番外編
季節ネタです。
時系列とかあまり気にしないでください。
今日はこの王国で一般的に信仰されているエルファルド神の誕生祭だ。
街のあちらこちらで、きらびやかな飾り付けがされている。
少し前では厳かに祝う日だと思っていたのだが、気付いたら随分と賑やかな祭日になっていた。
この『クリスマスツリー』とやらも、一体どこから入ってきた文化なのだろうな。
それに『サンタ服』と呼ばれる衣装だ。
白で縁取られた赤い帽子やワンピース的な衣装を着ている女をよく見かける。
かく言う私もアレンジした物を着用しているのだが。
「ねえ、テルアイラ。何をたそがれてるの?」
店先のオープンテラス席で、夕暮れで家路を急ぐ通行人を見つめながら物思いに耽る私を邪魔してくれるのは、猫耳のメグナーシャだ。
アホ面であるが、こう見えても一国の王女でもあるのは未だに信じられない。
「ちょっと、サボってないで手伝ってくださいよう!」
失礼な事を言ってくるのは、タヌキ耳のユズリだ。
小柄なくせに胸が大きいのは、いつ見ても腹が立つ……って、私は狭量ではない。とても心の広い素敵な女性なのだ。
「何か悩みや心配事でもあるのですか? 私で良ければ、お聞きしますよ?」
優等生的な発言をするのは、猫耳ピンク髪のミンニエリだ。
黙っていれば、良家のお嬢様に見えるとか誰かが言っていた気がするが、こいつは蛮族と呼ばれた獣人集落の出身だ。
ちなみにピンク髪は、淫乱だと常々私は思っている。
「なに、恒例の季節ネタをやろうと思ったのだが、修正版の本編では、まだ私達は登場していないだろう? いきなり出張っても『誰だこいつら?』って事になるから、こっちでやろうと思っただけだよ」
私のメタ的発言に、お揃いのサンタ服を着た三人は意味が分から無さそうに首をかしげている。
大丈夫。私だって意味が分からない。
きっと、創造神に喋らされているのだ。
それはさておき。
私達は第二の我が家とも呼べる『月花亭』に滞在している。
年末年始を王都で過ごそうと月花亭に戻ってきたのだが、看板娘のレンファに忙しいから店を手伝ってくれと、サンタ服を着せられて店の手伝いをやらされている。
まったく、私達をこき使うなんて悪魔みたいな娘だよ!
しかも最悪な事に、目当ての愛しい少年が王都にいないのだ。
もう、なんの為に王都に戻ってきたのか意味が分からない。
ちなみにだが、以前クーデター騒ぎに巻き込まれたヴィルオン国からのお誘いもあったのだが、丁重にお断りしておいた。
どうせ国王のデインツァの奴が、他の貴族達への牽制として私を利用するつもりだったのが見え見えだったからな。
そんな私達を薄紫色の髪の少女が呼びにくる。
「みなさん、レンファさんがお仕事をお願いしたいとの事です。店の中へ戻ってください。あ、メグ姉様はそのまま休憩してもらっていいですよ。その分、テルアイラさんが働いてくれますので」
こいつはミラエリン。
毎度の事だが、私になんの恨みがあるのだろうか。
ぶっちゃけると、私達が討伐した魔王の末娘であるが、大した能力はもっていない。
そんでもって妙にメグに懐いていて、私への当たりが厳しい。
きっと私の美貌に嫉妬しているのだろう。
「そんな下らない事を考えてないで、早く店の中へ戻ってください。今夜は店が貸し切りで忙しくなりますから」
こいつ私の思考を読めるのか!?
「普通に声に出てました」
「……ふん、読唇術が使えるぐらいで調子にのるなよ」
「また声に出てますよ」
……少々お喋りが過ぎた様だな。
「それはそうと、やっぱり納得いかないんだが」
私のつぶやきにメグが首をかしげる。
「何が納得いかないの?」
「少年が王都にいない事だよ!! せっかく私が会いに来たというのに!!」
もうそれこそ、年末年始は一緒にすごそうと思ってたのに!
そんな私にユズリがジト目を向ける。
「今年は東のイヅナ国で年末年始を過ごすって、前に聞いてたじゃないですか」
「そんなの知った事か! 今夜は聖夜だぞ! まさに『性』なる夜だ! 少年とラブラブな夜を迎えるつもりだった私の気持ちを返せ!!」
駄々をこねていると、ミンニエリに取り押さえられてしまった。
くそ、地味に強くなりやがって!!
「落ち着いて下さい。彼は他の皆さんと一緒に行ったのですから、元々テルアイラさんが入り込む余地は無かったのですよ」
こいつ、なんて事を言うんだ!!
追い打ちどころか、とどめを刺しにきてるじゃないかよ!!
もう本気で泣くぞ。
すると、背後で大きなため息をつく気配がする。
「皆さん、ちっとも戻って来ないと思ったら、店先で何をやってるんですか!」
プンスカ怒っているのは、ここの店主の娘でもあるレンファだった。
そして問答無用で、手にした金属製のトレイを振りかぶって私の頭に叩き付けた。
「やっぱり、テルアイラさんが悪いのですね!!」
ひどい!
こいつこそ本物の悪魔だ!!
「お前! いきなり何をするんだよ!! パワハラで訴えるぞ!!」
「じゃあ、お店を手伝ってくださいよ! こっちだって、かき入れ時なのにテルアイラさん達の部屋を空けておいたんですからね!」
ぐぬぬ……。
これは言い返せない。この月花亭は宿屋を兼ねた食堂なのだ。
こんな年末年始で宿泊客が押し寄せる時期に、来るかどうかも分からない私達のために客室を空けておいてくれたのだ。
「くそ、分かったよ。手伝えばいいんだろ──」
そう言い返した時だった。
「お邪魔するぞ」
突然現れたのは、ボディラインが浮き出るようなワンピースタイプのサンタ服姿の長身の若い女だった。
スカートに深く入ったスリットから露わになる脚がなんとも艶めかしい。
って、女の私がこんな感想を言ってどうする! 私の方が魅力的なんだからな!
「少し早いが、先に店を確認しに来た。今夜はよろしく頼むぞ」
今日の貸し切りの客ってこいつだったのか!!
レンファとミラが女の顔を見て慌てだす。
まったく、こんな奴のために頑張らなくていいんだぞ。
「ふむ、テルちゃんはヒマそうだな。他の店員の邪魔にならない様に私に付き合ってくれないか?」
「その呼び方はやめろ!!」
「テルちゃん、可愛いと思うのだがなぁ。私の事はイーちゃんと呼んでくれてもいいと言っただろう?」
妙に私にフレンドリーに接してくる女は、この王国の第一王女のイリーダだ。
以前、本編の方でなんだかんだあって、少年の事でお互いに盛り上がってしまった仲でもある。
「絶対に呼ばないからな。というか、今日はお前が来るなんて聞いて無いぞ」
「ああ、それは偽名で予約してるからな。我が姉妹達と両親達も来店予定なので、よろしくな」
こいつはバカだろうか。
姉妹って、他の王女だろう? それに両親達って国王や王妃達だ。
そんな面子がこんな普通の店を貸し切るって、あり得ないだろう。
「たまには、庶民的な店で会食もいいだろうってな」
いよいよレンファとミラの顔色が真っ青になっている。
そんな奴に畏まらなくてもいいんだぞ。
「おお、メグナーシャではないか。今日は王女同士、よろしく頼むぞ」
「あはは。まだ私は王女って実感は無いんだけどねー」
メグの奴も、度胸が据わってるのか天然なのやら。
誰が見ても信じられないだろうが、あいつは再興したフェイミスヤ国の王女だ。
気付けば王族同士の会談になってしまっている。
そんでもって部屋の隅で小さくなっているミラは、世が世なら魔族の姫だったりする。
自分も討伐されてしまうのではないかと怯えてるが、取り越し苦労だっての。
ユズリはユズリで、『王家の方々と親しくなれば、お金と地位が……』とふざけた事を言っているし。
蛮族と呼ばれる一族と王国との和平を結ぼうと、頑張るミンニエリを少しは見習えっての。
そんな事を考えていると、イリーダが神妙な顔で私の肩にポンと手を置いた。
「実は、私や姉妹達も彼の不在に心を痛めている。今夜は飲み明かそうぞ」
ああ、こいつとは美味い酒が飲めそうだな。
こうして私とイリーダは泥酔するまで飲み続け、翌日二人して方々から怒られるのだった。




