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53 同士達が待っている

 獣人の娘さん達の話では、この収容所の地下に何かの施設まであるらしい。

 何が情報を持って無いだよ。十分な情報じゃないか。


「テルアイラさん、どう思います? 彼女達が嘘を吐いてるとは思えないのですが……」

「私も嘘だとは思っていないぞ、ユズリよ」


「どうせなら、さっきの看守さんにも聞いてみたら? テルアイラってそういうの得意でしょ?」

「ほほう、メグのくせにいい事を言いやがる」


「その言い方は、いい加減に私も傷付くよ?」

「悪い悪い。じゃあ、ちょっと行って来るわ。ミンニエリは娘さん達の事を頼むぞ」


「お任せください!」


 後の事をミンニエリに任せ、私は看守の詰所に向かった。

 看守達は精神魔法で操った影響で呆けていて、全く私に興味を示さない。


「おい、お前。ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」


 手頃な一人を捕まえて頬を叩く。すると虚ろだった視線が私に定まる。

 丁度いいや。前に暇つぶしで作った新作の自白剤を使ってみるか。これは副作用も無く体に優しい自白剤だ。

 それにしても、体に優しい自白剤とかってよく分からんな。



 そうやって、その場の全員から情報を聞き出したのだが、先程の娘さん達の言っていた事と似た様な事ばかりで、彼女達の情報が正しいと裏付けされた。

 それ以外だと、この収容所の地下は研究所だとか、ノスダイオとやらは、ヴィルオン国王からの信頼が厚く、侵攻部隊の全権を任されているらしいとか、そいつらが『竜牙の谷』に侵攻したとか。


 ……これって、実は結構ヤバいんじゃないか?


 今すぐ王国に連絡を入れたいが、即時にやり取りできる通信手段を考えてなかった。

 私とした事が痛恨のミスだよ。まさか、このままグリフォン型ゴーレムで王国に戻る訳にはいかない。

 捕まっていた娘さん達の身の安全も確保しなくちゃならんし、どうしよう。





「お帰り、テルアイラ。何か収穫はあった?」


「ああ、それなりにあったのだが、マズい事になったかもしれない」


 メグ達に看守達から聞き出した内容を話すと、途端に顔色が変わる。

 全員が差し迫っている状況だと気付いたみたいだ。



「なあ、さっきの豹の子。お前さんが看守から聞いたのって、いつの話だ?」


「はい、確か三日前ぐらいだった気がします」


 ノスダイオとやらが動いてから、既に最低三日が経っているのか……。

 これはもう間に合わないかも。だが、知らせない訳にはいかない。

 私は使い魔のカラスを召喚した。滅多に呼び出さないのだが、い奴だ。


「テルアイラさん、そのカラスは?」

「その子、足が三本あるね」

「私が住んでる森でも見た事がありませんが、新種でしょうか?」


「これは私の使い魔だ。その昔に極東の国で契約したんだが、神の使いとも言われるカラスらしいぞ」


 実際、こいつは物凄く頭が良い。私のおやつを何度勝手に食べられた事だろうか。

 それはさておき、私は素早くノスダイオ侵攻の事等を手紙にしたため、使い魔の脚に括り付けて小窓から外に放した。


「頼むぞ」


 使い魔のカラスは一声鳴いてから飛び立ち、夜の闇に溶け込む。夜間でも余裕で飛べるのがあいつの強みだ。

 これで王都にいる後輩のマリアの元に向かってくれるはず。あの連絡が間に合うといいのだが……。


「テルアイラさん、使い魔なんて持っていたんですね」

「使い魔なんて役に立たないとか言ってたのにねぇ」

「可愛いです。使い魔さん」


「お前らに見せると面倒だから隠してたんだよ。それよりも、これからどうするかだよ」


 捕まっていた娘さん達が、不安そうな顔で私達を見つめている。

 この子達も安全に逃がしてあげなきゃならんが、街中を堂々と歩かせる訳にもいかない。どうするかなぁ……。


「よし、改めて私達がやる事を確認しよう。メグとユズリは分かってるな?」


「えっと、最優先の目標はヴィルオン国王だよね」


「そのためには、剣闘奴隷を解放して街中を混乱させるのですよね?」


「そうだ。その混乱に乗じて城に潜入だ……」


 自分で言っていて、かなり無謀に思えてきたんだけど。

 メグとユズリも同じ事を思っているのだろうが、ミンニエリや娘さん達の手前、不安をおくびにも出さないので助かる。


「あの、待ってください! 彼女達も助けるのですよね?」


「もちろんだ。ミンニエリ。だが、戦えない以上、彼女達には安全な場所にいてもらわないといけないのだが……」


 安全な場所なんてあるのかね。正直、足手まといだ。

 だからと言って、見捨てる訳にもいかない。参ったな……。


「ねえ、テルアイラ。この国に内通者って人がいるんでしょ? その人に協力を頼めないの?」


「確かにメグの言う通り、協力を頼めるのなら頼みたいが、会ってみないと分からんな」


「その言い方だと、テルアイラさんは、内通者の居場所を知っているのですか?」


「一応聞いているぞ、ユズリ。元々会うつもりだったので、今からそいつらの所へ行ってみようかと思う」


 そうと決まれば、善は急げだ。邪魔な奴隷の首輪を詰所から拝借してきた鍵で外し、出掛ける準備をする。


「あのう、ここからどうやって出るのですか? 高い塀に囲まれてますし、正門から出るのは、リスクが高いかと……」


「心配するな、ミンニエリ。そんなのは魔法でどうにかなる。ついでにこの鍵でお前達も首輪を外しておけ」


「は、はあ……」


 私は土魔法で壁に穴を開ける。こんなんじゃ警備も全く意味をなさないな。


「テルアイラ、私達は地下の研究施設ってのを調べてみるね」

「ああ、見付かって騒ぎにならない様に気を付けろよ」

「うん。任せて!」


 まあ、メグ達なら早々にドジを踏む事は無いだろう。

 私は風魔法と闇魔法を掛け合わせて自分の体に認識阻害効果を付与し、そのまま夜の街へ向かった。

 トルゲから仕入れた情報によると、前国王派は地下に潜んでいると聞いたが……この辺りだろうか?


 一見何の変哲も無い民家だが、情報によれば確かにここのはずだ。

 辺りに人がいないのを確認してから、ドアを六回ノックする。

 時間的にもう結構遅い気がするが、寝てるってオチは無いよな?

 しばらくして、ドアの内側から声が聞こえて来た。


「……納豆」


「ねばねば」


「……入れ」


 意味がよく分からんが、合言葉らしい。

 開かれたドアの隙間に素早く体を潜り込ませると、そこはがらんとした倉庫だ。

 私を招き入れてくれたのは、短髪で野生動物の様な印象を受ける男だった。


「お前の事は王都にいる同士から聞いている。だが、一応確かめさせて欲しい」

「あー、はいはい。これだろ」


 ドアを開けてくれた男に『王国の犬』の証である腕輪を見せてやる。この男は王国とやり取りをしている内通者らしいな。

 ちなみにこの腕輪は、私が王国を裏切った途端に腕ごと吹き飛ぶ仕掛けだ。

 まったく、こいつのおかげで逃げる事も出来なくなってしまったよ。


「確認させていただいた。同士達が待っている。こちらへ」


 男が床板を剥がすと、そこが地下室への入り口となっていた。

 まあ、お約束な入口だこと。そんな事を思いつつ、地下への階段を下る。

 階段を下り切ってから下水道の様な通路をしばらく歩きつつ、先行する男に声をかけてみた。


「ところで、あんた達に協力を頼みたい。可能か?」

「俺の一存では答えかねる」


 そりゃそうだよな。

 そんな事を考えてると、地響きの様な微細な振動を感じた。どこかで爆発でもあったのか?


「なあ、今――」

「ここだ」


 私が話し掛けるのと同時に、ドアの前で男が立ち止まる。

 聞きそびれたけど、まあいいか。


 男が開けたドアの内部に促されて入ると、正に隠れ家といった趣の空間が広がっていた。

 古めかしいシャンデリアに年代物の家具が並び、インテリアの騎士甲冑、魔獣の首の剥製、大きな酒樽に本物かどうか分からん宝箱まで無造作に転がっていた。

 これは大きな子供の秘密基地ですかね……。



「ほほう。そのお嬢さんですか」

「おいおい、そんな女で大丈夫なのか?」

「まさか、派遣の娼婦って事はないだろうな?」

「…………」


 中にいた男達の視線が一斉に私に向けられる。私が来る事を事前に知っていたっぽいな。

 それにしても、もっと歓迎してくれたってよくない? 仲間になるかもしれないんだからさ。


「私の実力を疑うのも仕方ないと思うが、奴隷収容施設から抜け出して来るぐらいは朝飯前だぞ」


 私は外した奴隷用の首輪を男達の前に放り投げた。


「何だって!?」

「あの難攻不落の施設からどうやって脱出したのだ!?」

「いや、不可能だろ!!」

「…………」


 男達が色めき立つ。

 そんなにヤバい施設だったのか? 結構簡単に抜け出せたんだけど……。

 それにしても、さっきから腕を組んでずっと無言の男は不気味だな。

 何を考えてるのか分からん。

 仕方ない。取り敢えず、部屋の空気でも和ませてみるか。


「ぴょんぴょん! 私、テルアイラだぴょん☆」


 自己紹介をするのを忘れてたので、名乗るついでにやってみたのだが、部屋の全員が無言になってしまった。

 失敗した。思いっきり滑ったわー。こんちくしょうめ。



「こほん。それはともかく、あんた達に協力を頼みにここに来たんだが……」


「我々も協力したいのだが、レジスタンス狩りで既に同士の多くを失っている。戦力としては考えないで欲しい」


 おいおい。戦えもしないのに王権転覆を狙ってるのかよ。


「まあいいや、元々戦力としては当てにしてなかったし。あんた達には収容施設で助けた子達を匿って欲しいんだが、頼めるか?」


「それなら可能だぞ」

「あそこは非人道的な研究をしてるとも聞くしな」

「道義で考えれば、捕まっている者達を助けるべきだろう」

「…………すぴー」


 さっきから腕を組んで黙ってる男が鼻ちょうちんを膨らませて返事をする。

 って、ただ寝てるだけじゃないかよ!!

 本当にこいつらで大丈夫だろうか。不安になってきたな。


「『王国の犬』のお嬢さん。それはいつ決行するのだ?」


 最初に私を案内してくれた男が聞いてきた。

 こいつは割とマトモそうだな。


「ノスダイオとやらが侵攻を始めてるらしいので、急ぎたい」


 私がノスダイオの名前を出した途端に部屋の空気が変わった。

 一体、どうしたのだ?


「あいつが動いたのか!?」

「あの男に我々の仲間が大勢殺された!」

「しかし、これは好機じゃないか?」

「…………ぐう……すぴー」


「お嬢さん、ノスダイオがこの首都にいない今、俺達にチャンスが巡って来たという事だ」


「そうなのか? だったら、今から助けた奴隷の子達を引き受けて欲しいんだが――」


 私がそう提案しかけた時だった。

 一人の男が息を切らして部屋に駆け込んできた。


「た、大変だ!! 街で剣闘奴隷達と対戦用の魔獣共が暴れている! それにあちこちで火災が起きているぞ!!」


 ……おいおい、何やってるんだよガーランドの野郎。

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