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4 そもそも私はそんなに歳食ってねえよ!!

お食事中の方に不適切な表現があります

 今日も私達は王都レトアデールにある宿屋、月花亭に併設されているオープンテラスで相変わらずグダグダしている。

 ヒマ人だって?

 あれだけ大変だったんだ。しばらくは遊んでたって罰は当たるまい。

 とは言うものの、この面子では既に飽きてしまった。


「ヒマ過ぎて死にそうだわー。二人ともなんか面白い話はないのか?」


 平和過ぎて刺激のある話に飢え始めてきた。

 そもそもいつも三人一緒だから最近あった事はお互いが認識しいてるので、変わった話題が無いのだ。


「面白い話ねー。何かあったかなぁ……」

「そんな事を言うならテルアイラさんが面白い話をしてくださいよ」


 ……まったくメグとユズリは頼りにならない。

 仕方が無い。いっちょ素敵な話をしてやるか。


「最近では減ったけどさ、男女共用トイレって前はよくあったじゃないか」


 余談だがこの王都はトイレが軒並み水洗で驚いた。

 ウォシュレットというのか?

 あれを初めて使った時は驚きと感動で飛び上がったものだ。


「え? いきなりトイレの話なの?」

「何だかこの先の展開が読める気がするのですが……」


「二人ともうるさいよ。それでだ。ある日の夜、私はそのトイレで用を足そうと足を踏み入れようとしたのだが、突然背後から猛ダッシュしてきた男がいたんだよ。私は思わず身構えた。トイレという密室空間で襲われたら堪らないからな」


「あーそれ分かるかも。いざその状況に遭遇すると咄嗟に動けなくて結構怖いよね」

「結構怖いよね、どころじゃないですよ! そんなの身の危険しか感じないじゃないですか!!」


「まぁそんな状況だ。流石の私も一瞬動けなくなったのだが、その男はそのまま私を無視して個室に入った。何のことはない。普通にトイレの利用者だったんだよ。気を取り直して私も隣の個室に入って用を足そうとしたのだが……」


「……したのだが? また何かあったの?」

「と言うか、その男の人の隣の個室によく入りましたね。私は男の人と隣同士なんて嫌ですよ」


「私だって好きで隣に入らないわ! そのトイレには個室が二つしかなかったんだよ。それで便器に腰掛けたその時だ。隣の個室から凄まじい炸裂音と臭いが漂ってくるじゃないか。その時の私はもう笑うしかなかったね」


「うん。自分の想像を超える事態に遭遇すると変な笑いが出るよね」

「ちょっと! 私このココア飲めなくなっちゃったじゃないですか!! どうしてくれるんですか!?」


「そんなの気合いで飲めよ。……それで思わず大笑いしてたら隣の個室から『聞かないで~』と情けない声がしてきて余計にゲラゲラ笑ってしまって全然用が足せなかったという話だ――」


 そこまで話した時、後頭部に強い衝撃を感じた。


「また汚い話をしてる!! 店でそんな話しないでくださいって何度言えば分かるんですか!!」


 レンファにまたお盆で殴られてしまった……。

 客に暴力を振るうなんて見下げ果てた店員だ。

 だがこれも全てヒマなのが悪いのだ。


「まったくもう、女性なんだからもう少し女子っぽい話でもしたらどうなんですか?」


 プンスカ怒るレンファが無茶振りをしてくる。

 この面子で女子っぽい話が出来るかっての。


「そういうレンファだったら女子っぽい話って何があるの?」


 珍しくメグがまともな質問をする。

 ただの脳筋ではないところを見せてやれ。


「え? 私ですか!? ……そうですねぇ。好きな異性のタイプ、とかですかね」


 可愛らしく頬を染めやがって。

 お姉さんにもそんな時代はあったぞ。……多分。


「好きな異性のタイプですか。私だったらやっぱりお金持ちで養ってくれる人ですね。イケメンなら尚の事良しです」


 おいおいユズリよ。お前は普通過ぎてつまらん。

 もっと夢を持て。


「え~、だったら私は……自分より強い人かなぁ」


 メグよ。勇者すらボコったお前より強い男はそうそういないぞ。

 もう少し理想を下げろ。


「やっぱりそうですよね! 強くてお金持ちの男の人がいいですよね!!」


 レンファがキラキラした目で二人の話に相槌を打つ。

 ダメだぞ、こんな奴らの話を真に受けたら。


「それでテルアイラはどうなの?」

「私達だけ話させて自分はだんまりだなんてズルいですよ!」

「ウケ狙いは駄目ですからね!!」


 レンファに釘をさされてしまった。

 仕方がない。自分に正直になろう。


「私は……年下の男の子がいいな」


 キャッ! 言っちゃった!


「はぁ!? それ……冗談だよね?」

「年下ってテルアイラさんからすればそこで歩いてるおじいさんだって年下じゃないですか……」


「うるせえよ! 本気だよ!! 年下って実年齢じゃなくて外見年齢だから!! そもそも私はそんなに歳食ってねえよ!!」


 くそ、真面目に答えるんじゃなかったよ。


「ちょっと意外です。テルアイラさんも可愛いところがあるんですね」


 レンファがめっちゃ笑顔だよ。

 ……でもまぁいいか。少しは暇つぶしにもなったし。


「でもさ、外見年齢って言ったってエルフや長寿の種族以外だったらすぐに追い越されちゃうんじゃない?」


 やけに今日のメグはまともな質問をしてくるな。


「その度に新しい男をとっかえひっかえするんですか? 最低ですね」


 ユズリは私の事をビッチか何かだと思ってるのかね。

 せっかく笑ってたレンファが引いてしまったぞ。


「そんなのは簡単な事だ。ユグドラシルの雫をダーリンに飲ませれば即解決だ。瞬時に若返るぞ!!」


「うわぁ……本気で言ってるのかな?」

「ちょっと流石にそれは夢見すぎですよ」


 こいつら本当に失礼な奴だな。


「あの、ユグドラシルの雫って何ですか?」


 レンファが不思議そうに首をかしげる。

 冒険者でもなければ知らないのも無理はないか。


「ユグドラシルの雫はこの世に存在すると言われている万能薬なんですよ」

「あの西方の魔王ですら見つける事が出来なかったんだよね」

「へえ……そうなんですか。勉強になります」


「私は薬の存在を信じるぞ。親戚の薬師の夫婦も世界を飛び回って探しているんだ。この世界のどこか絶対あるはずだ」


「テルアイラもたまには真面目な事を言うんだね」

「私、少し見直しました」


 こいつら本当に失礼な奴だな。


「もしその薬が見つかったらすぐに使っちゃうんですか?」

「そんな事はないぞレンファ。高位の薬学スキル持ちに解析させ、しかる後に量産して儲けるつもりだ!」


 一回きりのアイテムなんて使ってしまったらもったいないにも程がある。


「うわぁ……やっぱりいつものテルアイラだね」

「ほんの少しでも見直してしまった自分が馬鹿みたいです」

「何だか色々と台無しですね」

「うるせえよ!! こっちの気分が台無しだこんちくしょう!!」


 そんなこんなで今日も平和な一日だ。

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