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7 笑える話は難しい・後編

「それじゃあ話すからね」


 メグがそう言って深呼吸を繰り返す。

 あんまり勿体ぶってるとハードルが高くなるぞ。


「私が冒険者学校に通ってた時の話なんだけどね。食堂で食事中にある男の子と些細なことで言い争いになってしまった事があって。でも周囲の子達も私の側についてくれて言い負かす事が出来たんだ」

「メグが手を上げずに口で勝つなんて珍しいな」

「そうですね。でも何でそんな言い争いになったんですか? メグさんらしくないと言うか……」

「うーん。本当にどうでもいい事だったので正直覚えていないんだよね」


 マジかよ。本当にこいついい加減だな。

 そしてこんな奴に言い負かされた奴が可哀想だ。


「その後はどうなったのですか……?」


 レンファが期待した目でお前を見てるぞメグ。

 頼むからここでオチを決めてくれよ。


「うん、それでね。怒ったその男の子が突然立ち上がって私達に『食らえ!』って……」

「まさかそんな場所で攻撃魔法をぶっ放したのか!?」


 おいおいおい、いくら負けたからってそんな場所で攻撃魔法使うだなんて魔法使いの風上にも置けない奴だぞ。


「ううん。違うんだ。その男の子がね私達にお尻を向けておならをしたんだ。それはそれは大きな音で数秒ぐらいだったかなぁ。すごい臭かったし、あれ絶対に身が漏れてたよねぇ」


 オチを期待しながら飲んでいたお茶を噴き出してしまった。

 同様にユズリとレンファも噴き出している。

 まったく最悪だ。


「メグ! お前ふざけるなよ!! 何だよそのオチは!!」

「本当ですよ! 何てことを言うんですか!! 有り得ないですよ!」


 その手の話は私の専売特許だぞ。

 お前がしていい話ではないんだからな!


「えー。だって本当の事だよ? 周囲で食事していた人達もみんな黙っちゃってさ、あの後は凄い大変だったんだからね!」

「そんなの知るか!!」

「そんなの知りませんよ!!」


 珍しくユズリと意見が合ってしまったよ。

 でもってレンファの反応はと言うと……。

 ヤバい。完全に泣きそうになってるわ。


「一体何なんですか!! せっかく異国の素敵で面白いお話が聞けると思ったのにひどい話ばかりじゃないですか!! 期待した私がバカでしたよ!!」


 レンファが涙目で叫んでしまっている。私、知らないからなー。

 しかしひどい話ばかりって、私の話はひどくないだろうよ。


「レンファごめんね。意地悪でこんな話をしたんじゃないから許してね」

「すみません。私も気遣いが足りていませんでした……」


 メグとユズリがどうしたらいいのか分からなくなって狼狽うろたえている。

 まったく。簡単に謝るとレンファがワガママになってしまうぞ。

 まぁこの場合は仕方が無いか。


「悪かったなレンファ。お詫びに私がとっておきの話をしてやるから機嫌を直してくれ。この話は正直あまり他人に話したくない話なんだけどな」

「……本当ですか? 今度こそ信じていいんですよね? 嘘だったら宿代を倍にしますからね」

「ああ本当だ」


 宿代を倍って何なんだよ。思わず返事してしまったが、次に外したら洒落にならないぞ。


「テルアイラは本当に大丈夫かなぁ」

「宿代が倍も嫌ですけど、これ以上レンファさんに追い打ちを掛けなければいいのですが……」


 お前らそんなに不安な顔になるなよ。私を信じていれば間違いないんだからな。

 そう思いながら呼吸を整える。


「あれは私が子供の頃に住んでいた家での話だ。家の周りには自然が多くてな、毎日色々な動物がやってきたんだ。そしてある日、群れからはぐれてしまったのか弱った子ガラスを庭で見つけたのだ」

「それで……その子ガラスはどうしたのですか?」


 期待に満ちた瞳でレンファが話を促して来る。よし、掴みはOKだ。


「もちろん保護したぞ。私が世話をする事になり自室の窓際に寝床まで作ってな。カラスって賢いから手を差し出すとちゃんと乗って来るんだぞ」

「カラスって飼えるんですね。ゴミを荒らす迷惑な鳥だと思っていました」


 ユズリが感心してくれている。

 こいつはいつもこんな風に素直でいてくれればいいのにな。


「まぁ、それもまだ子ガラスだったから飼えただけかも知れないけどな。それでも賢い子だったから一緒に遊んだりして楽しい日々を過ごしたよ。でもある日、庭にカラスが何羽か来てこちらの様子をうかがっていたんだ」


「それって仲間が迎えに来たのですか……?」


 レンファが不安そうな表情をしている。

 こんなにも私の話を真面目に聞いてくれて嬉しいぞ。


「そうだ。元気になった子ガラスは仲間のカラス達と共に飛び去って行ってしまった」

「そんな……。でもその子ガラスにとっては自然に戻れた方が幸せだったのですよね……」

「そうだな。人に飼われるよりも本来あるべき姿の方が正しいと今の私は思っている。でも当時は私も幼かったから悲しくて随分と泣いたよ」

「そんな事がテルアイラにもあったんだね……」

「私、テルアイラさんの事を誤解していました」


 メグとユズリが黙り込んでしまった。

 何かこんな反応されると調子狂うな……。


「でもな、その話に後日談があって。ある日ふと子ガラスの寝床を見たら小さな白い花が一輪置いてあった。その花は私が好きだった花だったんだ。最後にお別れに来てくれたのかな、と今でも時々思い出す昔話だ。……どうだ面白かったか?」


「……はい! すごく良かったです!!」


 レンファがぶんぶんと頷いていた。

 メグも隣でぶんぶんと頷いていた。


「何ですかその話。そんなの有り得ないですよ……」


 うつむいたユズリが呟く。


「だからあまりこの話は他人にしたくなかったんだよなぁ。嘘だと思われるけど本当の話なんだ」

「誰も嘘だなんて言ってませんよ!!」


 うわ、ユズリの奴マジ泣きしてんじゃねえか。

 しかも鼻水まで垂らして……!


「こんな反応してくれたのなら私も話した甲斐があったよ」


 柄にもなく嬉しくなった私はユズリの頭をワシワシと撫でてやった。


「あのさ……、面白い話ではあったけど笑える話ではなかったよね?」


 えー。メグの奴ここでそれを言う?

 せっかくいい話風に終わったのに空気読めよこのバカ猫。


「でも私は好きですよ。テルアイラさんのお話。また今度聞かせて下さいね」


 にっこり笑うレンファが女神に見えるよ。

 よし、今度は野糞に遭遇したとっておきの話を聞かせてやるか。

 私はそう心に決めたのだった。

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