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58 突っ立ってないで、お前がどうにかしろ!!

「父上、母上、それに姉上、兄上。仇は取りました……」


 デインツァが血だまりの上に転がっている男を見下ろす。

 ゼルドレンとやらは、デインツァの剣に胸を貫かれて既に絶命していた。


「これで終わったのでしょうか……?」


「いや、まだだよ。ユズリ」


 メグが玉座の奥に目を向けた。

 明らかにこちらを窺う人の気配が感じられる。


「ねえ。そこの人達、隠れてないで出てきてよ。それとも私の方から行こうか?」


 メグが声を掛けると、少し間が空いてから返事が返ってきた。


「はははっ。バレてしまっては、仕方ないな」


 メグの呼び掛けに悪びれた様子も無く、五人の武装した男達が私達の前に姿を見せた。

 それぞれが違った装備なので、騎士や正規兵ではあるまい。


「お前達、何者だ!?」


 デインツァが剣を構えるが、男達は全く動じていない。

 むしろ余裕の表情だ。


「テルアイラさん。彼等は冒険者でしょうか?」


「それにしては、兵士みたいな雰囲気もするよね」


 戦いになってもすぐに動ける体制を崩さずに、ユズリとメグが男達を観察している。


「……多分、あいつらはプロの傭兵だな」


 西方諸国の一つに、国家間の紛争に傭兵を派遣して外貨を稼ぐ国があったはずだ。

 恐らく、こいつらもそういった類だと思う。


「へへっ。そこの姉ちゃんは鋭いなぁ。そうさ。俺達は金で雇われた傭兵だ」


 リーダー格らしい男が笑顔を崩さずに答えた。


 ……参ったな。こいつらかなりの手練れだぞ。

 一対一では楽勝だが、乱戦となるとどうなるやら。

 何だかんだで、連携の取れていない私達では苦戦するかもしれない。

 それに、デインツァを守り切る自信は無い。


「その傭兵が何の用だ!」


 そんな私の心配を知ってか知らずか、勇ましくデインツァが一歩踏み出す。

 すぐに動ける様にメグとユズリに目で合図する。


「おっと、待ちねえ。もう俺達の雇い主は死んじまったからな。……あんた達と戦う気はねえよ」


 男は血溜まりに突っ伏しているゼルドレンを一瞥いちべつすると、両手をヒラヒラさせて戦う意思が無い事をアピールする。


「ふん、よく言うよ。どうせ後ろで勝てる戦いかを見極めていたんだろ?」


「……本当に姉ちゃんは鋭いなぁ。正にその通りだよ。あんた達みたいな化け物と戦ったら命がいくつあっても足りねえや」


 金で動く傭兵だからこそ、無茶な戦いはしないってタイプか。

 雇い主との関係は悪化するが、自分達の裁量で動けるのは羨ましいな。

 今の私達は命令で動かなければならないのだから。


「ま、そういうこった。……じゃあ、俺達はこの辺でおさらばって事で——」


 あっという間に姿も気配も消えてしまった。

 まったく、気味の悪い奴らだな。


「あいつらの目的は何だったのだ……」


 ようやく剣の構えを解いたデインツァが大きく息を吐いた。


「そこのオッサンの用心棒だったんじゃないか? もっとも、雇ったのに見捨てられてお前に殺されてるんだから、本末転倒だけどな」


「用心棒として雇われたのに雇い主を助けないなんて、ひどい人達ですね」


「私は、ちょっと戦いたかったかな……」


「多分だけどさ、あの傭兵達は、雇い主のオッサンの人体実験とかを知って嫌気が差してたのかもな。私が同じ立場だったら絶対に見捨ててるし」


 ゼルドレンとやらは、それだけの事をやったのだ。

 正に自業自得だ。




「おー、こんな所にいたのか」


 のん気な声が聞こえてきたと思ったら、メグの父親のガーランドが魔狼の群れと共に玉座の間に現れた。


「あ、お父さん。こっちは終わったよー」


「そうみたいだな。それにしても派手にやらかしたみたいだな」


 ガーランドの旦那が周囲を見渡している。

 ゼルドレンとやらに近衛騎士団や宮廷魔導師達、それに哀れな実験体が転がっている光景は笑えない。

 こんなところに長居は不要だな。


「じゃあ、デインツァ。私達はこれで——」


「おい、待ってくれ!!」


 いきなりデインツァに捕まってしまった。

 不意を突かれたので、逃げる間も無かったじゃないか。


「何だよ。私達の仕事はもう終わったんだよ。お前も親の仇が取れて万々歳。これでいいじゃないか」


 メグとユズリもそうだと頷いている。


「俺に手を貸してくれたのは感謝している。だが、街の惨状はどうする? あんた達に全ての責任を負わせる気は無いが、全くの無関係って訳じゃないだろう?」


 まあ、確かに街は大変な事になっておりますな。

 そんでもって、それをやらかしたのはここにいるガーランドの旦那だ。


「むむ? その目は何だ? 俺に責任を擦り付けようってのか? 街に火を放ったのはサラマンダーだぞ。そんな危ない魔物を飼っていたこの国が悪いだろ。それに俺は暴れていた魔獣を狩ったり、逃げ遅れた住民を助けていたんだぞ。むしろ感謝されてもいいぐらいだ。この場合はテルアイラが責任を負う立場だろう?」


 ぐぬぬぬ……。

 ガーランドの旦那、正論ぶつけてきやがったよ。

 しかも寄り添っている銀魔狼までもが勝ち誇った顔をしてやがる。

 文字通りに畜生だよ!


「じゃあ、私達は行くね」


「後はテルアイラさんにお願いしますね」


「ちょっと待てい!! メグとユズリは逃げるな。お前らも一蓮托生だぞ」


「嫌だよー。面倒なのはテルアイラがやってよー!」


「そうですよう。この手を放してくださいよう!」


 こいつら……面倒な事を全部私に押し付けるつもりか!?

 死んでも逃がさないからな!!


 そんなこんなで、私達はヴィルオン国のクーデターによる混乱の後片付けを手伝う羽目になってしまったのである。


 取り敢えず城を出た私達一行は、ミンニエリ達が待っている収容施設へ向かう事にした。

 その途中で、急に背筋がぞわっとなった。

 物凄く嫌な気配を感じるのだ。どう説明していいのか分からないが、肌がピリピリするというか、胸騒ぎがするというか……。


「どうしたの? テルアイラ」


「東の空を見てますけど、何かあるんですか?」


「メグとユズリは何も感じないのか?」


 二人は首をかしげているだけだ。

 デインツァも訳が分からないといった顔をしている。

 しかし、ガーランドの旦那に寄り添っている銀魔狼が尻尾の毛を逆立てながら、私と同じく東の空を見て低く唸っている。


「お前は何かを感じたのか? 俺にはサッパリだ」


 ガーランドの旦那が銀魔狼の首筋を撫でるが、唸るのをやめない。

 やはり、こいつも何かを感じてる様だ。流石は動物の感覚というべきか。


 結局、妙な胸騒ぎの原因が分からないまま収容所に到着すると、広場が人でごった返していた。


「おいおい、何ごとだよこの人数は……」


 私達が唖然としていると、ミンニエリが手を振って駆け寄って来る。


「良かった! テルアイラさん達も無事だったんですね!」


「ああ。何とか片付いたけど、この状況は何なんだ? まるで被災者の避難所みたいだな」


「言葉通りですよ。兵士の皆さんや、剣闘奴隷だった人達の呼びかけと誘導で一時的に避難してきた人達です」


 よく見ると、兵士や剣闘奴隷、地下通路の隠れ家にいた男達に混じって収容施設で捕まっていた獣人の子達もが物資を運んで走り回っている。

 って、魔狼も普通に手伝ってるのかよ!?


「幸いと言っていいのか分かりませんが、この収容施設には食料や医療品等の備蓄が沢山ありましたので」


 まったく、おかしな物だな。

 ヴィルオン国の兵士と剣闘奴隷や魔狼までもが一緒になって救助活動をしてるし、先程まで檻の中で怯えていた獣人の子達も避難してきた人の世話で走り回っているのだ。

 その光景を見てデインツァが唖然としていた。


「どうした? デインツァ」


「この後、俺がこの国を立て直さないといけないと思うと、急に自信が無くなってきた……」


 知らんがなと突き放すのは簡単だけど、こいつも随分と重責を背負わされてるんだな。

 少しばかり同情してしまった。


「テルアイラ、私も手伝ってくるね」


「私も怪我人の治療に向かいます!」


 メグとユズリは、やる気になってくれて何よりだ。

 さてと。私も何かやらないと怒られそうなので働きますかね。


 そう思った時だった。

 突然、東の方角から光の筋が伸びて来たと思ったら、そのまま城を照らし、尖塔が消滅した。


 ……なんだあれは。


 いきなりの事で動けないでいると、またもや光の筋が収容所のすぐ近くを照らす。

 その直後、光の筋に照らされた場所が綺麗に吹き飛んだ。


 突然の事で周囲は大パニックだ。

 泣き叫ぶ人、逃げ惑う人でもう無茶苦茶だ。

 兵士や剣闘奴隷達が落ち着くようにと大声で呼び掛けているが、全く効果が無い。


 どうするんだよ、この状況。

 私だって逃げたい。だが、真っ青な顔で立ちすくんでいるミンニエリ達を見たら、そんな事を言ってられなくなった。


「大丈夫か、ミンニエリ」


「あ……は、はい。今の光ってなんですか!?」


「私にも分からん。ただ、とてつもない魔力だというのは確かだ」


 一体、東の方角では何が起きているんだ?

 あの光の筋がここを直撃したら大惨事になるぞ……。


 それはそうと、まずはこのパニックをどうにかしないと。

 それが出来そうな奴と言えば……あいつだ。


「おい、デインツァ! 突っ立ってないで、お前がどうにかしろ!!」


「そんな事をいきなり言われても……」


「お前はこれからこの国を治めるのだろう? ここでビシッと行かないでどうするんだよ。お前の声をこの場にいる全員に届ける魔法を使ってやる。お前の言葉で騒ぎを鎮めてみろ」


「……全く、好き勝手言ってくれるな」


 そう言って、私の挑発に対してデインツァが苦笑したのだった。

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