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番外編 4

季節ネタです。

 今日はホワイトデーとやらの日である。

 相変わらず修正版の本編では、私達の本格的な出番はまだなので、こちらで季節ネタを取り扱う事になった。


 それはさておき。


 いつからホワイトデーとやらがこの世界に広まり出した風習なのかは分からないが、男子からのお返しがもらえる日なのだ。


 無論、私は愛しの少年からお返しをもらう予定であるので、今日は朝からこうして店の前で待機しているのだ。

 私が仁王立ちで通りに睨みを利かせていると、レンファから邪魔者扱いをされてしまった。



「いきなり酷くないか? ただ店の前で立っているだけなのに」


「それが邪魔なんですよ! テルアイラさんが変なオーラ出してるせいで、お客さんが入って来られないじゃないですか!」


「どうせ昼の営業なんて客単価も安いし、別にいいじゃないかよー」


「この穀潰し!!」


「普通そこまで言う!?」



 最近、レンファもどんどん口が悪くなってくるよな。

 まったく、誰に影響を受けたのやら


 このまま文句を言われたら敵わないので、大人しく店の奥の定位置に座った。

 すると、ミラがジト目で私の事を見てくる。


「レンファに悪影響ですから、とにかくテルアイラさんは口を閉じて黙っていてください」


「ミラ、お前も大概だよな!?」


 まったく、この店の者は私に対してのリスペクトが足りない。

 私だって夜の営業とか、ちゃんと手伝ってるんだよ?


 ……主にメグとユズリとミンニエリが頑張ってるけど。

 ちなみに、私は客のご相伴にあずかって酒を飲むのがメインの仕事だ。

 ガールズバーと考えれば、悪くはないだろう。


「何が悪くはないだろうですか。お客さんのお金で飲んだくれてるだけじゃないですか」


「お前、また私の心の声を読みやがったな!?」


「心の声が駄々洩れなだけです。むしろ普通に声に出してる事に気づいてます?」


 くそう、流石は魔王の末娘。

 恐ろしい奴だ……。


 思わず背筋が寒くなったところで、のん気にお茶してるメグ達の姿が目に入る。



「ねえ、テルアイラ。大人しく待ってられないの?」


 メグよ、愛しの少年がやって来るのに大人しく待っていられる訳がないだろう。


「テルアイラさん、もう子供じゃないんですから、そんなにソワソワしてたらバカみたいですよ?」


 ユズリ、お前は失礼にも程があるよ。

 普段とても温厚な私も、いい加減に怒るよ?


「でも、本当にどうしたのですか? いつもより顔色が悪い気がしますけど……。無理しないで、横になっていたらどうですか?」


 真面目に私の事を心配してくれるのは、ミンニエリだけだよ。

 思わず泣きそうになる。

 ちなみに、顔色が悪いのは今日が楽しみで、昨晩一睡もできなかったからだけどさ。


 そこでミラが再び失礼な事を言い出した。


「え? テルアイラさんって病気なのですか? すぐに入院してきていいですよ。そのまま帰って来なくても困りませんから」


 こいつ、いっつも私にケンカ売ってくるよな。

 一体なんの恨みがあるんだよ。

 思わず溜息の一つも吐きたくなる。



「ミラよ。客商売なんだから、もう少し他人への気配りとか大事にしろよなあ」


「それ、テルアイラさんだけには言われたくないです。そもそも気配りとか言ってますけど、私のベッドで勝手に昼寝するのやめてもらえませんか? テルアイラさんの匂いはともかく、枕がよだれ臭くなって最悪なんですけど」


「いや、お前の部屋が日当たりが良くて昼寝には最適なんだよ。だから仕方のなかった事なんだ」


「全然意味が分からないのですけど。やっぱりバカなんですか?」


 こいつ、私をバカ扱いしやがった!



「おい、みんな。ミラが私に辛く当たってくる。酷くないか?」


 しかし、メグ達の反応は冷たいものだった。



「ようやく、最近テルアイラが少しはまともになってきたと思ったのになあ……」


「どうして、そうやって人が嫌がる事を率先してやるんですか?」


「テルアイラさん、もっと大人になりましょう?」


 三人が私を責め立てる。ちょっとしたお茶目なのに。

 くそう、私に味方はいないのか!?



「それはそうとさ、この前、私の靴下を全部裏返しにしたのって、テルアイラでしょ?」


 メグのやつ、アレに気づくとは中々鋭いな……。


「あ、それ私もやられましたよ! 靴下を履こうとしたら、全部裏返しになっていて、直すのが大変だったんですらね!」


 ユズリのは、ついでのサービスだから気にしないでくれ。


「私は下着が一組無くなったのですけど、まさか、テルアイラさんじゃないですよね……?」


 ミンニエリが遠慮がちに言うと、その場の全員が私に白い目を向ける。

 おいおい、いきなりの犯人扱いかよ。

 もう少し推理しようよ。


 犯人は私だけどさ。



「失礼な。何が悲しくて、私がミンニエリのパンツを被ったりするんだよ!」


「え、そんな事をしたのですか……?」


 全員がドン引きしている。

 流石に女の私がそんなマニアックな真似をする訳が無いだろう。


「いや、使用済み下着売買の裏マーケットがあると聞いたんで、試しに例の少年に売り付けてみようと思ったんだよ。男の子だったら好きそうじゃない?」


「テルアイラさん最低です!! そういうのは自分のでやってください!! ……それで、私の下着を彼が買ったのですか?」


「いんや、固辞された」


「そ、そうですか……」


 ミンニエリがホッとした表情を浮かべる。


「だからさ、無理やり少年に押し付けてきた。すげえ困った顔してたけどな」


「やっぱり最低ですよ!!」


「うわ、怒るなって。少年も後で直接返すって言ってたし」


「余計困ります! どんな顔して下着を返してもらえばいいんですか!?」


「あいた! 叩くなって! って、メグもなんでグーで殴ってくるんだよ!? おい、ユズリもメイスを構えてどうするつもりだ!? ミラもその刃物は危ないから仕舞ってね!?」


 あわや、集団で袋叩きにされる間際でレンファの登場である。


「丁度いい所に来てくれた! 助けてくれ、レンファ! みんなが私をいじめるんだ! 早く追い出してくれ!」


「テルアイラさんが出て行ってくださーーーーい!!」



 レンファにお盆でボコボコに殴られて店を追い出された私は、当てもなく街をさまよう事になってしまった。

 ……こういうのを東方の言葉で『神も仏も無い』って言うんだっけ。




 しばらく歩いていると、狼耳のリューミアとルーミ姉妹に出会った。


「テルアイラさん、なんか凄い顔ですよ?」


「何があったのですか? 私達が相談に乗りますよ?」


 優しく声を掛けてくれた姉妹に先程の一部始終を語ると、二人が死んだ目になっている。



「いやー、それ普通に駄目ですってば。早くみなさんに謝った方がいいですよ……」


「リューミア、いきなり正論をぶつけるのは卑怯だぞ!」


「正論って……。私とお姉ちゃんは、かっこいいテルアイラさんに憧れてたのですよ。失望させないでください」


「ぐぬぬぬ……」


 ルーミからもこう言われてしまっては、立つ瀬がない。


「じゃあ、お前達も一緒に謝ってくれよう」


「えぇ……なんで私達が……」


「私達、別に関係ありませんよね?」


 こいつら、なんと薄情なのだ。

 思わず泣いちゃうぞ。



「あの、こういう事はあんまり言いたくないですけど、悪ふざけが過ぎると、彼からも嫌われますよ?」


 なんですと。


「本当は面倒見がいいのですから、もっとしっかりしてください」


 流石にここまで言われてしまったら、否が応でもしっかりせねばなるまい。

 そう思い直した時だった。



「おお! テルちゃんではないか! こんなところで、どうしたのだ?」


 往来で私の事をテルちゃんなどと呼ぶ女は一人しかいない。


「その名で呼ぶなと毎回言ってるだろうが! イリーダ!!」


「そう気にするな。今はお忍びなので、ただのイーちゃんだぞ?」


 気にするわ!

 それにどこがお忍びだっての。

 ボディラインを強調していて、深いスリットの入ったスカート姿で目立たない方がおかしい。


 姉妹が慌てて頭を下げようとするが、イリーダが手で制した。


「今は私人だ。気にしないでくれると嬉しい」


 そうは言われても、と姉妹は戸惑っている。

 まったく、はた迷惑なやつだよ。


「二人とも、こいつの事は気にするなよ。本人が言ってるんだからな」


「そうだぞ。私としては、むしろその耳と尻尾をモフらせてほしい」


 そう言いながら、抵抗できない姉妹をモフり始めた。


「ほほう、これは素晴らしきモフり具合だ!」


「あ、あの、それ以上は……!」


「ひぃ! お姉ちゃん助けて!


 二人はイリーダにされるがままである。

 それにしても、道の往来で姉妹を自由にするなんて、けしからんな……。


 決して、触り心地が良さそうでちょっと羨ましくなってたとかでは無いからな。


「どれ、私にもモフらせてくれ──」


 ベシッ!


 尻尾をモフろうとしたら、リューミアに手をはたかれた。


 仕方ない。今度は妹だ。


 ベシッ!


 耳をモフろうとしたら、ルーミに手を叩かれた。

 解せぬ。


「お前らずるいぞ、イリーダばっかりに触らせやがって!」


「だって、テルアイラさんのその手つきが、なんだかいやらしいんです」


「絶対に嫌がらせをしてくる手つきですよ、それ!」


 失礼な姉妹だな、まったく。


 そんな私をイリーダは勝ち誇った顔で見ていた。

 これで勝ったと思うなよ! こんちくしょうめ!


「それはそうと、用が無ければ帰れよ」


「むむ、私とテルちゃんの仲だろう? もっと仲よくしようじゃないか」


「私は忙しいんだよ。これから少年のお返しをもらうんだからな。まあ、どうせイリーダはもらえないだろうけどな!」


 私と少年の間には強固な絆があるのだ。

 ポッと出の王女なんかに邪魔されて堪るかっての。


「お返しって、これか?」


 イリーダがラッピングされた小袋を私に見せた。


「あ、それさっき私達ももらいましたよ」


「私とお姉ちゃんの分まで用意してくれてるなんて、意外にマメな方ですよね、あのお兄さん」


 リューミアとルーミも同じ小袋を取り出した。


「え? ちょっと待って。お前達も少年からもらったのか……?」


「ああ、先程城に訪ねてきたぞ」


「私達はそこの通りで会いましたので」


「これからレンファさんの店に行くって、言ってましたけど」


 な、なんだってーーーー!?


 こうしちゃいられない!

 急いで店に戻らなくては!



「まあ、そう急ぐな。せっかく会ったのだから、お茶でもしよう。テルちゃん」


「そうですよ。たまには私達ともゆっくりお喋りしましょうよ」


「テルアイラさん、私に魔法を教えてくれるって言ってましたよね?」


 何故か息ピッタリの三人が私を抑え込もうとする。

 こいつらなんなの!? 私に恨みでもあるのか!?


「お前ら放せよ!!」


「ふふふ。そうつれない事を言うなよ」


「少しはゆっくりしましょうよ~」


「もう放しません!」


 こいつら絶対に許さないから!

 私は三人を引きずりながらも、高速で店に舞い戻った。

 途中で言い争っている男達を殴り飛ばして仲裁し、暴走馬車を力技で止めたり、重そうな荷物を抱えている老婆を助けつつ、転んで泣いている子供をなだめて飴をあげる。

 人は追い込まれると、様々な潜在能力を発揮できるのだ。


 そうこうしながら、イリーダ達にしがみつかれたまま帰ってきた私を見て、レンファが目を丸くしている。


「テルアイラさん、そんな満身創痍でどうしたんですか?」


「そんな事はどうでもいい。少年は来ているか?」


「ええっと、お返しのクッキーをくれて、もう帰られましたけど……」


 目の前が真っ暗になった。

 今日という特別な日に、少年と会うのを楽しみにしていたのに!!


 思わず地面に膝をついて嘆いていると、イリーダがポンと私の肩に手を置いた。


「人生って、ままならないな」


 お前に言われたくねえよ、こんちくしょう!

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