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40 晩御飯、冷たいね……

「みんな集まってー! 今日から院長先生達の代わりをしてくれるお姉さん達ですよー!」


 ミオリが呼び掛けると、子供達がわらわらと集まってきた。

 うむ。みな素直そうな子達ばかりじゃないか。


「ネコのお姉ちゃんだー!」

「タヌキのお姉ちゃん、ぱいおつー!」


 早速メグとユズリが子供達に囲まれてるな。

 だが、私だって子供の人気はあいつらに負けないぞ。


「ハナクソつけちゃう~」

「蹴り入れようぜ!」

「オラ! 腹パンチくらえ!!」


 解せぬ。何故か私ばかり集中攻撃を食らうのだ。


「おい! クソガキども!! 何で私ばっか狙って来るんだよ!!」

「わー! エルフババアが怒ったー!」

「逃げろー!」

「ひー! 犯されるー!!」


 まったく、なんてガキ共だ。

 しつけがなっとらん。


「あらあら、もうみんなテルアイラさんの事が気に入ったのね!」

「どこをどう見たら私が気に入られてると思うのだ、ミオリよ」

「子供って正直なのよね」


 この女、人の話を全然聞いちゃいねえよ。

 それから改めて、私達は子供達に自己紹介をした。


「それじゃ、お姉ちゃん達は冒険者さんなの?」

「そうだよー。悪い魔獣をやっつけたりしたんだよー」


 メグは精神年齢が低いのか、子供達と同じ目線で話しているな。


「私は回復魔法で仲間を助けたりしてました。後方支援ってやつですね」

「すごーい!」


 私はユズリの回復魔法の世話になった記憶が無いのだが……。

 というか、お前は後方支援どころか前衛で戦ってただろ。


「テルアイラはどうせ後ろで素材集めしてたんだろ?」

「あー、いるよね。クエスト中に討伐無視して素材集めに精を出す奴って」

「普通にブラックリスト入りだよな」


 こいつらは一体、何の話をしてるんだ?


「テルアイラさん、そうだったのですか? お二人の足を引っ張ってはいけませんよ」

「あのさあ、ミオリ。あんた私の事を何だと思ってるんだ?」

「おこぼれを貰う、ずるい初心者?」

「んな訳あるかい!!」

「あ、いけない! もうこんな時間! 申し訳ないですが、私はここで上がりなので後は皆さんよろしくお願いしますね! 食事は給食が届きますので心配しないでくださいね!」


 えー。全く人の話を聞かないで帰っちゃったよ……。

 しかも普通に子供放置するのかよ。

 普段は職員達が泊まるのだろうけど、今日は私達に泊まれというのか?

 そんな説明全く聞いてないんだが。


「今日はここで泊まりだね!」

「メグさんは寝ぼけて暴れないで下さいよ?」

「大丈夫だよー」


 えー。こいつら普通に泊まる気満々なんですけど……。


「テルアイラは俺達から離れて寝てくれよな!」

「あれは未成年者を狙う犯罪者の顔だぜ」

「犯されたくないよう!」


 えー。むしろ私の方が身の危険を感じるのだけど……。

 寝てる間に、ニードロップとか止めてくれよなあ。


  ◆◆◆


 日が暮れた頃、配達業者から給食が届いたのだが、当たり前の様に冷めている。


「晩御飯、冷たいね……」

「仕方ないですよ、メグさん。いつも出来立てを食べられる訳じゃないんですから」


 それを子供達は文句を言わずに食べていた。

 しかし、ここでは食事を調理しないのだろうか……?

 冷たい給食を食べているのは不憫ふびんになってくるな。


「あのね、ご飯を作ったりする魔道具があったのだけど、壊れちゃったみたいで……」


 私達の会話で察したのか、女の子がそう教えてくれた。


「その壊れた魔道具はどこにある? 見せてくれ」

「こっちだよ!」


 案内されたのは調理場だったのだが、魔力で加熱するコンロや食事を温める加熱器といった魔道具が作動しなくなっていた。

 これじゃあ調理も出来なくて、食事が給食になるはずだ。


「テルアイラ、壊れた原因って分かる?」

「魔道具の扱いはテルアイラさんは得意ですよね」

「ちょっと待て……。そうだな、動力源の魔石が古くて駄目になってる。新しいのと交換すればいけるだろ」


 古い魔石を全て新しい魔石と交換したら、無事に作動した。

 ここの職員達は、こんな事も分からなかったのか?

 それとも資金難で魔石の交換もままならなかったのだろうか……。

 何にしても、あの国王の顔を思い出したら腹が立ってきたな。

 まあいいや。予備として、いくつか魔石を置いておくか。


「ご飯が温かーい!」

「本当だー!」


 早速、食事を温めてあげたら子供達が喜んでくれていた。


「いざという時にテルアイラは頼りになるね」

「いつもこうだといいのですが……」

「二人とも、普通に褒め称えろよ」


 まったく、こいつらは私に対してリスペクトが足りない。


「テルアイラの事、見直したぜ!」

「単なる素材集めじゃなくて、レア素材集めだったんだな!」

「何かレアなトロフィー取得してるんだろ!?」


 よく分からんが、クソガキ達からの評価が多少は上がったみたいだ。

 それから風呂も補修したりと、あちこちを修繕したりていたら、既に寝る時間になっていた。

 この孤児院ではベッドではなく、広間に布団を敷いて寝るらしい。

 流石に男女で別れていたが。


「ねー、寝る前のお話をして!」

「冒険のお話がいいなー」


 子供達にねだられ、私達が話をしてやると意外に好評だった。

 もう寝てないといけない時間なのに、もう少しとねだられてしまう。

 そんなに私達の冒険話に興味をそそられたのだろうか。


「じゃあ、これで最後だ。聞いたらちゃんと寝ろよー」

「はーい」

「つまらなかったら、顔に落書きしてやるからな!」


 そういう事言われると、話す気が削がれるんだけどな。


「……ある日、私は山を登っていたのだ。その日に限って、近道をしたいと少し険しいルートを選んだ。そうして登っていると、いやーな臭いがしてきたんだ」


 私が話し始めると、子供たちは固唾を飲んで聞き入っている。

 メグやユズリまでもだ。


「そのまま進むと、いやーな臭いがどんどん強くなっていくのだ。そしてついに私は出会ってしまったのだ……」


 そこで一旦区切り、周囲の反応を窺う。

 みんな、ちゃんと聞いているみたいだな。


「もしかして、遭難した人の遺体とか?」

「メグさん、それ洒落になりませんよ!」


 そんな二人の会話を聞いて子供達が怖がっている。

 実際、そんなのをいきなり目にしたら私だって怖いわ!


「私がそこで目にしたのは、こちらに気付いた野グソ中のおっさんが慌ててズボンを穿いている姿だったのだー!!」


 あれ? なんか反応薄くない?

 気のせいか、みんな布団被っちゃってるんですけど……。



 そんな事があった翌日から私達は、孤児院の手伝いとして連日泊まり込み、子供達と生活を共にした。

 日中は子供達と孤児院周辺の清掃したり、子供達の勉強を見てやった。

 だが、子供達の識字率があまり良くなかった。

 子供達の年齢幅もあるだろうし、得手不得手もあるから教えるのは苦労するだろう。

 ちゃんとした教師に頼むべきなのだろうが、私達が中途半端に口を出す事では無い。


 就寝前はもちろん、私のスペシャルトークだ。

 何故かそれを聞いた子供達の顔から生気が失われていくのは不思議だったが。

 そして、四日目の夕方にミオリからもう結構ですと断られてしまったのだ。


「すみません。魔道具の修理や建物の修繕諸々は本当に感謝しています。でも、子供たちが生気の無い陰鬱な表情で孤児院の前を歩くので、近所の方達から心配されちゃうんです!」

「ほらあ、テルアイラが悪いんだよ」

「寝る前にテルアイラさんがあんな話をするから、子供達にストレスが溜まってるんですよ!」

「何だよ! とっておきのウンコ話のどこがいけないんだよ!」

「そういうところです!」


 ミオリに怒られてしまった。

 どのみち、明日からは院長や他の職員達も復帰するとの事で、私達はお役御免だったのだ。


「今夜で私達はお別れだ。達者で暮らせよ」


 寝る前に子供達へ告げると、子供達からは残念がる声と私のトークを聞かなくて済むといった喜びの声が聞こえて来た。

 まったく、失礼な奴らだな。


「このまま別れるのも寂しいので、この孤児院に『いいもの』を隠してやるぞ。見付けたらお前達の物だ。せいぜい頑張って探すんだな!」


 翌日、子供達との別れ際に挨拶代わりとして、いくつかの魔石を置いてきてやった。

 現金を置いて行こうかと思ったが、それもどうかと思うので、魔石にした。

 魔王軍の幹部を倒した時に入手した魔石だったけど、どうせ使い道も無いし金に換えるなりしてくれればいい。


「みんな、別れる時は泣いていたね」

「そういうメグさんだって、大泣きじゃないですかぁ……」

「まったく、お前らときたら別に今生の別れじゃないんだからさあ」

「そういうテルアイラが一番泣いてたじゃん!」

「そうですよ! いい歳してみっともないですよ!」

「ほっとけ!」


 まあ、短い間だったけど楽しい時間ではあったな。

 後日、ミオリから感謝の手紙と共に、私達の給金と子供達からの感謝状が届けられた。

 たまには、こういう事をするのもいいかなと思うのだった。

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