66 エピローグ
12月25日 誤字修正等しました
戦後処理は、もう色々と大変だった。
特に臭いとか、臭いとか。
大事な事だから二回言ったぞ。
我ながらとんでもない魔法を使ったよ。
結果、男女の関係無く敵軍の全員が漏らしてしまったのだ。
……何をとは言わないが。
おかげで、デインツァ達の私を見る目が戦が始まる前と変わった気がするな。
元剣闘士の男達や獣人の少女達も、私から若干距離を取っている。
きっと、私の偉業が素晴らし過ぎて近寄り難い存在だと思っているのだろう。
もっとフレンドリーに接してくれてもいいのよ?
……あ、獣人の少女が引きつった顔で逃げてしまった。
この恥ずかしがり屋さんめ!
それにしても、敵軍の生活物資が無傷で本当に良かった。
後方の輜重兵からなる補給部隊を叩く計画でもあったが、ミンニエリの咄嗟の機転で攻城兵器のみを攻撃したのだ。
そのおかげで、漏らした奴らの着替えやらの面倒をこちらでやらなくて済んだ。
後でミンニエリには褒美を取らせよう。
何がいいかな?
とっておきの高級掛け布団を進呈してやろうかしら。
あの賭け布団を使って寝ると、夜中に布団の中綿がまるで人みたいに動いて『苦しい……助けて』って囁き声が聞こえるのだ。
前に妹に使わせたら、めちゃくちゃ文句を言われた記憶がある。
まったく、ユーモアの分からない奴だったなぁ。
それはさておき。
天幕から引きずり出した二人の男の処遇だ。
デインツァが言うには、周辺の領主であるフラル伯とアルデカッツェ辺境伯で今回の首謀者らしい。
口汚く喚く二人は、そのまま何処かへ連れていかれたのだが、どうなったかは私は知らない。
デインツァ達も話す事は無かったし、わざわざ聞きたいとも思わなかった。
その後、敵軍は武装解除をされて一時的にこちらで面倒を見る事になった。
もっとも全員ではなく、一部の将校のみだ。
兵士の多くは徴兵された平民が多かったので、貴重な働き手である彼等は自由にしてやった。
彼等も自分達の故郷に帰れば家族もいるだろうし、仕事もある。
そもそも全員の面倒なんて見てられない。
実質的な捕虜である将校は、大部分が貴族なので『無事に返してやる代わりに金を払え』と彼等の家族に通達したらしい。
向こうには金銭的ダメージを与えて弱体化できるし、こちらは財政の足しになると四獣侯爵の連中が喜んでいた。
そして首都には戦の被害が無かったので、クーデター騒ぎの復興も順調に進んでいた。
先の戦いは他の領主達も注視していたらしく、戦いの結果を知って攻め込むのを諦めたのか、今のところ大人しくしているみたいだ。
そんな風にバタバタしていたのがようやく落ち着いた頃、レイデンシア王国からの使者が狙った様なタイミングで首都に到着したのだった。
◆◆◆
「よお、姐さん。生きていたか」
ニヤリと笑うネズミ獣人の男は、いつぞやの王都の裏通りの酒場で会ったトルゲだ。
「まさか、お前が使者の代表とは笑えない冗談だな」
「そう言うなって。いつ暗殺されるかもしれない国への使者なんて、まともな奴じゃ務まらんよ」
「ははは。そうだな」
「ひひひ。そう言うこった」
笑い合う私達をデインツァが渋面で見ている。
仲間外れにされて、いじけているのだろうか。可愛い奴め。
「暫定であるが、俺が国王だ。隣国の使者を暗殺なんてふざけた真似はしないぞ」
「ひひひ。そう願いたいね」
トルゲが人を食った様な笑い方をする。しかし、目は笑っていない。
こりゃあ、戦後交渉は苦労するだろうなあ。頑張れデインツァ。
そんなこんなで、あちこち荒れている城内にて密談まがいの会談が始まる。
私はデインツァに同席を頼まれたが、そこまでしてやる義理はない。
あくまでも、王国側とヴィルオンの戦後交渉だ。
ノスダイオとやらが引き起こした戦いの事に私が口を出すのは、なんだか違う気がする。
その辺は四獣侯爵達が上手くフォローするだろう。
むしろ、してもらわなければこの国は内戦に突入するだろう。
一仕事終えた私にメグがジト目を向けてくる。
「なんだメグ? 何か言いたそうな顔して」
「ううん、別に。ただ、フェイミスヤの事はどうなるんだろうなって……」
「さあな? それはヴィルオン側の問題だろ」
「何それ!? ちょっと無責任じゃない?」
「無責任も何も、元はお前側の問題だろ? そこまで私を頼るな。私はお前の母親じゃないんだぞ」
少し可哀想だが、最近メグ達が私に依存し過ぎている気がするのだ。
このままでは成長しないので、心を鬼にして突き放す事にした。
メグはまだ何か言いたそうだったが、そのまま黙り込んだ。
そんな娘の姿をガーランドの旦那が銀魔狼と一緒に見守っている。
流石に本気で私に国の再興の事までは押し付ける気は無いみたいで助かったよ。
フェイミスヤの解放をデインツァと約束したのだ。
後はあいつら次第だろ。
私はそのままユズリとミンニエリの元へ向かう。
「おう、そっちはどうだ?」
「あ、テルアイラさん。こちらは荷造り等の準備はあらかた終わってますよ」
ユズリがテキパキと報告してくれる。
意外と事務方の作業が得意みたいなので、面倒な調整とかは任せてしまっている。
というか、もっと早くから頼っていれば良かったな。
私も自分に頼るなと言いつつ、こいつらの事をちゃんと信用していなかったのだろう。そこは反省だ。
「ミンニエリの方はどうだ?」
「はい。私達が暮らす北の森への仮移住を希望する人達の旅支度も終わっています」
クーデター時に首都で開放した獣人奴隷のほとんどが、ミンニエリやガーランドの旦那が暮らす集落へ一時的な移住を希望している。
彼等はその後、解放したフェイミスヤの開拓民となる予定だ。
もっとも、現在のフェイミスヤの土地に暮らす人々達の扱いをどうするのかが問題になってくるので、今後の交渉の課題でもある。
ちなみにだが、首都の復興を手伝ったおかげでヴィルオンの首都住民達も元奴隷の獣人達と打ち解けていた。
中には情が湧いたのか、首都に残って復興を手伝うと言った元剣闘士の姿もあった。
その隣には住民の娘が寄り添っている。
末永く幸せに爆発しろよ!!
それから数日後。
王国とヴィルオン国との最初の会談が終わり、トルゲ達使者の護衛を兼ねて私達はヴィルオンの首都を発つ事にした。
……獣人収容施設で犠牲になった少女の亡骸も一緒にだ。
デインツァを始め、四獣侯爵達や先の戦いで一緒に戦った兵達が見送りに集まっている。
「テルアイラ達には本当に世話になったな」
「本当だよ。どれだけ世話してやったんだか」
「正直に言うと、お前にはこの国に残って欲しかったのだがな」
「え? もしかして、私へのプロポーズ? ごめんなさい。私には心に決めた人がいるの……」
「いや、普通に参謀として残って欲しかったのだが。そもそもテルアイラは俺のタイプではない」
ちょっと! 真面目に返すのはやめて!
こっちがみじめになるでしょうが!!
「まあ、冗談はさておき。まだ非公式の話だが、王国で各国の要人が集まる国際交流会議とやらが計画されているらしい。そこでまた会えたらいいな」
冗談かよ!
ちょっと期待しちゃったじゃないかよ!
「そうだな。その頃にはフェイミスヤの事を含めて、いい報告が聞ける事を期待してるから」
「……ぜ、善処する」
そうして私達はヴィルオンの首都を発ち、王国へと向かった。
ちょっとした隊商みたいな規模だが、人数の半分以上が護衛なので盗賊や魔獣が襲ってきても問題は無いだろう。
私達は王国への報告もあるので、ガーランドの旦那達とは途中で別れる予定だ。
そうそう。後で約束の霊薬のレシピを聞き出しておかないとな。
私が御者をする馬車の荷台の上で寝転がっていたメグが、突然頭を抱えてうずくまった。
いきなりどうしたんだ?
「王都に帰ったら、ミラがいるんだっけ……。どうしよう」
そんなメグをユズリがジト目で見つめる。
「どうするも何も、ミラさんはメグさんに懐いてるのですから、メグさんがちゃんと責任を取ればいいじゃないですか」
「ユズリ、他人事みたいに言わないでよう。顔を合わせた途端に抱きつかれると思うと気が重いよう……」
「じゃあ、『実はミラの事が嫌いだから私に構わないで』と言ってあげればいいじゃないですか」
「言える訳ないじゃない!? もっと親身になって相談に乗ってよう!」
「知りませんよ。自業自得じゃないですか」
そんな不毛な会話を聞いていると、隣に座るミンニエリが話し掛けてくる。
「ねえ、テルアイラさん」
「なんだ?」
「実はですね、私の集落の近くに『悪魔が住む森』という魔素が濃い場所があって、そこの空間だけ時間の進み方がおかしい場所があるのですよ」
「……はあ。それで?」
「不気味なので、調べてくれません?」
「お前さあ、そういうのを簡単に言うのやめてくれない? 私をなんだと思ってるんだ?」
「だって、テルアイラさんは強くて頼りになる人ですから」
こんちくしょう!
そんな眩しい笑顔で言われたら断れないじゃないかよ!
もういい加減に色々疲れたので真面目に生きていきたいんだよ。
……嘘です。本当はグダグダです。
「分かったよ! 王国への報告が済んだらその森へ行ってやるよ! メグとユズリもいいな?」
「りょーかい!」
「分かりました!」
こうして私達の冒険は幕を下ろしたが、これからもきっとまだまだ色々な事が私達を待ち受けているのだろう。
そんな期待と予感を胸に、レンファが待つ第二の我が家へと急ぐのだった。
今回で完結となります。
読んでくださった方、ありがとうございました。




