39 物理的に潰すつもりだよ?
王都へ戻ってからも大変だった。
王都の冒険者ギルドのギルドマスターの爺さんに報告後、そのまま城へ連行されるように連れて行かれた。
そして、取り調べの様な尋問を受けた後にまさかの国王との謁見が待っていた。
「いやあ、あそこで王様が出てくるとは思わなかったよね!」
「私も驚きましたよ。でも良かったです。テルアイラさんが国王陛下に変な事しなくて」
「あ、私それちょっと期待してたんだ。テルアイラなら何かやってくれるんじゃないかって」
城からの帰り道、私達は国王の謁見について盛り上がっていた。
それにしても黙って聞いていれば、この二人は……。
「お前ら私の事を何だと思ってるんだよ。私だって空気は読むぞ。仮にあそこで何かやったとしても、無事で済むと思っているのか?」
「あー、確かにそうだね。特にあの目つきの悪い護衛の人、強そうだったもんね」
「それに同席していたお妃様達。彼女達も只者じゃなかったですね」
「その妃達の後ろに控えていた姫達とそのメイドもだろ。あいつらもかなりのくせ者だぞ」
あれは、国王からの労いに見せかけた私達への恫喝だった。
まさか私達の正体が思いっきりバレているとは。
まあ、この王都に来て色々やってたし、目を付けられない訳が無いか。
「でも、さらに驚きましたよね。私達に密偵になれって」
「うん。物語に出てくる主人公みたいで面白いよね」
「面白くねえよ! 勇者をボコボコにした事については目をつぶるから取り引きしろって。まったく、どうするんだよこれから」
本当にどうするんだよ。あのバカ勇者はこの国の王子だと言うじゃないか。
そいつをボコボコにして放置してきたんだ。下手したら縛り首だ。
だが、あの国王は他国の王女にうつつを抜かす奴が悪いと切り捨てた。
それで後ろめたい私達に、王子を半殺しにした罪に問わないから密偵になれと持ちかけて来たのだ。
有無を言わさないつもりか、今回の件で過分な報酬も押し付けられた。
「私は人に使われるのが嫌で冒険者になったんだけどなぁ……」
「その割には、接客業とか多くやってなかった?」
「でも結局は、店長をボコボコにしたりして終わってましたね」
「うるさいよ」
でもちょうどいい。しばらく腰を落ち着けられる場所が欲しかったんだよな。
でもって、適当に仕事をしてる振りして過ごそうと思ったのだが。
「まさかのヴィルオン国を調べろってな……」
「私にとっては都合がいいね。悪事を暴いて国を潰しちゃえばいいんだし」
「メグさん、それ冗談に聞こえませんよ」
「ん? 物理的に潰すつもりだよ?」
「えぇ……」
ちなみに、メグの出自を国王は既に知っていたみたいだ。
それを踏まえてのヴィルオン国の話だったのかもしれないな。
今回の化け物騒ぎは、決定的な証拠は見付からなかったが、隣国ヴィルオンが関わっていた可能性が高い。
指令が下り次第、潜入してその内情を調べろというのが私達に課された任務だ。
内情を調べろとは言うが、実質、実力行使の事だ。私は暗殺とか嫌だぞ。
もっとも、まだまだ主だった証拠集めには時間が掛かるそうで、外堀を埋めていく段階らしい。
そうなると私達はまた暇になる。
こんな事ならリューミア達を待たせて、一緒にセルドレの街へ行けば良かったな……。
◆◆◆
「お仕事を終えて戻ってきたのはいいですけど、何でまたそんなグータラなんですか!」
いつものオープンテラスに座っていると、レンファに文句を言われた。
一応は私、客なんだけど。
「放って置いてくれよ、レンファ。私は疲れてるんだよー」
「そんな事を言って、もう一週間ですよ! 遊んでないで少しは働いたらどうなのですか!?」
「メグー。レンファが酷い事を言って来るー。助けてくれー」
「えっと、私も助けて欲しいんだけど……」
「やっとメグ姉様が帰ってきてくれたんだもの。もう放さない」
私の前に座るメグは、宿屋『月花亭』に帰って来てからミラにずっと抱きつかれている。
まあ、こいつのは自分で蒔いた種だ。自分でどうにかしてくれ。
「二人とも、いい加減にしたらどうですか? 私だってお店の手伝いをしてるんですからね!」
「だったら、ユズリが助けてよー」
「知りませんよ!」
「テルアイラ、ユズリが冷たいよー」
「知らんがな」
そんなこんなで、いつもの日常を過ごしていた私達の前に、見た事のある女の子がやってきた。
いつだったか、露出狂男の事件で助けたメリアという犬耳の獣人の子だ。
「メリア、どうしたの?」
「あの、レンファちゃんにこんな事を相談するのはどうかと思うのだけど、また助けてほしいんです」
その割には私達の方をチラチラと見てくる。
「まずは話を聞かせて?」
「うん。あのね、うちの近くに孤児院があるのだけど、そこの院長先生達がお休みする事になっちゃって、人出が足りないの。それで誰か手伝ってくれないかなぁって……」
だから何で私達の方を見てくるんだよ。
「そういうのは、ギルドなりどこかに依頼を出すのが普通なんじゃないか?」
「そうなのですが……」
「テルアイラさん。孤児院は国が運営していて、人を余分に雇うお金は無いんです。だからギルドに頼めないのですよ」
レンファがそう説明するが、そもそも国が運営してるのなら、その辺はもっとしっかりしてるんじゃないのか?
まったく、あの国王も妃ばかり増やしてないで、もっとこういうった事に力を入れろよ。使えない男だな。
「じゃあ、私達で助けてあげようよ。どうせテルアイラもヒマなんでしょ?」
「メグさん、それは良い案ですね。私達はこの前の報酬で懐も温かいですし、この王都の人達の助けになる事をしましょう」
うわあ、勝手にやる気になってるし……。
「メグ姉様、後の事はこのミラにお任せください。メグ姉様の留守は守って見せます!」
「うん。お願いね、ミラ」
あれ? これ本当にやる流れになってない?
「良かったね。メリア」
「うん。優しくて素敵なお姉さん達で良かったよ!」
だから何で私の方をチラ見してくるんだよ!
「あー、分かった分かった。超絶美人で優しくて素敵なお姉さんが手伝ってやるよ。今から行くんだろ? 案内してくれ」
「ありがとうございます!」
そう言ってメリアはニッコリと微笑んだ。
うーむ。簡単に乗せられた気もしなくもないが、正直、リューミアとルーミの事が気になって仕方が無かったんだ。
気分転換に仕事をするのも悪くはないか。
孤児院はレンファの店からは、そう遠く離れた場所ではなかった。
そして、予想に反してそれ程荒れた場所でもなかった。
よく物語だと、孤児院は荒れ放題で貧困にあえいでいるイメージなのだが。
「ミオリさーん! お手伝いしてくれる人を連れてきました!」
メリアが呼び掛けると、薄化粧だが妙に色気のある女が出て来た。
年は三十前後か、こちらも犬耳の獣人だ。
「この方達が、お手伝いをしてくれるの?」
「はい! しかも無給で!」
うわあ、言い切ったよこいつ。
しゃーない。ボランティアとして働かせていただこうじゃないか。
「ありがとうございます! 本当に助かります! 申し遅れました、私ここの手伝いをしているミオリです」
ミオリと名乗った女がペコリと頭を下げる。その脇には不安げな表情で私達を見つめる子供がいたので、笑い掛けてやると建物の奥に逃げて行ってしまった。
私の美しさに恐れをなしたに違いない。
「えっと、私はメグナーシャ。メグと呼んでください」
「私はユズリと申します」
「超絶美しいテルアイラ様だ!」
「あ、これは無視していいからね」
「この人は、いないと思ってください」
「はあ、そうですか」
「ちょっと待てい! お前ら!!」
危うくいない人扱いされるところだった。
まったく、こいつらは冗談が通じなさ過ぎだ。
それからメリアと別れ、ミオリに孤児院を案内してもらう。
そんなに大きな建物でなく、子供達も十数人といったところだろうか。
「それで院長やら職員が働けなくなったとか聞いたが、どういう事なんだ?」
「院長先生は腰を痛めてしまい入院、他の職員さん達も食中毒や失恋で寝込んでしまってるので、あなた達が来てくれて本当に助かりました!」
「ちょっと待て。他はともかく失恋は甘えじゃないか?」
「それじゃあ子供達を紹介しますね」
この女、普通にスルーしやがったよ。




