番外編 5
エイプリールフールネタです
ふふふ。今日は大っぴらに嘘をついてもいい日らしい。
この風習もいつから広まったのかは知らないが、嘘が許されるなら、とことん嘘をついてやろう。
「おいっす! メグにユズリ、ミンニエリ、それにレンファとミラも!」
私は機嫌よく宿の二階からいつもの店内に下りて行った。
五人とも既に朝食を食べ始めている。
こんちくしょう、私を差し置いて……いや、今日の私はもっとエレガントに振る舞わなければな。
そうしないと、嘘もエレガントにならない。
「おはよー、テルアイラ。なんか機嫌良さそうだね?」
「ふふん。メグさん? わたくしはいつだって、ご機嫌なのですわよ?」
「うわぁ……。いつにも増して、テルアイラさんが気持ち悪いです」
「てめぇ、ユズリ! ……こほん。いやですわ。わたくし、お上品に定評があるのですわ。おほほほ」
ミンニエリの私に向ける目が死んでいるのは気にしないでおこう。
ミラとレンファに至っては無表情である。
さて、まずはエレガントに嘘といきましょうかね。
「わたくし、皆さんにご報告がありましてよ」
「なあに? 改まってさ」
「テルアイラさんの事ですから、聞くだけ無駄なくだらない事ですよ」
ホント、ユズリはいちいち絡んで来るよな。私になんの恨みがあるのだ。
「テルアイラさんが改まって報告と言っているのですから、大事な話かもしれませんよ?」
ミンニエリは素直で可愛いなぁ。
「いや、どうせ嘘を──」
「ミラさん! それ以上はダメですよ! ネタ潰しになりますって!!」
そこのミラとレンファは黙っててもらえないかな。
凄くやりづらいから。
「では、改めて。この度、わたくし、あの少年と結婚する事になりましたの」
「…………」
……あれ? おかしいな。反応が薄いぞ。
しかも、みんな普通に飯食ってるし。
「あのさ、嘘をつくならもう少しマトモな嘘をついたら?」
メグに同情する目で見られただとう!?
「テルアイラさん、そういう嘘って、自分で言っていて悲しくなりませんか?」
ユズリもか!
「流石に私もテルアイラさんには何度も騙されましたからね」
素直なミンニエリはどこに行った!?
「もう存在自体が悲しいです」
「ミラさん! いくら穀潰しの無駄飯食らいだからって、言っていい事と悪い事がありますよ!」
レンファが一番ひどい事を言ってるよな。
ちゃんと宿代も相場以上に払って、宿の経営に貢献してるんだぞ。
「というかさ、なんで頭ごなしに私の話を嘘扱いするんだよ」
すると、全員が『何を言ってるの?』とでも言いたげに首をかしげている。
「テルアイラって、嘘が見え見えすぎるんだよ」
「テルアイラさんは、口を開けば嘘ばかりですからね」
「あまり見損なう様な事を言わないでください」
「信用されないのも、自業自得」
こいつら、もう少し私にリスペクトという物がないのかね。
「あのう、今日は『えいぷりるふーる』という日なんでしたっけ? ですから、他の皆さんもテルアイラさんが嘘を言ってくると構えていたのですよ」
「なんだとう! だとするとレンファ、最初からみんな分かっていたって言うのか!?」
何を今更って顔で全員が頷いていた。
なんてことだ。私は弄ばれていただけじゃないか!!
「じゃあ、お前らも何か嘘をついてみろよ! 私はそう簡単に騙されないからな!!」
「私、嘘ってあまり好きじゃないんだよねー」
「ははん、メグよ。所詮は脳筋キャラだな。そんなんでは国家運営なんて夢のまた夢だ」
「なんで、そこまでテルアイラに言われないといけないのか分からないけどさ、私の話が嘘かどうかを見破ってみてよ」
「お前の話をか?」
「うん」
「メグさん、それ採用! せっかくですから、テルアイラさんに私達の話を聞いてもらい、嘘かどうかを判定してもらいましょうよ」
ユズリのやつ、楽しそうだな。
私は玩具ではないぞ。
「なんだか面白そうですね」
「賛成です」
「嘘っぽい話をして、本当かどうかを見破ってもらうのですね!」
ミンニエリにミラとレンファもノリノリである。
まったく、こいつらときたら……。
「じゃあ、まずは言い出した私からね。この前、お父さんと勝負してやっと勝ったんだ」
「は? あのキングオブ脳筋に勝ったというのか!? 流石に私は騙されんぞ。その話は嘘だな!」
あの化け物に勝つなんて、魔人でも連れて来ないと無理だろ。
「ざーんねーん。本当の話だよ。ちゃんと勝った証に王家に伝わる指輪を継承したんだから。ほら、これ」
そう言って、メグが強い魔力を感じる魔石がはめられた指輪を見せた。
なんて事だ。あの脳筋オヤジがただで娘に渡す訳が無い……。
こいつ、本物の化け物になりやがったのか。
「次は私の番ですね。このたび、上級神官の資格を得ましたー!」
「は? ユズリが上級神官だって? 嘘も大概にしろよな」
こんな物欲にまみれたやつが神に仕えてるだけでもおかしいって話だ。
「残念でした。本当の話ですよ。実は私ってば、女神エルファルド様のお声を聞く事ができるのです。神託によって上級神官に推薦されてしまいました! その証拠に祝福だって出来るのですよ」
ユズリが祈ると周囲に光の粒子が降り注いだ。
確かにこれは祝福だ……。この力があればヴィルオンでの戦いがもっと楽になったはずだったろう。
今更それを言っても、どうにもならないけど。
くそう! 立て続けに本当の話をしやがって!
嘘の話はどうなったんだよ!
憤っていると、ミンニエリが遠慮がちに手を挙げた。
「ええっと、僭越ながら私の番ですね。実は、この王都の貴族さま達から立て続けに求婚をされまして……」
「やかましいわ! 自慢か!? こんちくしょう!! この淫乱ピンク髪め!! 逆ハーレムでもやってろ! ばーか、ばーか!!」
「ひどい! そんな言い方しなくてもいいじゃないですか……全部ウソなのに……」
ミンニエリが泣きながら出て行ってしまった。
そして、全員が非難の目を向けてくる。
「今のはテルアイラが悪いよ」
「そうですよ。後でちゃんとミンニエリさんに謝ってくださいね」
「えー、だって嘘だと思わなかったんだよ。自慢にしか聞こえなかったぞ」
話が紛らわし過ぎるんだよ。
「お次は私の番ですね」
次はミラか。
こいつもイマイチ表情が読めないんだよな。
「ラーズガルド帝国にいる兄から、『環境が落ち着いてきたので一緒に暮らそう』と手紙が来ましたので、一旦向こうに行こうかと思います」
ラーズガルド帝国は魔王の支配から解放された元魔王国だ。
ミラの兄というのは、その魔王の息子であるらしい。
現在は知識奴隷の身であるが、若き女帝の側近になっているとの事だ。
当のミラは魔王が遊びで作った娘で、兄を頼って帝国に向かったものの、魔王国解放後に粛清の嵐が吹き荒れていた事もあって、ミラは兄に追い出されてこの国に流れ着いたのだ。
そんな帝国の環境が落ち着いただと?
「いやいや、流石にそれは嘘が分かりやす過ぎるだろ!」
「いえ。本当ですよ。これがその手紙です。来年までには一度、兄を訪ねる予定です」
マジかよ……。
「メグ姉様と離れ離れになるのは寂しいですけど、姉様と釣り合う女になって戻ってきますから!」
「ああ、うん。ミラも頑張ってね……」
メグのやつめ、やっと開放されるって事で、心底ホッとした顔になっているぞ。
ミラには随分と懐かれていたみたいだからな。
「じゃあ、私が最後ですね」
そう言って、レンファが居住まいを正した。
「私、来年から冒険者予備校に入るつもりです」
何を言ってるんだこいつは。
「おいおい、そんな見え透いた嘘なんてつくなっての。お前が冒険者になるなんて、笑えないぞ」
「本当ですよ? でも、入るのは生産職学科ですけどね。料理と経営学も学ぶつもりです」
マジかよ……。
この王都の冒険者予備校って、そんな事まで学べるのかよ。
あの王族にしては、ちゃんとやってるんだな。
「くそう! 結局お前達の話を見抜けなかったじゃないか!!」
「だって、テルアイラの話は嘘が分かりやすいんだよ」
「そうですよ。もう少し信憑性を持たせたらどうですか?」
「普段から嘘の事しか考えていないから、判断がつかないのですよ」
「嘘をつくにしても、もう少しもっともらしい嘘にしたらどうですか?」
こいつら、揃いも揃って……。
こうまで言われたら、私だって引き下がれない。
「よし、今度実家に帰って親孝行するわ」
ふふん、この話はどう判断するかな。
本当の話と信じれば、親孝行な娘と思われて私の株が上がる。
嘘と言われても、『私を親不孝者と言うのね』と泣き崩れれば、相手に罪悪感を植え付けられる。
もう何がやりたいのか分からなくなってきたが、とにかく完璧な作戦だ。
そう思っていた矢先だった。
泣いて出て行ったミンニエリが戻ってきたのだ。
「あのう、テルアイラさん。こちらの方がテルアイラさんに用があるらしくて……」
ミンニエリがとんでもないやつを連れて来やがった!
「久しぶりだね、姉さん。今から実家へ帰るよ」
そう言って現れたのは、我が愚妹だった。
多分続く




