41 少年、お姉さんとお茶をしないか?
最近、私はすこぶる機嫌が良い。
今日もこうしてオープンテラス席で優雅に紅茶を飲むのだ。
「最近、テルアイラさんがずっとニヤニヤしていて気持ち悪いのですけど……」
レンファの暴言も気にならないぐらいに、今の私には心の余裕があるのだ。
そんな余裕に満ちた私の前でメグとユズリがヒソヒソと話し合っている。
「ほら、前にテルアイラが店先でベロベロに酔っぱらってた時に、男の子が介抱してくれた時だよ」
「そういえば、そんな事がありましたね。あの男の子って、前に模擬戦闘した時の学生グループの子ですよね? あれから何度か店に来てましたけど」
「うん。いくら年下がいいからって、学生に手を出してはダメだよね」
「テルアイラさんって、あんな年下の男の子が趣味だったんですね……」
さっきから黙って聞いていれば、この二人は言いたい放題言ってくれているが、今の私はとても寛大な心を有しているので許してやろう。
「ええ!? テルアイラさん、あの時のお客さんとそんな事を!? 確かに店の奥の休憩室に運んでくださいとお願いしましたが……」
レンファよ。そんな人聞きの悪い事を店先で大声で話す物じゃないぞ。
「休憩室に運んでもらった後に、あのお兄さんを襲ったのですか? ……汚らわしい」
ミラよ。何故そんなゴミを見るような目で私を見るのだね。
そもそも襲ってないからな。
「テルアイラ、やっぱり自首した方がいいよ?」
「そうですよ。冒険者仲間のよしみで私達が衛兵さんの所へ一緒について行ってあげますから……」
四人がジト目で私の事を見てくる。
流石に犯罪者扱いは、猫の額より広い心を持つ私でも我慢ならぬ。
「お前らさあ、私がそんな犯罪まがいの事をすると本当に思ってるのか?」
「うん」
「しますね」
「そう思います」
「しない方が信じられません」
思いの外、ショックだ。
品行方正で通している、この私が未成年の男子に手を出したなんて思われるのは心外だよ。
とにかくあの少年とは、あくまでもプラトニックな関係だ。
冒険者ギルドで初めて見掛けた時は、妙な気配がすると思ったのだが、私に優しくしてくれる良い少年だったのだ。
「お前らさあ、私に春が来たのだからもっと歓迎しろよ」
「それ本気で言ってるの?」
「今度、あの男の子にテルアイラさんから何をされたか聞いていいですか?」
「年齢差はいくつなのですか?」
「彼にとっては拷問その物ですね」
こいつら酷くない?
そんなに私に恋人が出来るのが妬ましいのか!?
まあ、元々モテるこの私だ。
負の感情をぶつけられるのは今に始まった事じゃないさ。
そう思っていると、店の前を例の少年が通り掛かる。
噂をすれば何とやらだ。
「少年、お姉さんとお茶をしないか?」
私が声を掛けると少年は驚いた表情を浮かべる。
きっと、私に出会えた事を嬉しく思っているのだろう。
「今、すごく嫌そうな顔してたよね」
「あれは油断していた所に不意打ちを受けた顔ですよ」
「あの人のお友達がこの店の常連になってくれてるんです。評判を落とす様な事をしないでくださいよ」
「でも、あのお兄さん優しいですね。嫌々ながらもこっち来てくれてます」
本当に何なのだ?
素直に祝福も出来ないなんて、心の狭い奴らだ。
きっと私と少年のラブラブな関係を見せつければ、見る目も変わるだろう。
◆◆◆
「あの男の子、すごく立派だったと思うよ」
「大変、我慢強い方でしたね」
「私、テルアイラさんの話にあそこまで付き合いきれませんよ」
「あの拷問を耐えきるなんて、鋼の精神を持つお兄さんでした」
「お前ら、どこをどう見たらそんな感想が出てくるんだよ! 私と少年が良い感じでお茶してただけだろ!!」
酷い、酷すぎる!
苦節、ウン十年。この私にもようやく春がやって来たのに何故みんな祝福してくれないのだ。
「それに、別れ際にハグしてただろ!!」
「あれはテルアイラが無理やりにしてたよね?」
「あの男の子、半分気絶してましたよ」
「私、かわいそうで見ていられませんでした……」
「いい歳して、みっともないと思わないんですか?」
ぐぬぬぬ! 少年と私の関係はそんな下世話な物じゃない!
見ていろ、今に吠え面をかかせてやる!!
それから少年を見掛ける度にお茶や食事に誘った。
彼は文句を言わずに私に付き合ってくれるのだ。
これはやっぱり、私に対しての気持ちは本物だよな!
今まで出会った男達は、食事をしても二回目は無かったのだから。
「驚いたよ。あの男の子、凄いね!」
「まさか、ここまでテルアイラさんに付き合えるなんて……」
ふふん。メグとユズリの奴め、私の事を見直すがいいさ。
「レンファよ。何か言いたそうだな? 称賛するなら今のうちだぞ?」
「あの人って、お付き合いしている女性がいますよね? 初めて店に来た日も、テルアイラさんの親戚の女の子が彼は恋人だって言ってましたよね? それに他の女性とも来店してたりしてましたよね?」
「いきなり何を言い出すのだレンファ! そんな事ある訳が……」
今まで敢えて触れなかったのに、現実を突きつけられた。
確かにあの少年が他の女と一緒にいるのを見掛けた事がる。
しかも、別の私の親戚も少年に助けられて付き合ってるとか言っていた。
「噂では、あのお兄さんって、主人公キャラのごとくハーレム状態って聞きますよ? それでもいいのですか?」
「ミラよ。私を心配してくれてるのか? だが心配は無用だ。他の女を蹴落として私が一番になればいいのだ!」
何だ。簡単な事じゃないか!
見ていろ! この私が素敵なお姉さん振りを見せつけてやる!!
四人がドン引きしているが、私は負けない!
◆◆◆
「それで、彼とは多少は進展したの?」
「私が見るに、何も変わってない気がするのですが」
「メグとユズリもうるさいな。この前、やっと手を握ったんだよ!」
二人が可哀想な人を見る目で私を見てくる。
くそう! 屈辱だ!
「私としては、テルアイラさんはそれでいいと思いますよ。恋愛に向いていない気がしますし」
「ハーレム展開はともかく、あのお兄さんは悪い人では無いと思いますから、普通にお友達として付き合ったらどうですか?」
「お前達、私にこれ以上の進展は無いと言うのか!?」
「はい」
「うん」
年下のレンファとミラにすら心配される私の立場って一体……。




