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51 ありがとね、テルアイラ

「あれ? 帰ってくるのが結構早かったね」

「私、テルアイラさんに見捨てられたかと思いましたよ〜」


 メグ達が待つ集落に急いで戻ると、相変わらずマイペースなメグと、泣いて鼻水垂らすユズリに出迎えられた。

 何だかいつも通りな奴らで、少しホッとしてしまったのは秘密だ。


「エルフのお嬢さん、首尾はどうだったかな?」


 メグの父親のガーランドも出迎えにやってきたのだが、何故か傷だらけだ。

 メグと親子喧嘩でもしていたのだろうか?


「ん? ああ、これか。お嬢さん達が連れて来たミンニエリという娘との手合わせで負った傷だ。あの娘、中々の素質があるぞ」


 ガーランドは笑っているが、私が王国へ行っていた数日で、ミンニエリはそんなに強くなったのか。それは驚きだな。



「いえ、違うんですよ。テルアイラさん」

「どうした? ミンニエリ。強くなったんじゃないのか?」


 私が素直に感心していると、困った表情のミンニエリが何か言いづらそうにモジモジしている。


「あのね、テルアイラ。私のお父さんが寝ぼけてミンニエリの布団に潜り込んできたので、みんなで袋叩きにしたんだよ」

「メグさんが寝ぼけて女の子を襲っちゃうのは、遺伝だったんですね」


 話を聞いているだけで、頭が痛くなってきた。

 まったく、何をやってるんだよ。あの父親は……。

 そもそも寝ぼけてるにしても、女子の部屋に忍び込んでる時点でアウトだろ!


「はっはっは。ウッカリ愛する妻と間違えてしまってな! 実の娘に手出さなくて良かった良かった!」


 そういう問題じゃないよ。

 後ろで奥さんとメイドのアユルナが怖い顔してるから、ちゃんと各方面に謝っておけよな。


「それにしても、襲われた時のミンニエリの動きは凄かったよー!」

「確かに、あの身のこなしは流石でしたね。ガーランドさんをいきなり床に叩き付けてましたし」


 メグとユズリが素直に褒めているという事は、相当だったのだろう。

 ミンニエリは、追いつめられると本気を出すタイプだな。


「あの時は無我夢中で……」


「その割には、マウント取ってタコ殴りにしていたよね」

「いくらガーランドさんが寝ぼけていたからって、ああも一方的にボコボコにはできませんよ」


 うむ。その状況が目に浮かぶよ。それに私だって、いきなり襲われたら同じ事をする。


 そんな事もあったが、私が王国側から受けた指令や監視の腕輪を着けさせられた事を説明すると、メグは驚いていた。


「テルアイラ、ごめん。私達の事に巻き込んでしまって……」


「まあ、今更悩んだって仕方ない。どのみちフェイミスヤを再興しなくちゃならんのだろ? 王国が後ろ盾になってくれる事も約束してくれたんだし、さっさと済ましてしまおう。な?」


「うん……。ありがとね、テルアイラ」


 しおらしいメグを見てると何か調子狂うなー。


 こうして、私が仕入れてきた情報を含めた計画を元に、フェイミスヤ国再興計画が始まってしまった。

 もう今更、私には関係がないとは言えない状況だ。



「ふむ。ヴィルオン国の首都に潜入工作を命じるとか、レイデンシア王国の連中も粋な事を考えるじゃないか」


 屋敷の応接間でガーランドが子供みたいに目を輝かしている。そんなに乗り気ならアンタがやってくれよ。そもそもが、どうやって潜入すればいいんだよ。

 酒場で会ったトルゲから入手した情報を上手く利用するしかないだろうけど。


「ところで、ヴィルオン国にいるという内通者の人に頼んで潜入する事は出来ないのでしょうか?」


 おお、ナイス質問だ。ミンニエリ!


「ふむ。あいつらはそこまでは手を貸してくれない。その辺は自分でやってくれと」


 あくまでも内通者であって、協力者って訳では無いんだな。

 王国側と繋がりのある内通者とやらも、当てにできる様には感じなかったし。

 それに、そいつらを素直に信じて良いものだろうか……。


「普通にお城に『お邪魔しまーす』って行くのはダメなの?」


「メグさん、ただでさえヴィルオン国は獣人差別が激しい国ですよ。そんな事したら捕まっちゃいますってば! バカなんですか? バカはテルアイラさん一人で充分ですよ!」


 ユズリ、後でお前の食事に下剤入れてやるからな。

 それはそうと、確かに獣人を奴隷としている国と聞いたな。ミンニエリの集落にも獣人狩りが現れたぐらいだ。

 ……待てよ。それを逆手に取る方法もあるんじゃないか?


「いや、メグの案は使えるかもしれないな」


「テルアイラ、それどういう事なの?」


 メグを含めたその場の全員が私に注目する。

 よせやい。そんなに見つめられたら恥ずかしいじゃないか。


「何も知らない旅人の振りをしてな、『ヴィルオンの城下町で獣人の家族の連絡が途絶えた』とか訴えるんだよ」


「そんな事をしたら、余計に怪しまれませんか?」


「その逆だよ、ユズリ。向こうからすればカモが来たと思うだろう。きっと理由を付けて、私達を捕らえようとするだろうな。そこでわざと捕まるのだ」


「捕まってしまったら、終わりじゃないですか!!」


「落ち着け、ミンニエリ。獣人の娘が集められている施設があるらしい。恐らく、そこへ移送されるだろうな。もしかしたら、お前の集落で捕まった者もいるかもしれないぞ」


 まだ、実験材料にされていなければな……。


「そうか! そこで捕まっているみんなを助けるのですね!」


「どのくらいの人数が捕まっているか分からないが、全員を解放したら騒ぎになるだろう。後は、見せ物に使われる剣闘奴隷がいるはずだ。そっちも解放したい。下手な冒険者より強いだろう」


 物事はそう上手くいくか分からないが、解放した剣闘奴隷に武器等を与えて大騒ぎしてもらえれば助かるな。


「ふむ。その剣闘奴隷の解放とやらは、俺が引き受けよう」


 ガーランドが不敵な笑みを浮かべながら顎を撫でる。


「は? アンタ、私達に丸投げするって言ったよな?」


「こんな面白そうな話を聞いてたら、参加しない訳にはいかないだろう?」


 根っからの戦闘種族なんですかね。

 まあ、こいつが参加してくれれば千人力なのは確かだ。

 ただ、単独で動いてやらかしてくれる未来しか想像できないのだが……。


「お父さん、無茶しないでよ? 何かあったら、お母さんやユンファオが悲しむよ?」


「ああ、我が娘よ! 父であるこの俺を心配してくれるとは嬉しいぞ!!」


 ガーランドが嫌がるメグに頬ずりをしている。

 よくやるよなー。小さい頃に愛情を注げなかったから、今になってしてるのかもしれないけど。


 しかし、獣人差別の強い国の首都へ獣人の旅人として、入り込めるのだろうか。

 簡単に言ってしまったが、これは相当難しいぞ。

 どうにかして、堂々と入り込む方法は無いだろうか……。


 いや、堂々と入り込む方法があったな!



「ミンニエリ、お前の集落で捕まえていた獣人狩りは、まだ生かしてるか?」

「え? 多分、殺してはいないと思いますが……」


「よし、急いでお前の集落に行くぞ!」

「急にどうしたのですか!?」


「説明は途中でする! メグとユズリも早く行くぞ!!」


「あ、待ってよテルアイラ!」

「テルアイラさん、何か考えがあるんですか?」


「面白そうだな。俺も行くぞ!」


 こうして、メグの父親のガーランドも含めてミンニエリの集落へ向かう事になった。行きは歩きだったが帰りは駆け足だったので、かなり早く戻る事ができた。

 こういう時の魔力で肉体強化って便利だよな。




「ミンニよ、ようやく戻ったか! 無事にご案内できたか?」

「父上、その事でお話があります」


 集落へ戻ると、早速ライガのオッサンが出迎えてくれた。

 娘のミンニエリと何か話していたと思ったら、こちらを見つめている。

 ……私達じゃなくて、ガーランドだ。


 それに気付いたガーランドがライガの方へ歩み出る。

 ライガの方も、それに合わせて近付いてきた。

 ミンニエリが不安そうな顔で父親とガーランドを交互に見ている。

 これって、もしかしなくても一触即発……?




「お久し振りですな、ガーランド殿!!」

「ああ、ライガ殿も壮健で何よりだ!!」


 心配する私達をよそに、二人は抱き合って互いの背中をバンバンと叩いていた。

 何だよ。知り合いじゃんか。無駄に緊張感を醸すなよなぁ。

 一気に気が抜けてしまった……。





「ふんむ! その様な事がありましたか!!」

「ああ。面白そうなので、俺自ら乗り込んでみようと思う」

「それは何とも羨ましい! だが、ワシはこの集落を守らなければならぬ」

「代わりに暴れてくるよ」


 捕まえた人狩り連中の所へ案内してもらう道中で、私達がヴィルオンの首都へ乗り込む話をライガにも説明すると、オッサン二人が妙に盛り上がってしまっていた。 そんな父親達を見て、メグとミンニエリが苦笑している。


「さて、捕まえた者達はここですぞ」


 ライガが指し示した場所に檻があり、数人の男達が横たわっていた。

 私達の姿を見ると、怯えた様に飛び起きて土下座をし始める。


「た、助けて下さい!! 何でもしますから、どうか命だけは!!」

「申し訳ありません! もう二度としません!!」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!!」」


 私達がいない間に何があったのだろうか。ライガは笑いながら腕組をしているだけだ。


「本当なら私は、お前達を重要参考人として王都に連行するつもりだ」


 王都へ連れて行くと言ったら、男達がこの世の終わりみたいな顔をして固まってしまった。どうやら、拷問されて処刑されると思ったのだろう。


「そこで一つ取り引きをしよう」

「と、取引ですか……?」


「ああそうだ。私達をヴィルオンの首都へ連れて行ってくれないか?」


 男達はポカンと口を開けたまま、再度固まっていた。

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