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52 じゃあ飯にするか

「いやあ、まさかこんな簡単にヴィルオンの首都へ入り込むどころか、奴隷収容所に入り込む事ができるなんて凄いよね!」


「メグさん、少し黙ってて下さいよ。看守に見つかったら面倒ですよ」


「もう、ユズリは心配性なんだからぁ」

「メグさんが無神経すぎるだけです!」


 現在、私達はヴィルオン国の首都にある獣人奴隷が集められている収容所の牢屋の中だ。

 自分でも、こうもアッサリと潜入できるとは思わなかったよ。


 先日、ミンニエリ達の集落で私達は、捕らえた獣人狩りの連中達と取り引きをしたのだ。

 その取り引きの条件とは、私達を奴隷に偽装してヴィルオンの首都に連れて行く代わりに命を助けてやるという物だ。

 奴らは、私達を奴隷商に売り飛ばし、その利益を手にした後は自由の身だ。十分すぎる報酬だろう。

 また悪事に手を染めるかもしれないが、獣人の集落で『教育』されたみたいで、『これからは心を入れ替えて真っ当に生きていきます』と彼等は瞳を輝かせていた。


 そんで、その結果がこの奴隷収容所への潜入だ。

 奴隷商に売られた私達は、まずメグの父親であるガーランドから引き離された。

 ガーランドは、目論見通り剣闘奴隷としてコロシアムに連れて行かれたみたいだ。

 あの男には、私達の合図を待ってから他の剣闘奴隷の解放を頼んでいる。

 いきなり解放しても街中が混乱するだけで、目的は達成できないからな。


 ……そして私達の真の目的は、奴隷の解放ではなくヴィルオン国王の失脚だ。

 依頼主としては、秘密裏に始末して欲しいそうだ。物騒な話だよ。



「それにしても、やっぱり違和感しかないですね。その耳」

「何だよ。ミンニエリまで私にケチを付けるのか?」


 今の私は、隠し持ってる魔道具でウサギ耳の獣人に変装している。

 失礼な事に、この国ではエルフの奴隷に商品価値があまり無いそうだ。他の国ならエルフの奴隷と聞いたら、真っ先に男共が群がるってのに。


「ぴょんぴょん! テルアイラだぴょん☆」


「は? 獣人をなめてません? テルアイラさん」

「何か今のすっごくムカつくんだけど」

「流石の私も、それはどうかと思うのですが……」


 ユズリとメグ、ミンニエリにまで蔑んだ目で見られてしまった。

 何故だ? 今のは完全にウサギっぽくて可愛かっただろ?

 私のお気に入りの少年といつも一緒にいるウサギ耳の少女をイメージしたのだが、まだ演技力が足りなかったか……。



「おい、そこの獣人ども! 何時だと思っている! 静かにしろ!!」


 怒鳴り声と共に看守が現れて、私達が押し込められている牢屋の鉄格子を乱暴に蹴った。

 慌てて私達はボロ布団に潜り込む。しかし、この布団が臭い。いや、本当に臭すぎるんだけど。

 そもそも、どこの誰が使ってたんだよ。

 臭すぎて卒倒しそうになるので、先日習得した洗浄魔法でこっそり綺麗にした。

 うむ、これで安眠できるな。


「ちょっと、テルアイラさん。自分だけ綺麗にしてズルいんですけど!」

「そうだよ。さっきから私なんか鼻が曲がりそうなんだからね!」

「わ、私はもう限界です……」


「うるさいなぁ。『洗浄』ほら、これでいいだろ」


「流石テルアイラさん、助かりました!」

「やっと落ち着けるね」

「スヤァ」


 まったくこいつらときたら、生活魔法の一つでもちゃんと使える様にしておけよなぁ。こういうのは属性とか関係無いんだから。

 心の中でボヤいていたら、誰かの腹が鳴る音が盛大に聞こえてきた。


「うぅ……すみません。お腹が空いてしまって」


 音の主はミンニエリだった。

 そういえば、この収容所に連行されてから水しか飲んでないな。

 奴隷の扱いがなってないぞって……奴隷とは本来そういう物なのかな?

 まあ、今はそんな事を考えてる場合じゃない。腹ごしらえが優先だ。



「じゃあ飯にするか」


「「「さんせーい」」」


 三人の顔が途端に笑顔になる。現金な奴らだなぁ。

 私は隠し持っていたアイテム袋から、食材やら調理器具に食器を取り出す。

 奴隷商に売られた際、持ち物は全て没収されたのだが、大事な物を隠しておくのは朝飯前だ。

 ちなみに、いつもの服や武器等もアイテム袋に入れて隠してある。


 取り出した魔道具のコンロに鉄板を乗せ、熱してから油をひく。

 それから既にカットしてある野菜やら肉を焼くのだ。後は、お好みで塩コショウで味付けして完成だ。

 手っ取り早いが、見た目はちょっと雑なのが難点。

 まあ、贅沢は言えないよな。旅の道中では凝った料理なんて毎回作ってられないし。


 辺りには肉や野菜が焼ける音と匂いが充満して、向かいの牢屋に入れられている獣人の娘達が物欲しそうにこちらを見ている。きっとここから見えない他の牢屋でも同じ反応だろう。


「テルアイラ。これじゃ、あの子達が可哀想だよ……」

「確かにメグの言う通りだな。お裾分けしてやるか」


「じゃあ、私が持って行きますね。ミンニエリさんも手伝ってください」

「え? はい……。でもどうやってですか?」


 ミンニエリの質問が終わらないうちにユズリが鉄格子の扉の鍵を叩き壊した。

 神の加護だそうだが、相変わらずとんでもない馬鹿力だよな。単純にパワーだけなら、メグを上回るんじゃないか?

 ユズリが同じ様に他の鉄格子の鍵を叩き壊して回っていると、匂いと音で気付いたのか、数人の看守達が飛び込んできた。


「おい、貴様らここで何をやっている!?」


 看守の男達が、普通に焼き肉パーティーをしている私達を見て唖然としていた。


「テルアイラ。せっかくだから、お誘いする?」

「いや、こんな奴らに食わす肉はないぞ」


 面倒なので、看守達を一旦殴り飛ばして精神魔法で操り適当に記憶改ざん。

 その後放流しとく。

 これで朝まで大人しくなってるだろう。


「テルアイラさん。いちいち配るのが面倒ですから、皆さんをお呼びした方がいいんじゃないですか?」


「ふむ、ユズリの言う事も一理あるな。ミンニエリ、他の皆さんをこの部屋に呼んでくれ」

「分かりました!」


 何だかんだで二十数名が集まってしまった。

 流石に私達の部屋には入りきらないので通路で食べる事にしたのだが、劣悪な環境だったのか、皆さん薄汚れていらっしゃる。

 これでは若い娘さん達には酷だろう……って、私も若い娘だぞ!



「よし、飯の前に風呂しよう!」


 獣人の娘さん達が何を言ってるのか分からないといった顔をしてるが、無視して空いた部屋に簡易風呂をセッティングする。

 これは高級タイプで、自動的に適温のお湯が浄化・循環されるという優れ物だ。

 ただ、ちょっと場所を取るのと、目隠しが無い屋外では使いにくいというデメリットがあるのだ。


 それにしても、本当にこのアイテム袋って便利だよなぁ。魔王から分捕った物だが、通常のアイテム袋よりも大量に物が入るし、食材も腐らない。ある意味、魔王様万歳だな。始末したけど。



「タオルと着替えはこっちに用意しておくから、先にお風呂に入っちゃって」

「着替え終わった人達から食べてくださいね。ちゃんと人数分ありますので、焦らなくていいですよー」


 メグとユズリが娘さん達の面倒を見ている間に、私はひたすら調理だ。

 それをミンニエリが娘さん達に配る。まるで配給みたいだな……。

 なんだか魔王軍との戦いで荒廃した街で見た光景を思い出してしまった。

 今回は、あの様な事にならなければ良いのだけど。



「ありがとうございます。あなた方達は神の使いでしょうか……」


「そんなんじゃないし、礼には及ばないぞ。私達だけでは食べづらいからな」


 泣いて礼を言う娘さん達の頭を撫でてやる。まったく、こんな子達をさらって何をするつもりなんだか……って、やっぱり実験だよな。

 以前、目の前で化け物に変えられて助けられなかった娘の事が脳裏に浮かぶ。

 嫌な事に、あの悲鳴が今でも耳にこびり付いているのだ。

 せっかくの食事なのに胸糞悪くなってしまったよ。



 娘さん達が一通り腹を満たしたのを確認して、改めて私達は自己紹介とここに来た目的を彼女達に告げる。

 それを聞いた彼女達は驚き、同時に泣いて喜んだ。その中にはミンニエリと同郷の者も含まれていたみたいだ。


「仲間が見つかって良かったな。ミンニエリ」

「はい。……でも連れて行かれた全員ではなかったです」


「そうか……」


 ここにいないという事は、そういう事なのだろう。私はミンニエリに掛ける言葉が思い浮かばなかった。



「ところで、皆さんはこれからどうされるのですか? 私達は戦力になれませんが……」


 ネズミ耳っぽい獣人の小柄な少女が不安げに聞いてきた。

 同じネズミの獣人でも情報をくれたトルゲとは大違いだな。


「そうだな。まずは情報が欲しい」


「情報……ですか?」


 娘さん達が、これまた不安そうにお互いの顔を見合わせている。


「私達は、お役に立てそうな情報を持っていません」

「せっかく綺麗にしていただいて、ご飯もご馳走になったのに、ごめんなさい……」


「あー。お前達、そういうのは気にしなくていいぞ。成り行きだ。それに情報と言ってもだ、ここで何か変わった事があったとか、看守達が何かを言っていたのかを聞いて覚えていたら教えて欲しい」


 再度娘さん達がお互いの顔を見合わせて相談を始める。

 そして、遠慮がちに一人の少女が手を上げた。


「はい、そこの虎耳の子!」

「……私、虎じゃなくてひょうです」


 そんなの分かんないですがな。


「テルアイラ、最低だね」

「所詮はエセ獣人ですよねー」

「私達、猫系の獣人にとって他種族と間違えられるのは屈辱なんですよ」


 知らないよ、そんな事。

 って、メグとミンニエリは普通の猫じゃないのか?

 下手に聞くと怖いから、聞くのは止めておこう……。


「すまん、それで豹耳の君は何か知ってるのか?」


「はい。この前、看守の人達が言ってました。『ノスダイオがリザード族部隊を引き連れてレイデンシア王国との国境に向かった』と。私には、何の事かは分かりませんが……」


 むむむ。ノスダイオとやらが何者か分からぬが、部隊を引き連れて越境するとなると、単なる部隊長クラスの人物とは思いにくいな……。


 それからは、豹耳の子と似た様な話の他に、『攻城兵器を準備していたらしい』とか『研究中の獣人兵の試作品二体を連れて行った』等と穏やかじゃない話まで飛び出したのであった。

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