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番外編 6 テルアイラ実家へ帰る

「あのう、テルアイラさん。こちらの方がテルアイラさんに用があるらしくて……」


 そう言って、ミンニエリが連れてきたのは、我が愚妹であった。

 前髪ぱっつんで生意気な顔をしている。

 昔はよく似ていると言われたが、そんな事は断じてない。


「久しぶりだね、姉さん。今から実家へ帰るよ」


「は? いきなり現れた上に、何を言ってるんだ?」


 こいつとは、以前に冒険者予備校で催された『学祭』というイベントで顔を合わせた事があった。

 その時だって、随分と久しぶりの再会であったが、ムカつく態度だったから頭突きしてやったら、頭突きの応酬となったのだ。

 結局はメグとユズリに止められ、妹も向こうの連れ達が止めたので勝負はウヤムヤになってしまったが。


 何が言いたいのかと言うと、妹とは滅茶苦茶に相性が悪い。



「え? ちょっと待ってください。この方って、テルアイラさんの妹さんなのですか!?」


 連れてきた張本人のミンニエリがアホ面で驚いている。

 こんな奴に一から説明するのも面倒なんだけど。


「私とユズリは学祭で一度会ってるよね」


「先日はろくにご挨拶もしないで、失礼しました」


 メグとユズリよ、そんな奴に挨拶なんてしないでよろしい。


「こんにちは。先日はお見苦しいところをお見せしまして、お恥ずかしい限りです」


 おいおい、礼儀正しいアピールして点数稼ぎか?

 本当に腹が立つ妹だよ。


「ふえ~。とてもテルアイラさんの妹さんとは思えないぐらいに、しっかりしてる方ですね」


「姉より優れた妹など存在しないって言葉がありますけど、どう見ても優れてますよね」


 レンファとミラも、私に対して失礼過ぎやしないかい?

 なんか私、過小評価され過ぎてない?


「あはは。そんなに褒められたら恥ずかしいですよ。えっと、遅ればせながら、この駄目姉の妹をやっております、テルファリアと申します。以後、お見知りおきを」


 こんちくしょう!

 こいつ、私の事を駄目姉って言ったぞ!!

 やっぱ喧嘩売ってるよな!


 そんなこんなで、店の中で自己紹介が始まり、愚妹が私が如何に非常識なのかを訴えかけると、他の奴らが真面目に頷いている。

 このままでは、私が非常識キャラだと定着してしまうじゃないか!


「おいこら、やっぱ喧嘩売りにきたんだろ! 買ってやるから表へ出ろ!!」


 愚妹の胸ぐらを掴もうとしたら、ミンニエリに取り押さえられてしまった。

 こいつ、リアルにどんどん強くなってるよな!?


「テルアイラさん、駄目ですよ。めっ! 姉妹なのですから仲良くしませんと」


 そういう正論の押しつけはやめろよ!

 肉親だからって、みんなが仲が良いって訳じゃないんだから!

 それと、子供に対してみたいな叱り方もどうかと思うんだけど!


「……驚いた。姉さんを簡単に取り押さえる事ができる人がいるなんて。里ではクラッシャーアイラとか言われていたのに」


「おい、私をなんだと思ってるんだよ! そんな呼び方一度も聞いた事が無いぞ!! それと、今の私は全然本気を出してないからな!!」


 強がってみるも、ミンニエリを全然振り解けない。

 本気の攻撃魔法でも撃てばいけるだろうけど、この店はおろか周囲も吹っ飛ぶので、流石の私もそこまではやらないぞ。


「落ち着いてよ姉さん。さっきも言った通り、これから実家に帰るよ」


「だから、なんでそんな話になるんだよ!?」


「久々に母さんに顔を見せようと思ってだよ。たまには姉妹揃って顔を出すのも親孝行だと思うよ?」


 愚妹が気味が悪いほどにっこりと微笑んだ。

 こいつ、絶対に何か企んでいるな。


「お前、本当にそう思ってるのか?」


 私が問い掛けると、愚妹の顔に影が差した。


「……私のところに母さんの使役する精霊が直接来た」


「……そうか」


 しばし、お互い無言になる。

 とても嫌な予感がして仕方がない。


「お前のところに来たんなら、お前だけが帰れよ。きっと私は歓迎されないからな」


「えぇ!? ちょっと待ってよ! 私一人って嫌なんだけど! 一緒に帰ってよ、お姉ちゃん!!」


「ええい、やかましい!! 何を言われようが私は帰らない!!」


 半泣きでしがみついてくる妹を振り払っていると、メグがとんでも無い事を言いやがった。


「あのさ、さっきテルアイラは実家へ帰って親孝行するって言ってたよね?」


「おま! それを今ここで言うのか!? あれは冗談だっての!!」


「冗談でも、そういう嘘は良くないですよ」


「ユズリ! 正論はやめろ!!」


 どうしてこいつらは、私の外堀を埋める真似をするのかなぁ。

 おかげで妹が期待するような顔してるし。


「テルアイラさん、お母さんに会えるなら、会っておいた方がいいですよ。いつ会えなくなるか分かりませんし……」


 ミンニエリめ!

 そういう事を言うのは反則だからな!!


「ご不幸があったのですね……苦労されたでしょうに……」


 何故か妹が涙を拭きながら頷いているし。

 なんなんですかね、このノリは。


「あ、いえ、単に父に愛想を尽かして出て行っただけです。母の実家に何度も会いに行ってますよ」


「元気なのかーーーーい!!」


 妹は涙を拭いていたハンカチを床に叩き付けた。

 昔からだけど、時々この子って情緒不安定なんじゃないかと本気で心配になってくるんだよな。



「……なんだか、テルアイラさんにそっくりですね」


「確かに。伊達に血は繋がっていないって事でしょうか」


 レンファとミラは何を言い出しやがるのかな。

 こいつと私がそっくりだと?

 笑えない冗談はやめてくれ。


「私もそう思うよ」


「根本的なところは似るって言いますしね」


 メグとユズリも同意してるんじゃないよ。


「は? ちょっと待ってください。私と姉さんがそっくりですって? 悪い冗談はやめてくれません?」


 激しく同意したいところだが、口に出したら余計に似てるとか言われそうでやめておく。



「まあ、似ている云々はさておいて。テルアイラさんは実家に帰られるのですか?」


 ミンニエリ、上手く話を流したな。

 そして話を蒸し返すな。

 おかげで妹がまた縋るような目で見てくるし。


「はいはーい! 私、テルアイラの実家に行ってみたいんだけど!」


 メグの奴、この期に及んで何を言うんだ!?


「仕方ないですねえ。メグさんだけでは心配ですから、私もお付き合いしますよ」


 なんでユズリまで行く話になってるんだよ!?

 そんでもって、妹は何か考え込んでいる。


「部外者の方ですか……。エルフの里はよそ者を嫌いますからね。身の安全は保障できませんよ? 大丈夫ですか?」


 おい、そうやってこいつらを煽るのをやめろ。


「そう来なくっちゃ! わくわくするなあ!」


「一度エルフの人と、本気でやり合ってみたかったのですよね」


 ほら言わんこっちゃない!

 メグはともかく、ユズリまでやる気になってるし!


「そうですか……。特にユズリさん。あなた、真っ先に狙われると思いますよ」


 妹がユズリの豊かな胸を見ながら警告する。

 それに関しては素直に同意だな。


「え? 私が獣人だからですか? それを言ったら、メグさんだって獣人ですよ?」


「いえ、メグナーシャさんは大丈夫です」


 メグの慎ましい胸を見ながら力強く頷く我が妹。

 それに関しては激しく同意だぞ。



「私がユズリを守ってあげるよ。だから安心してね」


「ありがとうございます! メグさん!」


 最悪だ。

 なんで今日に限って、こいつらノリノリなんだよ。


 結局、メグとユズリを連れて行く事になってしまった。

 ここでミンニエリまで行きたいとか言いだしたら、どうするんだよ。

 と思っていたら、申し訳なさそうな顔をしている。


「えっと、興味はありますけど、私は仕事がありますので……」


「え? お前仕事してたの? ニートじゃないの?」


「失礼ですよ! お世話になってる『月花亭』のお手伝いもしてますし、冒険者としてギルドで依頼も受けてるんですからね!」


 おおう、ミンニエリも立派に働いてるとは!


「そうですよ。ミンニエリさんはテルアイラさんと違って、ウチの店の主戦力なのですからね」


「しかも店で暴れる不埒な輩も一捻りです。これがテルアイラさんなら、一緒に暴れて店は大損害かと」


 レンファとミラの奴め、すっかりミンニエリの味方になりやがって……。

 これは私もウカウカと遊んでいられないな。

 って、私も冒険者としてちゃんと働いてるし!!


 セルフツッコみはさておき。


「……姉さん、周囲の人に迷惑を掛けてちゃ駄目でしょうよ」


 ぐぬぬ、妹に駄目出しされたんだけど!!


「あー! もう分かったから!! ほら、行くぞ!! さっさと支度しろ!!」


 結局、店があるレンファとミラは普通に留守番、ミンニエリは店の用心棒兼店員として残る事になった。


 そんなこんなで、私と妹、それにメグとユズリで私の実家に向かう事になるのであった。

母の日ネタでやろうと思ってましたけど、間に合いませんでした。

そんでもって、一話で収まらなかったので続きます。

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