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番外編 年明け

季節ネタです。時系列は気にしないでください。

「これより甘い考えは捨てて、この神社は戦場になると思って取り組んでください。油断すると……やられます」


 私達は今、王都から北西にあるルーデンの街に来ている。

 その街にある、極東の国が由来の『神社』なる宗教施設のような場所で、銀髪のキツネ女から年明け直前にこんな物騒な指示を受けているのだ。どうしてこんな事になっているかと言うと、遡る事、二日前……。





  ◆◆◆





「テルアイラさん、メグさん! このクエストを受けましょうよ!」


 年末も押し迫る中、レンファから遊んでるなら邪魔だと店を追い出された私達は、暇をつぶすために冒険者ギルドにやってきたのだ。

 クエスト掲示板を見ていたユズリが嬉々として、とあるクエストの張り紙を指差している。


「お前、こんな年末に仕事なんかするなよ。私は暖かい所でゆっくり酒が飲みたいんだよう」


「私は別に構わないよー。それに年末年始で困っている人がいるのなら、助けてあげようよ」


 メグのやつめ、優等生ぶってるんじゃないよ。

 何が悲しくて年末年始で働かなければいけないんだよ。

 まあ、一応はどんな依頼なのか見てやるけどさ。


「えっと、何々? 『急募・臨時巫女のアルバイト』だって?」


「なんだ。魔獣討伐じゃないの?」


 メグはあからさまにガッカリした表情を浮かべる。こいつはどんだけ戦いたいんだよ。



「皆さん、こんな年末にご苦労さまです。そのクエストは少し特殊でして……」


 受付嬢のサラが私達のところにやってきた。


「何か問題があるのか?」


「ええ。受注には冒険者ランクは問わないとされていますが、それなりに腕が立つ冒険者が求められています」


「なんだか変なクエストだね?」


「私は巫女服が着られるなら、どんな条件でも構いませんよ!」


 メグはともかく、ユズリはやる気満々だな。

 そんなに巫女服がいいのか? 前に少年の仲間のキツネ獣人の子が着ていたが、動きにくそうな服のイメージしかない。


「腕が立つって、別に戦う必要はないんだろ? そもそも街の中だし」


「私もよく分かりませんが、戦場に匹敵する状況になるかもしれないそうです。それでいて、そこまで報酬も良くないので、他の冒険者の皆さんは見向きもしませんでして……」


 ますます訳が分からん。


「巫女服のためなら、私は一人でも受けますよ!」


「ユズリが受けるなら、私も受けようかな。テルアイラも暇なら一緒にやろうよ?」


「う……」


 ユズリとメグが期待するような目で見てくるので、居心地が悪い。

 待てよ。この二人がいなくなれば、年末年始は私一人で自由だな。

 そんでもって、お気に入りの少年を誘って年末年始をエンジョイできるじゃないか!!


「よし、二人で行って来いよ。私は留守番してるから!」


「テルアイラさん。ひょっとして、あの男の子の事を狙ってません?」


 ぎく!

 ユズリめ、こいつ意外に鋭いな。


「ねえ、あの男の子が王都にいるって保障はあるの? 他の女の子達と出掛けちゃうんじゃない?」


 なんですと……。

 メグが残酷な現実を突きつけてきやがった。

 万が一、そんな事態になったら、私は一人で寂しく年末年始を過ごさないといけないのか!?

 それは悲しすぎる!


「ま、まあ、二人がそんなに言うのなら、付き合ってやらない事もないさ」


「まったく、テルアイラさんは素直じゃないんですから」


「でも、巫女さんって何をするんだろうね?」


 そんなこんなで、サラにクエストの受注処理をしてもらい、レンファ達には仕事をしてくると伝えて、そのままグリフォン型ゴーレムで王都からルーデンの街までひとっ飛びする。


 それにしても、レンファはとんでもなく驚いてやがったな。

 私が仕事をするのが、余程信じられないのかよ。

 ミラはメグにしがみつきながら、『来年は絶対にご一緒しますから』と言っていた。

 なんか東方で、来年の事を言うとオーガ(鬼)が笑うって言葉があったなー。


 ルーデンの街だが、『裏の冒険者ギルド』なる地区があって、普段は魔力が一定値以上無いと立ち入れない場所がある。

 なんでも大昔の内戦の名残らしいが、その地区に神社はあるのだ。

 最近は規制も緩くなって、年末年始等の特別な時期は、誰でも自由に立ち入れるそうだ。


 そんな地区の高台にある神社に向かうと、既に話が伝わっていたのか、巫女服姿の銀髪キツネ耳の獣人の女が私達を出迎えてくれた。



「お待ちしておりました。人が集まらなくて困っていましたので、本当に助かりました……げっ」


 キツネ女がユズリを見て、あからさまに嫌そうな顔をした。


「タヌキの獣人ですか……。ううむ、どうしましょう」


「なんだよ。ユズリがいると何か問題でもあるのか?」


 流石に自分の仲間が差別されるのは面白くない。

 そもそも、この依頼はユズリが一番楽しみにしていた物だからな。


「い、いえ。タヌキの獣人とは相性が悪いというか……」


「それは言いがかりだよ。ユズリはキツネの獣人と仲良くなってるんだよ? そうやって頭ごなしに決めつけるのは良くないよ?」


「それはごもっともですが……」


 メグの正論にキツネ女が戸惑う。余程、苦手意識があるんだな。

 そういえば、ユズリもいつだったか、少年の仲間のキツネの子と険悪になってたもんな。もっともあれは、ユズリから喧嘩を売っていたけど。


「あの、私どうしても巫女さんになりたいのです! 私がタヌキの獣人だから駄目なのですか!? 真面目にやりますからお願いします!!」


 ユズリが泣きそうな顔でキツネ女に頭を下げた。

 こいつがこんなにしてまで、他人にお願いするのは初めて見たな。そんなに巫女服が着たいのだろうか。


「……分かりました。真面目に取り組んでくれる方を差別するのは、よくありませんね。申し訳ありませんでした」


 キツネ女も自らの非を詫びて頭を下げる。

 まあ、なんだ。話し合いで分かり合えれば争う必要なんて無いよな。

 ユズリも満面の笑みで喜んでいる。


「申し遅れました。私はレイナと申します。ところで、あなた方は何者でしょうか? 詮索するのは失礼だと思うのですが、只者ではありませんよね?」


 このレイナと名乗った女、意外にあなどれないな。


「おっと、レディを詮索するのはマナー違反でなくて?」


「テルアイラがレディだって!?」


「流石に笑えない冗談ですよね」


 この二人は立派なレディの私に喧嘩を売ってるのか?


「重ね重ね失礼致しました。皆さんの素性は問いません。その戦闘力を存分に発揮してください」





 ◆◆◆





 そんなやり取りがあって、今に至るのだが、この神社とかいう宗教施設にどれだけ人が集まるんだよ!?

 年が明ける前から人がどんどんと集まって来ている。

 屋台の出店も多く、まるで祭りでも始まるのではないかといった空気だ。

 実際、初詣とやらは祭りみたいなものらしいが。


「テルアイラさん。私、ちゃんと着られてますか?」


「何回聞くんだよ。別におかしい所は無いって」


 ユズリは念願の巫女服姿になったというのに、さっきから気崩れていないか心配ばかりだ。


「なんだか緊張してくるね。このお守りやお札ってのを売ればいいんだよね?」


「メグナーシャさん。お守りやお札は『売る』でなく、『授与』ですよ。失礼の無いようにお願いしますね」


「ごめんなさい、レイナさん」


 銀髪キツネ女のレイナがメグをたしなめる。

 商売っ気の塊かと思ったが、意外に真面目な奴みたいだな。


「しかし、集まってる奴らは、みんなここの神を信じているのか?」


「そうではありませんよ」


「信徒でも無いのに、わざわざ来るのか?」


 はて? ここに集まっている奴らは改宗でもするのかしら?

 私は無神論者でもあるので、まったく理解できない。


「ここでお祀りしている神様は寛容なので、異教徒の方も受け入れているのです」


「はあ、そんなもんかねぇ……」


 そんな事を考えていると、遠くで花火が打ち上がり、聖堂の鐘が鳴り響いてきた。

 どうやら年明けのようだ。


 すると、一斉にお守り授与所に人が殺到してきた。

 どうやら縁起物として求めるそうだが、人が多過ぎない……!?



 地獄のような時間だった。

 ひたすら金を受け取り、お守りやお札を手渡す。

 それだけの事なのだが、人が途切れる様子がまったく無く、何も考えずに無心で作業を繰り返した。

 途中で頭が真っ白になって、なんだか気持ち良くなってきたところで、レイナに声を掛けられて我に返る。


「皆さん、お疲れ様です。そろそろ休憩してください」


 気づけば空が白み始めてるじゃないか。

 こんなにも無心で働いたのは初めてかもしれない。我ながら恐ろしい集中力だ。


「こういうのも楽しいね」


「私はまだまだやれますよ!」


 この二人はどれだけ余裕なんだよ。私は素直に休ませてもらうぞ。

 レイナが手渡してくれた甘酒とかいう飲み物をすすりながら、おみくじとやらを引いてみる。

 みんなこぞって引いて、一喜一憂しているので気になっていたのだ。


「んー? 大吉? これっていいのか?」


「それ一番良いくじですよ、テルアイラさん」


「良かったじゃん、テルアイラ。きっといい事があるよ」


 左右からユズリとメグが覗き込んで来た。

 お前らプライバシーを尊重しろよ。

 でも、年明けから幸先がいいのかな。今年は良い年になる事を願いたいものだ。


 そんな事を考えていたら、初詣客にあの少年の姿を見つけた。これがご利益って奴なのかな?


 早速私は少年の元へ向かうのだった。

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