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60 あんなの全部口から出任せなんだよ!!

後半の後日談的な話は、時系列的にもう少し後なので削除しました。

「ああ、どっと疲れが出た……」


 何とか獣人達と人間達の衝突を誤魔化して先送りする事が出来た。

 夜も明けて日が昇ろうとしてるのに、なんで私がこんなに苦労しなくちゃならんのだ。


 思わずその場にへたり込もうとした時だった。突然、背中がゾワっとする。

 ガーランドの旦那の隣にいる銀魔狼も東の空を見て唸り始めた。

 怪光線が来る前も唸っていたが、まさかアレがまた来るのか!?


 その直後、東の方角に巨大な光の柱が立ち昇った。

 凄まじい魔力を感じる。先程の怪光線なんて目じゃない。


 その場の全員が身動きをするのを忘れた様に、光の柱に釘付けになっている。

 獣人も人間も関係無しだ。


「ねえ……テルアイラ、あれ何なの!?」


「またこっちに来ないですよね!?」


「ええい、メグもユズリも落ち着け!! 私だって分からんわ!!」


 本当に意味が分からない。

 あの光は古代魔法王国時代に存在したと記録される、地表を焼き尽くす業火なのだろうか。

 ミンニエリが獣人の少女達と抱き合って怯えている。

 私だって隠れて怯えたいよ!


 って、気付くとデインツァと四獣侯爵とやらの男達が情けない顔で私の事を見ている。

 揃ってこっち見んな!!


「おい、エルフのお嬢さん」


「何だよ、ガーランドの旦那」


「ここでダメ押しの一発だ」


「は? 私に何とかしろって言うのか!?」


 ガーランドの旦那が片目を瞑りながら親指を立てた。


 ふっざけんな!!

 みんな寄って集って私に丸投げしやがって!!

 分かったよ! やってやろうじゃないか!! これが終わったら、もう一切の面倒を見てやらないからな!!


 深呼吸して心を落ち着かせる。

 そして、怯える人々に大きく声を張り上げた。


「おい、みんな聞け!! あの光は獣人と人間が争った事による天の怒りだ!!」


 絶対に違うと言い切れるけどな。

 嘘も方便といった言葉が昔の本に書いてあった。

 きっと、こういう時の嘘をそう呼ぶのだろう。


「これは、我々に争うなという天の啓示だ!! 先程のデインツァの言葉に納得しない者もいるだろう! だが、神は争うなとおっしゃられた!! この意味が分かるな!? 我々は争ってはいけないのだ!!」


 光の柱を見て怯えていた民衆が一人、また一人と天に祈りを捧げ始めた。

 デインツァや四獣侯爵とやらも祈り始める。

 それを見たミンニエリ達、獣人も膝をついて天を仰ぐ。


 メグとガーランドの旦那も天に祈りを捧げている。

 あいつら、役者だなぁ。神なんて信じてないくせに。

 ユズリに至っては、エルファルド神とやらのシンボルを天に掲げて祈り始めていた。

 そういや、こいつは聖職者だったか。


 そうこうしているうちに光の柱が徐々に細くなり、消え去った。

 本当にアレは一体なんだったんだ?


 ……って、こうしちゃいられない!


「見よ、皆の者! 我々の祈りが天に届いた!! 神は我らをお許しになったのだ!!」


 光の柱が消滅した事により、人々は抱き合って喜んでいる。

 そこへタイミング良く朝日が差し込み、幻想的な光景がより一層場を盛り上げた。

 ちなみに断わっておくが、私は無神論者である。


「テルアイラさん、聖職者に転職したらどうです? 私、推薦状書きますよ?」


「エルフの聖職者なんて聞いた事もないぞ、ユズリ」


「もったいないですよう。あんな堂々と神の言葉を伝えられる人は滅多にいませんって! エルファルド神もきっとお認めになりますって! それに少ないですけど、エルフの聖職者もいますから是非やりましょうよ!」


「やかましいわ! あんなの全部口から出任せなんだよ!!」


「うぇ!? アレ全部ウソだったの? 私、テルアイラが神様の使いになったと思ってたのに……」


「メグまでもか!!」


 気付いたら、獣人達や街の住民達が私に向かって祈りを捧げだした。

 って、よく見たら本職の聖職者達もいるじゃないか!

 なんだか宗教の教祖になった気分だな……って、そんな場合じゃないっての!!


 そんな私の前にデインツァが現れた。


「さあ、皆の者! 彼女はこの混乱を鎮めるために遣わされた神のしもべである! 今こそ皆で力を合わせて困難を乗り越えよう!!」


 デインツァの野郎! どさくさに紛れて私をまつり上げるつもりなのか!?

 こっち見てウインクしてるんじゃないよ!! こんちくしょうめ!!


「ははは。取り敢えず上手くまとめたじゃないか、エルフのお嬢さん」


「ガーランドの旦那、私に恨みでもあるのか!?」


「なあに、素直に褒めてるんだよ。まあ、獣人と人間との軋轢あつれきはそう簡単には解消しないさ。またどうせすぐに争う事になるだろう」


「じゃあ、どうするんだよ? 無責任な事を言うなよな」


「あの獣人達は俺が森の集落まで連れて行く。もっとも希望する者のみだけどな」


「旦那に頼んでいいのか?」


「構わんさ。どうせフェイミスヤ国を復興するにも人手が足りないだろうし、彼等には働いてもらおう。そんでもって、この国に恨みを持つ獣人がここからいなくなり、この街の復興も容易になるだろう。どうだ? お互い万々歳だろう?」


「うわ……えげつないなぁ。アンタ、ろくな死に方しないぞ?」


「ふん。国を捨て、民を見捨てた時からそんなのは覚悟してる」


 おっと、今のは失言だったかな。


「それよりも、フェイミスヤの土地をちゃんと取り戻してくれ。お嬢さんには期待してるんだからな!」


「あ、ちょっと待て! それは娘に言えよ——」


 言い終えないうちに行ってしまった。

 まったく、本当なんなんだよ!!


「メグとユズリ。私、いい加減に疲れたから寝るわ。適当な時間になったら起こしてくれ……」


「駄目だよ、テルアイラ。みんな待ってるよ」


「そうですよ。向こうでデインツァさん達が呼んでますよ?」


 エルファルド神よ、あなたを信仰しますからどうか寝かせてください……。

 こうなったら神にでもすがりたい。


『ダメですよ。ちゃんと働いてくださいね』


 そこをなんとか……って、今の声は誰だよ!?

 いかん、いかん。とうとう幻聴まで聞こえる様になってしまったか。

 仕方ない。もうひと頑張りだ。


「おーい、デインツァ。私に何か用があるって聞いたんだが?」


「ああ。テルアイラ、あんたに今後の復興の手伝いをお願いしたい」


「は? 冗談も休み休み言えよな?」


「冗談では無いですぞ!」


 四獣侯爵とやらが口を挟んできた。


「ああまでも民衆を動かす力、是非ともこの国のためにお貸し頂きたい」

「今は非常時である。この国も一枚岩では無い。辺境から王位を狙った領主達が乗り込んでこないとも限らない」

「…………ぐう……すぴー。頼むにゃむにゃ」


 最後の奴、寝ながら人に物を頼むのか!?

 絶対におかしいだろ!!


 って、そんな事はどうでもいい。


「それで、報酬は?」


 その一言でデインツァ達が黙り込んでしまった。

 まあ、仕方ないよな。ついさっきまで地下に潜って生き延びていた奴らだ。

 正直、財産と呼べる物も持っていないのだろう。


「じゃあ、土地をくれ」


「土地だと!? テルアイラ、あんたこの国に住むのか!? それは願っても無い事だ。住む土地ぐらいなら何とかしよう!!」


 デインツァ達の顔がパッと輝いた。現金な奴だなぁ。


「あー、悪いけど違うんだ。魔王亡き後にドサクサで奪い取ったとされる、フェイミスヤの土地が欲しい」


 喜色満面だったディンツァ達の表情が固まった。


「なんだと……」


「どうせ、まともに報酬も出せないんだろ? だったら、フェイミスヤの土地をくれればいいんだよ」


「そうは言うが、俺の独断では……。それにあそこは、辺境伯が魔王軍から勝ち取った土地であって……」


「暫定国王は、お前だろ? どうにかしろよ。言っておくが、あそこの金髪の猫耳の二人は元フェイミスヤ国の関係者で無茶苦茶強いからな。機嫌を損ねたら、どうなるか……分かるよな?」


 半ば脅しである。

 こうまで面倒を掛けられたんだ。このぐらい言っても許されるだろ。


「そんな顔するなって、要望に応えてくれるなら私も復興に手を貸すからさ」


「この話は、一旦持ち帰って協議したい……」


「それでいいよ。後日レイデンシア王国側からも使者が来るだろうから、そいつに返答してやってくれ」


 まあ、なんとかなるだろう。

 その後、とんでもない事態が起きるとはまったく想像していなかった私は、のん気に考えていたのだった。

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