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43 ふんむ!

「テルアイラさん、この状況どうするんですか?」


「みんな痛そうだよ」


「私の頭の方が痛いぞ。なんせまともに脳天に打撃を食らったからな」


 結局、私が全員を頭突きで打ちのめしてしまい、みんな額を押さえて転がりながらうめいている。

 これは正当防衛だから、私は悪くないよな。

 そんな事を考えていると、リーダー格の女がよろめきながら立ち上がった。

 すごい涙目になってて痛そうだな。と言っても、私がやったんだけど。


「まだやるのか? 今度は絶対に真剣白刃取りを成功させてやるぞ」


 流石にもう一度食らったら、私のプライドに傷が付く。次は絶対に失敗はできないぞ。 そう思って身構えていると、突然女がひざまずいた。


「私の負けです。殺すなりなんなりしてください。でも、どうかあの子達の命だけは……」


 いきなり懇願されて、私達は呆気に取られてしまった。

 これは、あれか? 自分より強い相手には絶対服従的な風習って奴か?

 今回は私達が女だからいいよ? これが男だったら、どんな事をされるか分かって言ってるのだろうか。お姉さん、心配になっちゃうよ。


「ん~、どうすっかなぁ~?」


「ちょっと、テルアイラさん!?」


「可哀想だから助けてあげようよー」


「そんなのは分かってるよ。こういうのは駆け引きだ。ここで如何に優位に立って相手を利用してやるかだ。まあ、ここは私に任せておけ」


 文句を言う二人に小声で私の考えを伝える。

 というか、他の少女達が怯えた目で私を見てくるので、なんだか悪役になった気分になるな。


「よし、全員助けてやる。その代わり、私達をお前達の集落に案内しろ」


 お約束の相手に恩を売るって展開だ。これなら敵対せずに蛮族の事も偵察できるし、場合によってはメグの両親達の所にも案内してもらえる可能性だってあるぞ。

 私って、なんて頭が良いのだろう!


「テルアイラさんが暴挙に走らなくて良かったですよ」


「もし助けないって言ったら、テルアイラの事を見損なってたからね」


「そんな事するかっての。……で、お前達、返答はどうなんだ?」


 リーダー格の女を中心に獣人達が戸惑っているのか、何か話し合っている。

 こういった事態を予測していなかったのだろうか。


 ……お、ようやく話し合いが終わったみたいだな。


「私達は負けました。あなたの命令は絶対です」


「じゃあ、集落に案内してくれ」


「……ついて来てください。この先の森の中です」


 さーて、蛮族達の集落を拝見といきましょうかね。

 きっと、物語によく出て来るような大樹の樹上に集落があったりするのかな?

 私達はまだ見ぬ蛮族達の集落に胸を躍らせていたのだった。




  ◆◆◆




 ……どうしてこうなった。


 何故か私達は蛮族達に戦いを挑まれている。

 無事に集落に着いたのはいいよ。

 そこでさっきの猫耳女が集落の者達に私達の事を説明した途端にこうだ。


「何が私に任せろですか! 普通に敵対されちゃってるじゃないですか!」


「まあ、こうなる可能性はあるだろうなと薄々思っていたけど、お約束過ぎる展開で笑えるよな」


「ほら、二人とも、お喋りは程々にして。……来るよ!」


 メグの言葉と同時に私達を取り囲んだ獣人の男達が武器を手に襲い掛かってきた。

 流石に今度は私だけ集中攻撃って訳じゃ無さそうで良かった。

 それにしても、えげつない刃物だよ。あれじゃ真剣白刃取りをする前に首を刈られそうだ。


「もう! 女性三人相手に男性がそんなに大勢で襲って来るなんて、マナー違反ですよ!」


 ユズリがプンスカしながら襲い掛かって来た男の武器をメイスでフルスイングで粉砕しつつ、そのまま男を吹っ飛ばした。相変わらず馬鹿力だなぁ。


「いいね、そのスピード。でも私には当たらないよ」


 メグの方は、二刀流使いの剣裁きをいとも簡単にかわしながら、掌低しょうてい打ちで地面に叩き付けている。こいつも化け物だよ。



「エルフ女、お前がミンニ達を倒したのだな?」


 私の相手は、筋骨隆々でたてがみが立派な獅子の顔をした男だった。

 やっべ、なんか強そうなのが出てきたよ。というか、ミンニって誰だよ。

 さっき私が頭突きした女か?


「だったら、どうする?」


「お前の力を確かめさせてもらおう!」


 馬鹿正直に正面から突っ込んできた!

 こういうのは、避けても追い打ちが来たりするから、こちらも魔法攻撃で応戦だ。


風月刃ふうげつじん!」


 昔の後輩がよく使っていた技をパクってみた。まあ、ありがちな風の刃で切り刻む攻撃だ。それでもまともに受ければ、大怪我じゃ済まないぞ。


「ふんむ!」


 なんですと!? あいつ大胸筋で風の刃を受け止めたよ!!


「二の太刀! 三の太刀!!」


「ふんむむ!!」


 追撃も普通に受け止めてるんだけど!

 あいつ、おかしいだろ! かすり傷一つないんだけど!!


「こちらからもお返しである!」


 獅子男が大きく腕を横にぐと、私の足元に一直線の大きな裂け目が出来た。

 衝撃波かよ。思わず飛び退かなかったら危なかったぞ……。

 それから火炎弾や氷柱を撃ち込んでも全て大胸筋で受け止められた。

 あいつ、冗談抜きでヤバいな。


「ふんむ、ふんむ!!」


 物凄い圧の攻撃で、私は防戦一方に追いやられてしまう。

 強威力の魔法を撃ち込んでやりたいが、流石に魔法詠唱の隙を与えてくれない。

 まさかこんな筋肉ダルマにこうまで追い詰められるなんて……!

 ユズリとメグの方は、大丈夫なのだろうか。


 ……二人は座って私達の戦いを見物していた。しかも他の獣人達と一緒だし。いつの間に仲良くなってるんだよ。


「テルアイラさん、頑張ってくださーい!」


「その人を倒せば終わりだよー!」


 なんてこった。完全に見せ物になってる。


「俺はライガに晩飯を賭けるぞ!」


「じゃあ俺はエルフ女に賭ける!」


 獣人達が賭けを始めてしまっている。こいつらの間では戦いも娯楽なんだろう。


「逃げ回ってばかりでは、ワシに勝てんぞ。ふんむ!」


「くっそ、これならどうだ!? 雷撃!!」


 この前、学生の子が使っていた雷魔法をパク……拝借してみた。正直、雷系の魔法は得意ではないが、これなら受け止められないだろう。


「あばばばばばーーーーーー!!」


 予想通りに感電してくれた。これで倒れてくれればいいのだが……。


「ふしゅう~。流石にしびれたぞ」


 獅子男が口から煙を出しながら不敵に笑う。この程度の威力では、やっぱ効かないか。

 さて、これどうするかな。今更謝っても許してくれないだろうなぁ。

 かと言って、みっともない負け方はしたくない。

 やはり、ここは強威力の魔法を撃ち込むしかないか。いつもだったら、メグとユズリが時間を稼いでくれていたので、今更ながらパーティーの有難味を感じる。



「お返しだ。ふんむ! ふんむ! 噴霧ふんむーーーーーーーー!!」


 獅子男が口から霧の様な物を吐き出してきやがった。目くらましか!?


「出た! ライガの奥の手、噴霧だ!」


「奥の手と言う割には、意外とみみっちいよな」


「しかし、これでは俺達もどうなっているのか分からんぞ」


 くそ! 霧で周囲が見えない!


「ふんむ!」


 咄嗟に飛び退くと、先程まで立っていた地面が吹き飛んだ。

 声と気配で何とか攻撃を察知できたけど、これは結構ヤバいかも……。


「ほほう。避けたか。ではこれでどうだ?」


 気配を消しやがった……!?

 これでは獅子男の位置が分からなくなってしまったじゃないか!


 ──目で視るな、心の目で視ろ。


 受講していた通信講座のテキストに、そんな事が書いてあったの思い出した。

 静かに目を閉じる。そして、心を研ぎ澄ます。


「テルアイラ! 後ろ、後ろ!」


「違いますよ! 横ですってば! あ、右斜め前です!」


「そこの二人、ワシの位置をばらすな!! というか、なんでワシの姿が見えるんだ!?」


 ……お前ら少し黙れ。


「これで終わりだ! ふんむーーー!!」


「視えた!!」


 私は獅子男の拳を両の手の平で挟むように受け止めていた。

 やった! ついに白刃取りが成功した!!


「ふんむむむ……!?」

「これでも食らえーーー!!」


「ふんむギャーーーー!!」


 獅子男の顔面に会心の頭突きを決めてやった。

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