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62 お前達、私に命を預けてくれるか?

 怪光線により尖塔が崩壊してしまった城に主だった面子が集まって作戦会議を始める。

 まずは、こちらの戦力の確認だ。


「デインツァ。兵の士気はどうなっているんだ?」


「正直、高くは無いな。逃げ出さないだけマシと思ってくれ」


 そりゃそうだな。

 デインツァの後ろに控えている士官達が申し訳無さそうな顔をしている。


 評判の悪かったゼルドレンとやらが失脚したが、街は滅茶苦茶になってしまった。

 その上、ノスダイオの獣人兵化計画により正規兵の規模が縮小されいていて、今は最低限の兵力しか残っていない。

 しかも、その大半は予備役の兵だ。それでやっと二千に届くかだ。

 練度に関しても、あまり期待は出来なさそうだな。


 一方、こちらはガーランドの旦那を始め、銀魔狼を筆頭した魔狼の群れに元剣闘奴隷の剣闘士の男達が約三十名。

 メグにユズリ、ミンニエリがいるとしても相手は六千だ。

 これでまともにぶつかり合ってどうなるかは、子供でも分かるだろう。


「ふふ、ふふふ……思いっきり暴れられるんだね」


 メグの尻尾が二股に分かれ、瞳が肉食獣のそれになっている。

 やる気満々なのは分かるが、私の指示に従ってもらわないと困るぞ。


 それと無いとは思いたいが、お前も一応は女なのだから捕虜になった時の心配もするべきだぞう。

 そちらはユズリとミンニエリにも言えるのだが。


「私ですか? いざとなったら神の御力で自爆でもして周囲を道連れにしますよ」


「私は自分の首ぐらい掻き切る覚悟はあります」


 ……愚問だったな。万が一にも、そうならない様にするのが私の役目だ。


「まったく、テルアイラも心配し過ぎだって。私達は魔王も倒したパーティーなんだよ?」


「そうですよ。魔王配下の軍勢と四天王との戦いと比べたら六千なんて余裕ですって!」


 メグとユズリも無茶言うなよ。悔しいけど、あれは勇者が一緒にいたから可能な戦いだったんだよ。

 ……主に勇者を盾代わりにしながら進撃したんだけどな。


「えぇ!? テルアイラさん達が魔王を倒したのですか!?」


 ミンニエリが素っ頓狂な声を上げる。


「あれ? ミンニエリに言ってなかったっけか?」


「聞いてませんよ!!」


「まあ、今はそんなのどうでもいいな」


「良くないですよ!! 大事な事ですよ!?」


「ミンニエリも細かい事を気にする奴だなぁ。それで、デインツァ達は何をそんなに期待した目をしてるんだ?」


 士官達はともかく四獣侯爵に至っては、まるで私を崇拝しているみたいだ。

 拝んだって、なにも出てこないぞ。


「テルアイラ達があの魔王を倒しただと……!? これが本当なら、俺達は助かるぞ!!」


「やはり神が遣わされた存在であった!」

「我が軍の士気も爆上げだな!」

「これで勝ったも同然!」

「ヴィルオン万歳である……ぐう……すぴー」


 お、おう……。

 いきなりの全期待である。


「エルフのお嬢さん、頼んだぞ?」


「いや、ガーランドの旦那、アンタもちゃんと手伝えよ」


 仕方ない。真面目に考えるか。

 今回は防衛戦である。現状、援軍は期待出来ない。

 むしろ弱味を見せたら、四方八方から攻め込まれるかもしれない。


 まず、敗北時の事を考えよう。

 負けたらデインツァ達含めての全滅エンドだ。

 仮に逃げ延びる事が出来ても、フェイミスヤの土地の奪還が益々困難になるだろう。

 ヴィルオン首都の住人は殺されないだろうが、残っている獣人達は殺されるか、奴隷に後戻りだ。

 特に獣人の少女達は悲惨な目に遭う可能性が大である。

 これについては、なんとしてでも避けたい。


「おい、デインツァ。攻めて来るフラル伯とやらの軍勢はいつ頃こちらに来るんだ?」


「早馬の伝令経由の情報だが、二日ないし三日と言ったところだろうか」


 まだ幾許いくばくかの猶予はあるって事か。


「なあ、ガーランドの旦那、獣人の少女達だけでも国外に逃す事は出来ないか?」


「それは構わんが、護衛にそれなりの人数が必要だな」


 ですよねー。

 今は一人でも戦力が欲しい。悩ましいところだ。


「待て、テルアイラ。恐らく国境へ続く街道は、諸侯達によって既に封鎖されているはずだ」


「デインツァ、それはどういう事だ?」


「他国からの介入を避けるのと国内からの逃亡を防ぐためだよ。獣人の少女達の集団は目立つので、すぐに見付かるだろうな。剣闘士達ならまだしも、少女達では包囲網の突破は難しいだろう。仮に少人数で行動してもその分の護衛が必要になるだろうし、今度は盗賊や人買いに目を付けられる」


 おいおい、それじゃ八方塞がりかよ。

 思わず天井を仰いだ時だった。


「私達の事は気にしないでください! 残って戦う覚悟は出来ています!!」


 獣人収容施設で助けたひょう耳の少女が叫んでいた。

 確か、ベイルとかいう名前だったな。

 そのベイルの他にも十数人の少女達が並んでいる。

 勇ましい事を言っているが、皆足元が震えているのが分かってしまう。


「……いや、お前達を危険にさらす訳にはいかない。避難経路を考えるから脱出してくれ」


「ダメです! 私達が逃げれば、護衛のために戦力が割かれてしまいます!! 今は一人でも戦力が必要なのでしょう?」


 参ったな……。思いっきり図星だよ。


「テルアイラの姐御あねご。俺の娘が、ああまで言ってるんだ。どうか好きにさせてやってくれませんかね?」


 ベイルの父親か。

 可愛らしい娘と厳つい父親とでは、どう比べて見ても血が繋がっている様には見えない。

 他の剣闘士の男達も口々に本人達の自由にさせろと言い出した。

 そんな無責任な事を言うなよなぁ。


「ねえ、テルアイラ。あの子達も覚悟を決めたんだよ?」


「そうですよ。彼女達の意見も尊重しないといけませんよ」


「テルアイラさん、私の集落の子達も残って戦うと言っています。どうかお願いします!」


 メグとユズリにミンニエリも好き勝手言ってくれるな。


「エルフのお嬢さんよ。要は、俺達が負けなければいいだけの話だろう?」


 ガーランドの旦那が一番無責任な事を言いやがる。


 ……ここで私がウジウジしていても仕方ない。


 私だって、生き延びて愛しの少年とラブラブデートがしたいんだよ!

 そうだよ。なんでこんなクソつまらない事で悩んでいるんだ?

 とっとと勝負を決めればいいんだよな。


「分かった。お前達、私に命を預けてくれるか?」


 全員が『愚問だ』と言いたげな表情で頷いてくれた。

 私は自分の両頬を思いっきり叩いて気合いを入れ直す。


「よし、まずは勝利条件を確認しよう。第一は相手の戦力の無力化だな」


「だったら、テルアイラの広範囲魔法で消滅させるのが手っ取り早いんじゃない?」


「メグ、私に大量虐殺の罪を背負わせるのか?」


「それは分かるけどさ、そんな甘い事を言っていたら生き残れないよ? それにここで食い止めないと、私達獣人が皆殺しにされるかもしれないんだよ?」


 ぐぬぬ……。メグのくせに正論過ぎて反論できない。


「テルアイラさん。私も聖職者の端くれです。本来なら止めなくてはいけない立場ですが、テルアイラさんと同じ罪を私も一生背負うつもりです」


 ユズリ、いきなり殊勝な事を言うなよう。

 思わず泣きそうになっただろう。


「私達はテルアイラさんに随分と助けられました。あなたが地獄へと落とされるというなら、私達もお供します!」


 ミンニエリに続いて彼女と同郷の獣人の子達までもが、真剣な表情で私に訴えかける。


 ガーランドの旦那は……私が決めろって顔をしてるな。

 仕方ない。いい加減に覚悟を決めるか。


「お前達の気持ちは分かった。だが、その規模の広範囲魔法が撃てるのは一度きりだ。失敗したらそれまでだぞ」


 全員が頷く。


「それとだ。私は出来るだけ殺したくない。デインツァだって、同胞を殺したい訳では無いだろう?」


「それはそうだが、やらないとこちらが逆にやられるのではないか?」


「そこでだ。なんとか魔法の威力を抑えて相手の軍勢を無力化させようと思う。非常に難易度が高い詠唱になるので、その時間稼ぎをお前達に任せたい。やってもらえるか?」


「任せて!」


 メグ、いつになくいい笑顔だな。


「テルアイラさん、私を誰だと思ってるんですか? 最高のサポートをしますよ」


 本当に何様なんだが、頼りにしてるぞユズリ。


「テルアイラさんは、私が命を懸けてお守りします!!」


 頼もしいぞ、ミンニエリ。

 剣闘士の男達も気勢を上げている。

 これは私も負けてはいられないな。


「作戦の前にもう一つ大事な事がある。第二の勝利条件だ」


 静まった全員が私に注目する。

 そんな熱い視線で見つめるなよう。恥ずかしいだろう。

 ……冗談はさておき。


「敵を打ち倒すだけでは勝利にならない。恐らく他の勢力が疲弊した私達を狙って攻め込んでくるだろうな」


「じゃあ、どうするの?」


「落ち着け、メグ。まずはフラル伯とやらを退ける。圧倒的な力を見せ付ければ、周辺の勢力はしばらく行動を控えるだろう。その間にレイデンシア王国とデインツァが交渉を始めるのだ」


「俺が王国との交渉に?」


「ああ。タイミングよく王国から使者がこちらに向かっているらしい。恐らくノスダイオの侵攻の件だろうな。デインツァが王国と交渉を始めれば、王国側がデインツァをヴィルオンの国王だと認めた事になる。そうすれば、周辺の諸侯はおいそれと手が出せなくなるだろう。既成事実さえ作ってしまえばこちらの物だ」


「ノスダイオの侵攻の件って、俺には関係無いんだが……」


「諦めろ。お前は国王だろう。そしてフェイミスヤの土地の事を忘れるなよ?」


 ここまで尻ぬぐいしてやってるんだ。今更泣き言なんて言ってるんじゃないよ。

 それとユズリ、せこい考えだとか言ってるんじゃない!


「さて、ここからが本番だ。私が考案した作戦を説明するぞー」


 会議用のテーブルにヴィルオン国の地図を広げると、みんなが覗き込んだ。

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