61 それを私達のせいにするのかよ!?
ヴィルオン国の首都復興が本格的に始まった。
半壊程度の建物なら、そのままに店舗を再開したりと人々は逞しく生活している。
城などから備蓄していた食料等も放出されているので、当面の食糧は何とかなるみたいだ。
色々と確執のあった獣人達も率先して復興作業に加わっているので、表面上はヴィルオン国の民と仲良くやっている様に見える。
復興に取り掛かってから数日後、私の使い魔である三本足のカラスが帰って来た。
「お疲れさん。無事にマリアの所に辿り着けたか?」
使い魔がカアと一声鳴いた。
王都にいる後輩のマリアの元へ向かわせたのだが、ちゃんと私の手紙を渡す事が出来たみたいだ。
まあ、今となっては全てが古い情報になってしまったのだが。
その返信が使い魔の脚に括りつけてある。
早速その返信の手紙を広げて読んでみる。
その書かれていた内容に一瞬気が遠くなってしまった。
ノスダイオとやらが、レイデンシア王国の国境警備隊を壊滅させ、竜牙族と呼ばれる種族が住む集落に攻め込んで暴れたらしい。
何故そこに攻め込んだかまでは記されてなかったのだが、王都から駆け付けた冒険者グループと警備隊の残存兵、それに竜牙族が力を合わせてノスダイオを打ち倒したと手紙には記されてあった。
どうやら、あの怪光線や謎の光の柱はノスダイオと戦った時の物らしいが、一体どんな戦いであったのだろうか。
そんな戦いをした王都の冒険者グループとやらも気になるところだ。
王都の冒険者ギルドには、そこまで強い冒険者なんていなかったと思うのだが……。
他には、レイデンシア王国から使者が派遣されると記されていた。
王国の使者が到着するには、まだ数日以上は掛かるだろうな。
手紙の内容をメグ達にも伝えてやり、ついでに復興現場で陣頭指揮を執っているデインツァに報告してやった。
「ノスダイオがそんな事をしでかしていたとは……」
流石にデインツァも絶句してしまっている。
「改めて聞くが、ノスダイオって何者なんだ? 邪法に手を染めた魔術師か何かなのか?」
「いや、俺も詳しくは知らないんだ。ある日、忽然と現れたと聞いている。奴は失われた古代魔法王国の技術を次々とよみがえらせ、ゼルドレンに取り入ったみたいだ」
「そんで、ゼルドレンとやらが、お前の父親を殺して王の座を奪ったって事か」
「父上だけではない。母上や兄に姉達もみんな殺された……」
同情はするが、身内を皆殺しにされた者は他にも大勢いるはずだ。
不幸なのはこいつだけではない。
「……それは大変だったな。それで、お前はどうやって生き延びたんだ?」
「俺は末子というのもあってか、普段は父上の側近に預けられて暮らしていたんだ。今思うと、父上も何か予感めいた物を感じて俺を遠ざけていたのかもしれないな」
色々な偶然が重なって、今こうしているって事か。
そんな話をしていると、ディンツァの取り巻きの四獣侯爵達が慌てた顔で駆け込んできた。
この四獣侯爵だが、先祖がそれぞれ四人の獣人で初代国王を補佐していた事から四獣侯爵と名乗っているらしい。
もっとも、時代が下った今では血も薄れて普通の人間種になっているが。
獣人が建国時に活躍したというのに、獣人差別の激しい国になっていたのはとんだ皮肉だよな。
「お前達か。血相を変えてどうしたのだ?」
「まずい事になりました。フラル伯が首都へ向けて挙兵したとの情報が!」
「どうやら、この混乱に乗じて復興の援助という名目で王権を奪取するつもりらしいですぞ!」
「フラル伯の兵は約六千。反面こちらは予備役の兵をかき集めても二千がやっとだ!」
「大ピンチである……ぐう……すぴー」
おいおい。クーデターに次いでまたクーデターって事か?
だとしたら、約束していたフェイミスヤの土地はどうなるんだよ。
それにしても、首都を守る兵が二千に満たないだと?
あまりにも脆弱じゃないか?
それと、これだけは言わせてくれ。
なんで走りながら寝られるんだ!?
「くそ、ノスダイオの獣人兵化計画で正規兵の規模を縮小されていたのが裏目に出てしまったな。それにテルアイラ達に近衛騎士団や宮廷魔導師達が壊滅させられてしまったのも痛い」
「うわ! それを私達のせいにするのかよ!? そもそもあんな奴らがいても焼け石に水だろ!」
「冗談だよ。仮に近衛騎士団や宮廷魔導師達が無傷で残っていても、今の俺に従うか分からんしな」
「それでどうするんだ? 他に味方してくれる勢力はいるのか?」
フラル伯とやらは、領主の一人だろう。
他にも領主はいるはずだ。そいつらの動きが気になるところだ。
そいつらが手を組んでデインツァを排除するつもりなら、かなり厄介な話になるぞ。
「……正直、諸侯達が今の俺を王として認めてくれるかは分からん」
ですよねー。
いくら先王の子と言えど、正式に王位が継承された訳では無い。
現王を排除しての暫定王なのだから、デインツァを排除する勢力が現れないとは限らない。
「現在、明確に動きを見せているのはフラル伯だけであります」
「恐らく、他の諸侯は様子見でしょうな」
「デインツァ様とフラル伯の戦いの結果を見て動き出すかと」
「日和見共が多いのである……ぐう……すぴー」
まあ、誰だって負け戦には参加したくないよな。
「それはそうとさ、フェイミスヤの件はどうなるんだよ?」
「ここで俺が打ち負かされては、フェイミスヤの土地どころではなくなるな」
「あ、汚いぞ!! 約束を反故にするのか!?」
「仕方ないだろう。俺が倒れたら、次の王がテルアイラ達と交渉の席に着くかどうかも分からないのだしな」
くそ、こいつ開き直りやがったな!
「そこは不幸中の幸いと言うべきなのか、フェイミスヤを統治しているアルデカッツェ辺境伯は今のところ動きを見せていませんぞ」
「ここは何卒、テルアイラ殿達のお力を貸していただきたい」
「この首都に攻め込まれたら、解放した獣人達も殺されるか再度、奴隷になるでしょうな」
「他の領主達が交渉に応じる可能性は、限りなくゼロに近いのである……ぐう……すぴー」
「……まさかとは思うけどさ、私達にフラル伯とやらを迎え撃てと?」
四獣侯爵達が笑顔で頷きやがったよ。
流石にムカついたので、取り敢えず全員一発ずつ殴ってやった。
「ふふ、中々いいパンチをしているな。これなら俺も心強い。テルアイラがフラル伯を退けてくれれば、他の諸侯達も怯えて引き下がるに違いな——」
ついでにデインツァも殴り飛ばしてやった。
ああもう! ここでデインツァ陣営が負けたら、私達の苦労が水の泡になるじゃないか!!
三倍近い戦力差なんて、どうすりゃいいんだよ!?
仕方ない。取り敢えずメグ達に相談してみるか。
そんなこんなで、拠点にしている元収容施設に向かう事にした。
「……という事で、私はどうしたらいいのだろう」
「いきなりどうしたらいいって言われても分からないよ、テルアイラ」
まったく、メグの奴は使えないな。
こんな時こそ、空気を読んで妙案ぐらい出してくれたっていいじゃないか。
「相手方と交渉は出来ないのですか?」
そんなのが出来りゃ苦労は無いぞ、ユズリ。
「仮にデインツァさん側が負けたら、私達はどうなるのでしょうか……」
ミンニエリよ、その時は仲良く殺されるか奴隷にされるかだぞ。
「エルフのお嬢さん、お前の魔法で一気に吹っ飛ばせないのか?」
ガーランドの旦那も怖い事を言うなぁ。
……出来なくは無いが、大量虐殺はしたくないぞ。
「なあ。もうこの際、逃げてしまわないか? この国がどうなろうが、私達の知った事じゃないよ。ノスダイオとやらも死んだことだしさ」
「ちょっと、テルアイラ! フェイミスヤはどうするの!?」
「メグ、もう諦めろ。縁が無かったんだ——」
その時、背後から私の右肩にポンと手を置かれた。
恐る恐る振り向くと、にこやかな笑みを浮かべるガーランドの旦那がいた。
汚い! 汚いよ! そんな無言の脅迫なんて!!
いつでもお前の首を圧し折れるぞ、みたいな顔しやがって!!
「じゃあ聞くけどさ! 戦うと言ったら、お前達は力を貸してくれるのかよ!?」
「何を言ってるの? そんなの当たり前じゃない」
「メグさんの言う通りです。私達、ずっとパーティーを組んできたのですよ? ここまで来たらぶちのめしちゃいましょうよ!」
「わ、私も微力ながらお手伝いします! これ以上、獣人の同胞が酷い目に遭うのは我慢出来ません!」
思わずポカンとしてしまった。
メグはともかく、ユズリとミンニエリが戦う気満々だなんて意外だ。
「決まりだな。エルフのお嬢さんよ」
ガーランドの旦那の背後には、剣闘奴隷だった厳つい男達が揃っている。
殺る気満々ですがな。
「で、でもさ、相手はこちらの三倍近い戦力なんだぞ!? 気合いだけじゃ勝てないって!!」
「ふん。そんなのは俺と娘のメグで一騎当千の活躍をすれば問題無いだろう?」
うわぁ、このオヤジ簡単に言いやがったよ。
「ガーランドの兄貴! 俺達の事も忘れないでくだせえ!!」
「そうだ! 俺達だって一人で百人ぐらいは相手にしますぜ!」
「攻めて来る相手なら、遠慮なんて要らないしな!!」
こいつらの異様な士気の高さは、なんなのだろうな。
しかも銀魔狼まで不敵な笑みを浮かべてるし……。
「……分かった。みんなが力を貸してくれるなら、私も戦う。だが、私の指示で動いてもらうぞ!!」
こんな所で命を懸けてられるかっての。
やるなら徹底的に叩いてやる!!




