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番外編 7 テルアイラ実家へ帰る・2

 レンファの店を出てしばらくすると、後輩のマリアに出くわした。

 相変わらずの無駄にでかい胸を見せつけられるので、腹が立つな。


「あれ? 先輩、お揃いでお出かけですかー?」


「ああ、ちょっと野暮用でな……」


 こいつに実家に帰るなんて言ったら、下手するとついて行くとか言い出すとも限らん。

 余計な事は言わずにやり過ごそう。


「それはそうと、こちらのエルフはどなたですぅ? どことなく、先輩に似ている気がするのですけど、もしかして妹さんですか?」


「は? 私が姉さんとそっくりだって!? 寝言は寝てから言ってくださいよ! このエルフの面汚しめ!!」


 いきなり妹のファリアがブチ切れた。

 まあ、分からなくもない。あの胸だしな。


「ええー!? いきなり罵倒ですか!? いくら先輩の妹さんでも、あまりにも非常識ではないですか?」


 うむ。普通ならマリアの言う事が正しい。

 だが、我々姉妹にとっては、マリアの無駄にでかい胸は敵なのだ。


「姉さん、あんなエルフが存在するの? 豊胸手術をしてるだけじゃないの?」


「妹よ。残念ながら、マリアの胸は正真正銘の本物だ。揉んだ私が保証する」


「……そう。だったら、私も確かめさせてもらうから」


「え!? ちょ、ちょっと!? いきなり揉まないでくださーい! いやーーーー!!」






「……ふう。非常に腹が立ちますけど、本物の胸だったね」


 一仕事やり終えた妹は、額の汗を拭う。

 どうでもいいけど、道のど真ん中でマリアが胸を揉まれている姿はとても目立っていたな。

 通行人達も目が離せなかったみたいで集まってきたのだが、私が見物料を徴収しようとしたら、みんな速足で去って行ってしまった。せこい奴らめ。


 ちなみにだが、一部始終を見ていたメグとユズリは他人の振りをしていた。

 まったく、仲間思いのない奴らだ。


「うぅ……酷いですよう。なんで私がこんな目に遭わなくてはいけないのですか……」


「そりゃあ、あなたの胸の大きさがエルフの風上にもおけないからですよ。……申し遅れました。私はテルアイラの妹のテルファリアと申します。よろしく」


「今この状況で自己紹介なの!? ……私はマリアンヌです。言っておきますが、私程じゃないけど、ウチの地元では先輩達より胸の大きいエルフは普通にいますからね!」


「はあ!?」

「はあ!?」


 妹とハモった。


「おい、マリア! それは初耳だぞ!?」


「それは本当なのですか!? エルフはスレンダーな体型がお約束じゃないのですか!?」


「本当ですよう。むしろ、先輩達が細すぎて栄養失調かと思うぐらいですからね」


 これはなんという事だ。

 まさかとは思うが、実はマリアと私達は別種族なんじゃないか?

 ダークエルフだって、厳密に言うと肌の色が違うだけじゃないらしいし。

 いや、もしかしたら食べ物が影響してるかもしれん。

 そういえば、どこかの国で魔法で品種改良した家畜の乳を飲むようになってから、急激に平均身長が伸びたとか聞いた事があるぞ。


 って、今はそんな事を考えている場合じゃない。

 さっさと実家に帰らないといけないのだった。


「今日は急ぐんでまたな、マリア」


「これで失礼します。また今度ゆっくりと揉ませてもらいますから」


「ええー!? 私、揉まれただけなの!? っていうか、また揉まれるのですかー!?」


 悲痛な叫びを上げる後輩を残して、我々は先を急ぐ。




「ねえ、テルアイラ。後輩さんが少し可哀想だよ」


「そうですよ。私、なんとなく彼女に親近感を覚えました……」


 メグとユズリが抗議してくるが、ここは譲れない。

 奴は私の敵なのだ。妹も頷いている。


「それはそうと、姉さん。先程のマリアンヌさんは後輩なんだよね? どういった関係なの?」


「あ、それ私も前から気になってたー」


「テルアイラさんの学生時代の後輩さんですか?」


 そういえば、この二人にも言ってなかったか。


「あいつは私が冒険者として駆け出しだった頃の後輩だ。よく二人でギルドの依頼をこなしてたなぁ」


「へー。姉さんって色々やってたけど、冒険者だけは今でも続いてるんだね」


「おい、失礼な事を言うな。私程のプロフェッショナルなら、全てをあっという間に修めてしまうのだぞ」


「あんな事を言ってるけど、働いてたお店をすぐにクビになった話をしてたよねー」


「お役所務めをしてた話もありましたけど、やっぱり続かないんですね」


 おい、そこのメグとユズリ。

 全部聞こえてるからな。


「姉さんは、昔から飽きっぽいからね」


「やっぱ、そうなんだー」


「それ、凄く分かります!」


 おい、勝手に三人で盛り上がるなよ。

 除け者にされた気分じゃないか。


「それはそうと、ファリア。どうやって実家に戻るんだ? 私達は足があるからいいけど、お前はどうするんだ?」


 移動用のグリフォン型ゴーレムは、基本一人乗りなのだ。

 短時間ならいいが、長時間二人乗りはお互いにキツイ。


「ああ、それなら転移用の魔法陣があるから大丈夫だよ」


「お前、そんなの持ってるのか!? かの古代魔法王国時代でも、ごく一部でしか実用化されてなかったと聞くぞ」


「それがあるんだなー。まあ、研究の成果ってやつ? とは言っても、量産化は数十年経っても無理そうだけどね」


 マジかよ。

 なんだかんだ言っても、こいつもちゃんと研究職をやってるんだなぁ。


「ねえ、テルファリアちゃん。その魔法陣ってなんなの?」


「転移用の術式が組み込まれている図形ですよね?」


「えっと、端的に言いますと──」


 妹がメグとユズリに説明している横で、なんとなく疎外感を覚える。

 同時に自分は何をやっているのだろうと。


 おっとイカン、イカン。

 私と妹は別人なのだ。比べたって詮無い事なのだ。




「姉さん?」


「……あ、ああ、なんだ?」


「いや、なんか考え事してたみたいだけどさ。どうせ、またくだらない事を考えてたんでしょ?」


 くそ、妹のくせに鋭いのが腹が立つな。


「姉さん。私と姉さんは違うんだよ。比べたって仕方がない」


「そんな事は分かってる」


 いつも優等生ぶっている妹が気に食わないだけだ。

 要領がいい妹は、いつだって私より褒められるのだ。


 ……私がこいつを苦手になったのは、いつの頃だったろうな。


「私だったら、魔王なんて倒せないよ。私とアイラ姉さんは違うんだから。そこはしっかり自覚してね」


「……ファリア」


「それと風の噂で聞いたよ。隣国ヴィルオンで大暴れしたんだってね?」


 おいおい、それは重要な国家機密だぞ。

 まさか、メグとユズリが口を滑らせたのか!?

 慌てて二人の方を見ると、揃って首を横に振っている。


「風の噂だよ。私だって、精霊ぐらいは使役してるからね」


 お喋りな精霊もいるもんだな。

 だとすると、実家にも筒抜けって事か。

 今から頭が痛くなってくる。



「まあいいや。それで、その転移用魔法陣はどこにあるんだ?」


「この王都で借りてる家に用意してあるよ」


 ほほう。

 だとすると、わざわざ旅支度をしないで移動できるって事か。

 とんでもなく便利だな。


「ねえ、今更なんだけど、テルアイラの実家ってどこにあるの?」


「東のイヅナ国って事はないでしょうから、西方諸国のどこかですか?」


「二人には言ってなかったか? フォルガンっていう小さな国だ。酒が旨いんだぞ」


「へー」


「初めて聞きましたよ、その国名」


 まあ、本当に小さい国だからな。

 だからこそ、国民の多くは広い世界を目指して出て行く事が多いのだ。


 そんな話をしながら、妹が借りているという家までやってきた。

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