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48 人生は修行だ! 精進せよ!

 あの男がメグの父親だって!?

 メグを一撃で沈めた男が悠然と構えている。一見、隙だらけに見えるがとんでもない。下手に手を出したら返り討ちにされる予感しかしない。


「参ったな。あの男、かなりヤバいぞ……」


「テルアイラさんもそう思いますか? 私達で勝てるでしょうか?」


 ユズリの問いに答えられなかった。

 あの男が戦闘狂と呼ばれる類の者なら、メグに飽き足らず私達も襲って来るはずだ。

 その証拠にとてもいい笑顔をこちらに向けている。ミンニエリに至っては、怯えて私の後ろに隠れてしまった。


 男が笑顔で右手をこちらに向けて近付いてくる。

 やられるっ……!

 そう思った瞬間、男が横殴りに吹っ飛んだ。その勢いで物置小屋みたいな建物に突っ込むと、小屋が倒壊した。


「私の仲間に手を出すなーっ!!」


 復活したメグが男を後ろから殴り飛ばしていたのだ。


「メグ!」


「メグさんっ!」


「あはは、ゴメンね。ちょっと油断しちゃった……」


 照れ笑いを浮かべながら、メグは吹っ飛んだ男に目を向ける。

 男は何事も無かった様に瓦礫の中から立ち上がって、いきなり殴り飛ばされた事に憤慨してる様子だ。


「お前! いきなり親を後ろから殴り飛ばすとはどういうつもりだ!! 俺は、お前の仲間に挨拶をしようとしただけだぞ!!」


 ……何だって?


「え? 襲い掛かろうとしてたんじゃないの? だって、右手で掴みかかろうとしてたじゃない?」

「挨拶の握手をしようとする者を殴り飛ばすのが、お前の常識か!?」


 私達は黙るしかなかった。だって、どう見てもあれは挨拶で握手を求めようとする姿じゃない。笑顔で殺しにくる奴の姿だよ。


 こうして一悶着あったが、改めて私達は自己紹介をする事にした。

 しかし、到着早々に騒ぎを起こした物だから、私達もすっかり周囲から奇異の目で見られてしまってるみたいだな。ミンニエリは私の背中に隠れっぱなしだ。


「改めて、俺はガーランド・フェイミスヤ。このメグナーシャの父親だ」


 メグの父親と名乗った男は豪快に笑いながら、横に並んでメグの肩をバンバンと叩いている。


「いきなり父親と言われても実感が湧かないよ。小さい頃に生き別れたんだから……」


 流石のメグもいきなりの父親の登場で戸惑っている様だ。

 でもこうやって二人並んでいると、どことなく似ているな。


「えっと、私はメグとパーティーを組んでいるテルアイラだ。よろしく」

「私はユズリです。同じくパーティーを組んでます」

「ミンニエリです。ただの隣の集落の娘で、戦えませんよ?」


 ミンニエリは、すっかり怯えてしまって耳を伏せてしまっている。

 せっかく自信を持ったのに、これじゃ最初からやり直しじゃないかよ。


「それにしても、お前が俺の闘気に反応してくれて嬉しいぞ。メグ」


「私は、いきなり戦うとは思わなかったよ」


「ははは。人生は修行だ! 精進せよ!」


 何かいい事を言ってる風だが、全然心に響かない。

 メグの父親を呆れて見ていると、メイドらしき女が私達の方へ駆け寄ってきた。


「メグ様ー!!」


「アユルナお姉ちゃん!」


「いらしたなら、誰かに一声掛けて頂ければ迎えに上がりましたのに……」


「あはは。いきなりお父さんに襲われて全身揉みくちゃにされて大変だったんだ」


 知らない人が聞いたら色んな意味で誤解を受けそうな発言だな。


「旦那様! 実の娘に何をやっておられるのですか!」


「ははは。娘の体に直に触れて発育を確かめるのも大事な親の役目だぞ」


 だから、知らない人が聞いたら誤解を招く発言はやめろって。


「まったくもう……。えっと、ここで立ち話はどうかと思いますので、家の方へどうぞ」


 呆れ顔のアユルナに案内されつつ、私達はメグの親が暮らすという家に向かった。

 そこは集落の中でも割と立派な家だ。亡国と言えど、王族として扱われているのだろう。


「イリーシャ奥様、メグナーシャ様がお帰りになられました!」


 アユルナが呼び掛けると、銀髪で線の細い獣耳の女性が現れた。この人がメグの母親なのか? あまり似ていないので、メグは父親似なのだろう。


「メグ……あなた、メグなの?」


「えっと、そうだけど……お母さん?」


 戸惑うメグとは対照的に、銀髪の女性は目に涙を浮かべながらメグを抱きしめた。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


「何で謝るの……?」


「私達、あなたを見捨ててしまった! 許してとはとても言えません。だからせめて謝らせてください……!」


 そうだよなぁ。戦乱の最中だったのもあるが、娘を他人に預けて自分達は逃げ落ちたのだ。見捨てたと言っても過言ではない。


「あの時は自分達が逃げるのが精一杯だったのでしょ? それは仕方ないよ。私を連れて逃げてくれた育ての親は優しくしてくれたし、別に恨んでないよ。だから泣かないで」


「うぅ……メグナーシャ……」


 泣き崩れる母親を優しく抱きしめるメグの姿を見て、ユズリとミンニエリの他、アユルナも目を潤ませている。


「ははは! これぞ感動の母子の再会だな!!」


 親父は空気読めよ。まったく、ライガのオッサンもそうだが、この手の父親はデリカシーが微塵も無いな。

 そんな事を考えていると家の扉からこちらを窺っている子供の姿が見えた。

 銀髪の獣耳っ子だ。


「おお、ユンファオ! お前の姉のメグナーシャだぞ! 挨拶をするのだ」


 メグの親父が声を掛けると、ユンファオと呼ばれた子が駆け寄ってきた。

 こちらは母親似の子だな。


「はじめまして、メグナーシャ姉様。僕はユンファオです」


 うむ。メグに似つかない礼儀正しい弟だな。

 それに将来有望だ。絶対美形になるぞ。


「えっと、私の弟……?」


「そうよ。メグナーシャ。どうか可愛がってあげて」


 母親に促されて、メグがユンファオの目線に合せてしゃがみ込んで頭を撫でている。こいつは妙に子供の扱いが手慣れてるんだよなぁ。そして、いつの間にか懐かれているのだ。


「そっか。私がお姉ちゃんのメグナーシャだよ。よろしくね」


「はい! よろしくお願いします!」


 うむ。麗しき姉弟愛だな。うなずく私の隣で、メグの親父も腕を組んで満面の笑みで頷いていた。


 それから私達は、メグの両親の家で改めて話をする事になった。

 本当は家族水入らずで話をさせたかったのだが、メグがどうしても私達にも同席してくれと頼むので、断り切れなかったのだ。

 ちなみに、ミンニエリとアユルナはメグの弟の相手をさせている。



「――とまあ、俺達の近況はこんな感じだ。他に何か聞きたい事はあるか?」


 私達の近況説明の後にメグの親父のガーランドが、フェイミスヤ国が滅んでからここに落ち延びてきた経緯を説明してくれたのだが、腑に落ちない事がある。


「どうしても気になるのだが、アンタはそんなに強かったのに何故、娘を他人に預けてまで逃げる必要があったのだ? それこそ敵を返り討ちにできただろうに」


 私の質問にガーランドが苦渋の表情を浮かべる。この親父でもそんな顔するんだな。


「守る者がいなくて自分一人なら刺し違えても敵の軍勢を滅ぼしてやっただろう。だが、俺は国王だ。民を守らなくてはいけない。こうしてこの集落に幾ばくかの国民を連れて逃げるのが精一杯だったのだ。助けられなかった者達に会わす顔が無い……」


 うつむくガーランドにメグの母親のイリーシャが寄り添っている。

 私はそれを見て少し安心した。この男は、ちゃんと王を務めていたのだな。


「それで、私をここに呼んだ理由を聞かせて。アユルナお姉ちゃんから、フェイミスヤ国の再建を託すみたいな話を聞いたのだけど……」


 メグが本題を切り出した。

 しかし、淡泊な奴だなぁ。せっかくの家族の再会だっていうのに、もっと感情的になっても良いと思うのだが。

 小さい頃に生き別れになったので、再会の感動も薄いのかもしれないな。

 まあ、こいつはいつもそんな感じだけどさ。


「そうだ。お前にフェイミスヤ国を再びおこしてほしい。俺達、獣人の国だ」


「何で今になって私に? ここで暮らすのじゃ駄目なの?」


「駄目だ。ここは伝手を頼ってきた地だ。俺達の土地ではない。あくまでも異邦人なのだ。だから、俺達には自分の国が必要なのだ。メグナーシャ、今のお前は高レベルの冒険者なのだろう? お前なら可能だ」


 随分と無茶な事を言ってくれるな。この父親は。

 メグが困ってしまって、私の方を見る。だからそんな目で見るなっての!


「またまた気になるのだが、アンタは腐っても元国王だろう? 何でアンタ自身が動かないのだ? それにメグより強いだろ?」


「うむ。良い指摘だな。エルフのお嬢さん」


 あらいやだ。お嬢さんなんて言われて思わずときめいちゃうじゃない。

 だけど、奥さんがいる相手との不倫は良くないよな。そもそもタイプじゃないし。


「俺は戦う事しか脳が無い。俺を支えてきてくれた者も先の戦いで死んでしまった。正直、今更国王なんて荷が重い。その点メグは良い仲間に囲まれているじゃないか。エルフのお嬢さんも、タヌキのお嬢さんも優秀なんだろう? 顔を見れば分かるぞ。そんじょそこらの娘じゃないってな」


「テルアイラさん、私が優秀な仲間ですって!」


 ユズリの奴は、すっかりのぼせ上ってるな。単純なのも程があるぞ。

 しかし、何が戦う事しか脳が無いだ。人の扱い方に手慣れている。

 危うく私もおだてられてのぼせ上るところだった。


「それは置いておいてだ。具体的に私達に何をさせようっていうのだ?」


 まったく、この男は食えない奴だ。私の問いに不敵な笑みを浮かべながら答えた。


「フェイミスヤ国の領地を奪還だ」

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