた方がいい場合もあるのよ。


「ぷふー。やっぱり、パパは格好いい方がいいのかぷふー?」


「まあ、そうだな。少なくとも昔の父さんはイケメンだと思ってたぞ」


「……分かったぷふー」


 父親はトボトボ歩きながらリビングを出て、そのまま家からも出て行ってしまった。


「ちょっと、テルアイラ! お父さん大丈夫なの!?」


「何か凄い思い詰めた顔してましたよ!?」


「大丈夫だろ。そこに書置きがあるし」


 父親が残した書置きには『ちょっとダイエットしてきます。探さないでください』と書いてあった。

 文面的にどうなんだろうな?


 そこへ、ちょうどいいタイミングで母親が戻ってきた。


「あら、パパ出掛けちゃったの? せっかく今夜は腕によりをかけて料理を作ろうと思ったのに……」


 そんでもって、母親はまったく気にしていなかった。

 それはそうと、妹はどうなったんだろうな?





  ◆◆◆





 今夜はメグとユズリが我が家に泊まる事になり、一緒に夕飯の食卓を囲んでいる。


「さあ、みんな沢山食べてね! 今夜はいつもより気合を入れたから!」


 母親が笑顔で言うが、メグとユズリは苦笑している。

 それもそのはず、料理がとんでもない。

 揚げ物と炭水化物の山盛りオンパレードなのだ。


「えっと……私、もうお腹いっぱいかな?」


「同じく、お腹いっぱいです……」


「えーそうなの? 二人とも小食ね。いつものパパなら完食してくれるのに」


「父さんがあんなになったのって、アンタの食事が原因じゃねえかよ!!」


「アイラちゃんひどい! お母さん悲しいわ。ファリアちゃんなら、分かってくれるよね?」


「イエス、マム!」


「あらいい子ね。ご褒美に沢山食べてね、ファリアちゃん!」


「イエス、マム!」


 可哀想に。妹が壊れてしまった。

 何があったのかは聞かない事にしておこう。

 メグとユズリも見ない振りをしているし。



 翌日。父親はまだ帰ってこない。

 私は実家で羽を伸ばす事にした。たまにはゆっくりするのも悪くないよな。


 メグはというと、母親が教官を務めるエルフの戦士達の訓練に同行するそうだ。

 ユズリはエルフの書物が読みたいと言って、妹のファリアに案内されて中央図書館に向かった。

 私はひたすら惰眠を貪るとしますか。

 ……そういえば、あの少年は今頃何をしてるのかなー。会いたいなー。


 そんなこんなで三日経ってしまった。

 流石にゴロゴロするのも飽きたので、思わず家の掃除をしてしまった。

 冷蔵庫の中も掃除しようとしたら、いつのだか分からない食材や料理が出てくるし。

 適当に押し込まないで、ちゃんと捨てろよなあ。生活ゴミも分別してないし。

 なんで、実家に帰省してまでこんな事してるんだろうな。


 無心で掃除していたら、母親達が帰ってきた。


「え? 家の掃除してくれたの!? ありがとうアイラちゃん! お母さん、とっても助かったわ!」


「礼なんてどうでもいいよ。それより、メグはどうだったんだ?」


「そうそう、メグちゃん凄いわね! お母さんのスペシャル訓練メニューも笑顔でこなしていたわよ! 他の戦士達がだらしなかった分、メグちゃんの凄さが際立っていたわ」


「えへへ、それ程でも~」


 他のエルフ達が泣いてる中、メグだけが嬉々としている姿が目に浮かぶな……。


「ユズリの方はどうだったんだ?」


「はい。凄い蔵書の数で驚きました!」


 確か、この集落の中央図書館の蔵書量は、私達が滞在しているレイデンシア王国の王都の無限図書館にも劣らないと言われてるからなー。

 それもそのはず、エルフの図書館は精霊界に繋がっていて、他のエルフの図書館からもアクセスできるのだ。


「んで、ファリアもユズリをちゃんと案内してやったんだよな?」


「失礼な! ちゃんと案内したよ!」


「そうですよ。テルファリアさんって、凄い博識でしたよ。一緒にいて楽しかったです」


「ユズリさんも渋い趣味してたよ。古代神学を調べたいって、そんなのに興味持つなんて、ここじゃ古老ぐらいだよ」


「こう見えて、一応は女神エルファルドを信仰してますからね」


 なんだかんだで、二人とも楽しんでたみたいだな。

 そんな時、玄関のドアが開いた音が聞こえてきた。



「あら? パパが帰ってきたみたいね」


 父親の事をすっかり忘れてたのは秘密である。

 確かダイエットしてくると言っていたが……。



「やあ、みんなただいま!」


 とんでもねえイケメンが現れた。

 メグとユズリは絶句し、妹はまたもやぶっ倒れた。


「パパ、随分すっきりしたわね!」


「ははは。少し走り込んできただけさ!」


「いや、それ走り込んでどうにかなるレベルじゃないだろ!」


「まったく、アイラは細かい事を気にしすぎる子だなあ」


「常識外れの奴に言われたくねえよ!!」


「アイラ。そんな乱暴な言葉遣いだと、恋人もできないぞ」


「余計なお世話だ! 間に合ってるから!!」


「え? そうなの? お母さん詳しく聞きたいわ! ねえ、アイラちゃんどうなの?」


「恋人がいるのなら、ちゃんとお父さんにも紹介してくれよ」


 しまった! うっかり口が滑った。

 こんな両親に知られたら、絶対にとんでもない事になる。

 少年の事は知られる訳にはいかない。


「知らん! そんなのいないから!」


「あれ? テルアイラって、いつもあの男の子の事を言ってるよね?」


「確かに。彼の事がお気に入りじゃなかったのですか?」


「お前ら! それ以上言うな!!」


「え!? 何それ! 二人とも詳しく聞かせて!!」


「ほほう。可愛い娘が気に入るぐらいだ。お父さんも是非会ってみたいな」


 もう勘弁してくれ!

 こんな感じで、私の帰省は最後にとんでもない目に遭ったのだった。

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