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64 テルアイラ、まだか!?

 続いて第二陣、三陣と騎馬隊が面白いぐらいに仕掛けられた地雷によって次々に吹き飛んでいる。

 あれだ。馬は急には止まれないってやつだろう。

 仮に止まれても後ろから次々と突っ込んで来るので、安易に止まるのも自殺行為なのかもしれない。


 それにしても、爆薬の威力が強くない? 気のせい?

 阿鼻叫喚の光景になってる気がするんだけど……。

 犠牲になった馬達よ、申し訳ない。



「なんだ、向こうはまったく指揮が取れていないじゃないか。よし! 罠を抜けた騎兵を射抜け!!」


 緒戦に気を良くしたデインツァが弓兵に指示を飛ばす。

 こちらとしては、攻め込まずに迎え撃つのが鉄則である。

 時々攻め入る振りをして、向こうが反撃してきたら後退して地雷原に誘い込む。

 その途中で塹壕ざんごうに隠れた狙撃隊が敵側の士官を射抜く。

 デインツァの元に残った兵に優秀な者が多かったおかげで、上手く統制も取れていた。


 その間にも、隠密行動が得意な獣人少女の偵察部隊から戦況が伝えられる。


「レーレル隊、被害無し! スワナ隊、被害微小!」


 圧倒的に少ない兵で上手くやっている。

 だが、地雷も無限では無い。倒れた兵を踏み越えて敵兵が押し寄せる。

 まともにやり合ったら、こちらはあっという間に潰されてしまう。

 しかも向こうには、魔法を使う魔術兵団の存在があった。


 こちらの兵が後退した途端に火球が撃ち込まれるのが見えた。

 怯む友軍に敵兵の追撃隊が次々と襲い掛かる。

 塹壕を利用しつつ敵を迎撃していたが、ついには魔術兵団の魔法攻撃によって塹壕に火炎弾が撃ち込まれ、火柱が上がった。

 火だるまになった友軍の兵士達が次々に敵兵に斬られて倒れていく。


 ……すまない、みんな。


「ヒビスリ隊、被害甚大!! ユーキル隊、壊滅!! ハンザック隊から救援要請です!!」


 多勢に無勢で押され始めてきた。このままでは陣形が一気に瓦解してしまう。

 敵を引き付けるのはここまでだ。

 デインツァに目で合図を送ると、迎撃隊と陽動隊退却の狼煙のろしを上げる。


 同時に上空を旋回していた三騎のグリフォンが急降下していく。

 それを合図に左右の陣形から咆哮が上がる。ガーランドの旦那率いる獣人部隊だ。

 頼むぞ、メグ達と獣人部隊!



  ◆◆◆



 合図の狼煙が上がったのが見えた。

 私がテルアイラに任されたのは上空からの奇襲。


 ユズリとミンニエリも一緒にグリフォン型のゴーレムに騎乗して上空で待機している。

 眼下で味方が押されているのを見て、何度助けに行こうかと我慢したか分からない。

 ユズリとミンニエリが飛び出しそうになるのを何度も抑えていたので、私も我慢した。


 ついに我慢の限界と思った時に味方の兵の撤退合図の狼煙が上がった。

 みんなが敵兵を上手く引き付ける役割を果たしてくれたんだ。

 次は私達が頑張らないと!


「ユズリ、ミンニエリ、私達も行くよ!」


「はい! ミンニエリさんは大丈夫ですか?」


「な、なんとか大丈夫です、ユズリさん」


「あはは。ミンニエリはいい筋してるよ。ほとんど練習無しでグリフォン型ゴーレムを乗りこなしてるんだから」


 テルアイラがいきなりミンニエリに『これに乗れ』と押し付けた物だから、ちょっと可哀想だったよ。


「うう、メグさん、笑い事じゃないですよう……」


「二人は敵の補給部隊? そういうのを狙うんだよね。私はあの魔法使いの集団をまず叩いてくるよ。じゃあ、おっ先にーーーー!!」


 二人の返事を待たずに私は一気に急降下する。それと同時にお父さん達の部隊も動き出したのが見える。


 さて、炎の魔法を使うのは厄介そうだね。うかうかしていると私まで撃ち落されてしまうかもしれない。


 そこでこの秘密兵器。剣闘士のおじさんがくれた物だ。

 この袋に入っているのは『爆弾』というものらしい。夜中にせっせと地面に埋め込んだ『地雷』と何が違うのだろう?


 『いいか、絶対に落としたりして衝撃を与えるなよ? 絶対だからな? 本当にだぞ?』


 そんなに念を押されると、ついやりたくなってしまうけど物凄く我慢したよ。

 そして、その我慢もここでおさらば。

 私は魔法使いの集団に上から袋を落とした。


 袋が地面に落ちた直後、耳をつんざく様な大きな音がしてみんな吹き飛んでしまった。

 危うく私も巻き込まれるところだったよ。

 あははは……笑い事じゃないけど、変な笑いしか出ない。


 もう後は暴れるだけだ。

 他のみんなも頑張ってね!!



   ◆◆◆



 敵軍の魔術兵団が吹き飛んだのが見えた。

 どうやらメグが爆薬を上空からピンポイントで落としたのだろう。あいつも中々にえげつない事をするな。

 そうこうしているうちに、こちらの本陣に向かってきていた敵の大軍の足並みが崩れ始めた。


 味方の兵達が体を張って引き付けた敵兵に、ガーランドの旦那達と銀魔狼を筆頭とする魔狼の群れが突っ込んで暴れているみたいだ。


 案外このまま勝てるんじゃないか?


 だが、現実はそう甘くない。圧倒的な戦力差だ。徐々にこちらの勢いが衰えてきた。

 大規模魔法の詠唱を続けつつ、遠目の魔法を使う。

 自慢じゃないが、同時に複数の魔法を使える者は私以外にそうそういないだろう。


 尻尾が二股になっているメグが孤軍奮闘しているのが見える。

 頼むから、引き際を見誤るなよ。


 その直後、敵軍のはるか向こうで煙が上がった。



  ◆◆◆



 ユズリです。ミンニエリさんと一緒に敵の後方部隊へ向かっています。

 私もグリフォン型ゴーレムの騎乗は得意ではありませんが、ミンニエリさんよりは乗りこなせてるはず。

 慣れない彼女をフォローしつつ、台車やら大きな荷物を運んでいる人達が集まっているのを発見しました。

 可哀想ですが、あの人達には消えてもらいますね。


 剣闘士の方から渡された『爆弾』という物を投下する準備をしていると、ミンニエリさんが呼び掛けてきました。


「あ、あの! ちょっと待ってください!!」


「どうしました?」


「物資に攻撃するのは良くないと思います」


「……? 私達の任務はそれが目的ですよね?」


 ミンニエリさんの言いたい事がよく分かりません。


「い、いえ。食料とかの生活物資を狙うのは問題があると思うのですよ。考えてみてください。テルアイラさんが殺さずにこの大軍を無力化するとおっしゃっていましたよね」


「そうですね」


「仮にその無力化した大軍を受け入れるとして、デインツァさん達が面倒を見る事が可能でしょうか。ただでさえ街の復興の最中なのに、この人達に食料まで提供する余裕はあるのでしょうか?」


 ……まったくそんな事まで考慮していませんでした。

 私は自分で頭脳派だと思っていましたが、ただの思い上がりです。

 ここで食料等を失った兵士達が、どんな行動をするかを想像したら恐ろしくなりました。

 飢えた兵士達が近隣の村々や街に襲い掛かるのが容易に目に浮かびます。


「じゃあ、私達は何を狙えばいいのでしょうか……」


「そうですね……。あそこの攻城兵器みたいなのはどうでしょう?」


 ミンニエリさんが指差す先には物々しい大型兵器の数々。最終的にこれで城を攻める気だったのでしょうか。

 よく見ると、予備の武具等や土木作業のための機材も満載している台車もあります。


 丁度いいねです。取り敢えず物騒なこっちをやっちゃいましょう!

 それから補給部隊の人達を私達で無力化すればいいと思います。


 私はミンニエリさんと頷き合うと、『爆弾』の入った袋を投げ落とす準備をするのでした。



  ◆◆◆



 ユズリとミンニエリが敵の後方部隊である輜重しちょう兵を叩いたみたいだな!

 これで敵の兵站へいたんは機能しなくなるはずだ。

 補給が出来ないという事は、向こうに取って長期戦が不利という事だ。

 これは敵側に心理的大ダメージである。


 それに気付いたいくつかの敵部隊が浮足立つ。

 そこへ剣闘士達が斬りかかる。

 どうやら、敵部隊も寄せ集め的らしく統率が上手く取れていないみたいだ。

 狙撃隊が敵士官を優先的に狙ったのも大きい。


 そうこうしているうちに、新たに指揮する者が送り込まれたのか敵軍の動きに統率が取れてきた。

 こちらも圧倒的な戦力差でよくやってくれてるが、体力は無限ではない。


「テルアイラ、まだか!?」


 切羽詰まった表情のデインツァが叫ぶ。

 分かってるって! こっちも頑張ってるんだから!


 剣闘士の何人かが力尽きて倒れるのが目に入る。

 魔狼の群れも数を減らしていた。


 くそ! あともう少しだってのに!!


「お前ら気張れ! テルアイラの詠唱が終わるまで俺達が食い止めるぞ!!」


 ガーランドの旦那が叫びながら銀魔狼とともに剣闘士達と戦場を駆け抜ける。

 メグやユズリにミンニエリも戦っている。

 満身創痍の味方の兵達も再び立ち上がった。

 獣人の少女達までもが武器を手に取って敵に立ち向かっている。


「テルアイラ。俺達も出るからな。後を頼んだぞ」


 デインツァと四獣侯爵が戦場を見下ろす小山を下って行く。

 彼等は既に近くまで攻め込んでいた敵兵と切り結び始めている。


 あと少し、あと少しだ!!

 ひたすら集中して一世一代の大魔法の術式を組み上げる。


 ————準備は整った!!


 すぐに待機していた伝令兵に向かって頷き、全軍撤退の狼煙を上げてもらう。


 さあ、私とっておきの大魔法を味わうがよい!!

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